言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演

2011-05-28 | 日記
田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.43 )

★多極的協調の時代へ(2009年7月21日)

 米国のヒラリー・クリントン国務長官が7月15日、外交問題評議会(CFR)のワシントン支局で行った演説は、国務長官として米国の外交戦略全般について語った初めての演説だった。演説では、EUや日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンなどを主要同盟国(bedrock alliances)として重視しつつ、その一方で中国やロシア、インド、ブラジル、トルコ、インドネシア、南アフリカといった新興諸大国が、世界的な諸問題を解決する際の米国の完全なパートナー(full partners)になれるように協力すると述べている。対米従属的な既存の新米諸国だけでなく、冷戦的な構造下で反米や非同盟に属していた、米国のいうことを聞かない国々とも、同盟に近い関係を築きたいという表明だ。
 そして、国際影響力を持つ国家や非政府組織が増える中で、米国はそれらと対立するのではなく協調し、国際的な諸勢力が相互に対立するのではなく協調しあう体制を目指すとしている。クリントンは、この新たな世界体制を「多協調型世界(multi-partner world)」と呼び、世界のバランスを、各極間が対立し合う多極型世界(multi-polar world)からひきはなし、多協調型世界の方向に持っていきたいと述べている。
 Foreign Policy Address at the Council of Foreign Relations
 http://www.state.gov/secretary/rm/2009a/july/126071.htm

 クリントンの演説は、いくつかの点で重要だ。その一つは、今の世界がすでに多極型になっていることを認知したことだ。中国、ロシア、インド、ブラジルというBRICとの協調が不可欠であることをオバマ政権の高官が公式に認めたのは、私の記憶の範囲内では、これが初めてである。
 クリントンは、多極型世界とは各極が対立する世界であると言っているが、現実の多極型世界は、それほど対立的ではない。それぞれが地域覇権国(極)になりつつあるBRICの4ヵ国は、対立点はありつつも、全体として協調体制を作っており、定期的にサミットや外相会談を開いている。
 EUも一つの極であるが、中露などとの関係は悪くない。EU内では、英国は戦略としてロシアとEUの敵対を欲しているが、独仏はロシアと協調したい。
 多極型世界は、すでにクリントンのいう「多協調型世界」になっている。クリントンが対立的に提示した二つの世界型は、そもそも対立的なものではない。クリントン演説の意味はむしろ、米国がこの多極型協調の輪の中に入ることを拒否して単独覇権主義を振りかざしていたことをやめて、多極型世界の存在を認め、米国がすでに協調しているEU以外の、ロシアや中国などの極とも協調する方向に進む、ということである。


 ヒラリー・クリントン国務長官は演説で「米国は多極型世界の存在を認め、これまで米国と協調していなかったロシアや中国などとも協調する方向に進む」と言っている。これで米国の進む方向がわかる、と書かれています。



 上記引用文中で引用されているサイトで、英文を読み始めたのですが。。。

 どうもおかしい。著者が本書で述べているような、アメリカの「自滅戦略」をうかがわせるような言葉は、まったくみられません。このような資料を読んだうえで執筆している著者が、なぜ、アメリカの「自滅戦略」を主張しているのか、理解に苦しみます。



 「公的な」日本語訳をみつけたので、以下、英文(原語)と日本語(訳)とを対比して引用します。

 引用元は、英語部分・日本語部分、それぞれ下記の米国政府公式ウェブサイトです。なお、英語部分の引用元は著者(田中宇)が文中で引用しているのと同じです。



U.S. DEPARTMENT OF STATE」の「Foreign Policy Address at the Council on Foreign Relations」( Speech: Hillary Rodham Clinton, Secretary of State, Washington, DC, July 15, 2009 )

米国大使館 東京・日本」の「ヒラリー・ローダム・クリントン国務長官の外交政策に関する外交問題評議会での講演」( 2009年7月15日、ワシントンDC )



Liberty, democracy, justice and opportunity underlie our priorities.

 自由と民主主義と正義と機会が、私たちの優先事項の基盤となっています。


 米国は「自由と民主主義と正義と機会」を優先事項の基盤とする、と述べられています。



Today, we must acknowledge two inescapable facts that define our world: First, no nation can meet the world’s challenges alone. The issues are too complex. Too many players are competing for influence, from rising powers to corporations to criminal cartels; from NGOs to al-Qaida; from state-controlled media to individuals using Twitter.

Second, most nations worry about the same global threats, from non-proliferation to fighting disease to counterterrorism, but also face very real obstacles – for reasons of history, geography, ideology, and inertia. They face these obstacles and they stand in the way of turning commonality of interest into common action.

So these two facts demand a different global architecture – one in which states have clear incentives to cooperate and live up to their responsibilities, as well as strong disincentives to sit on the sidelines or sow discord and division.

So we will exercise American leadership to overcome what foreign policy experts at places like the Council call “collective action problems” and what I call obstacles to cooperation. For just as no nation can meet these challenges alone, no challenge can be met without America.

 今日、私たちは、この世界を特徴付ける2つの避けられない事実を認識しなければなりません。第1に、いかなる国家も、単独でこの世界の課題に対処することはできない、ということです。今日の課題は、あまりにも複雑です。新興勢力から企業や犯罪カルテル、非政府組織(NGO)からアルカイダ、国営メディアからツイッターを使う個人まで、あまりにも多くの当事者が影響力を求めて競争しています。

 第2に、ほとんどの国々が、核不拡散から疾病との戦いや対テロ活動に至る、共通の世界的な脅威について懸念を持っていますが、それだけでなく、歴史、地理、イデオロギー、そして無気力が理由で、極めて現実的な障害にも直面しています。こうした障害は、共通の利害を共通の行動に転換する際に邪魔になります。

 以上の2つの事実により、別の世界構造が必要となります。それは、各国が協力し各自の責任を果たすことを促す明確な誘因に加えて、傍観者となったり、不和や分断の種をまいたりすることを妨げる強力な誘因を各国が持つ世界構造です。

 そこで米国は、CFRのような機関の外交政策専門家の言う「集合行為問題」、そして私が協力への障害と呼ぶ問題を克服するために、指導力を発揮します。それは、いかなる国家も単独でこうした課題に対処できないのと同様、いかなる課題も米国抜きで対処することはできないからです。


 今日の課題はあまりにも複雑なので、いかなる国家も単独でこの世界の問題に対処することはできず、ほとんどの国々が共通の世界的な脅威について懸念を持っており、障害に直面している。そこで米国は、各国が協力して問題に対処するために指導力を発揮する、と述べられています。



 世界がグローバル化しつつあるなかで、今日の課題は「あまりにも複雑」なので「各国が協力して問題に対処する」というのは、きわめて当たり前の主張であり、米国の「自滅戦略」のかけらもみあたりません。

 それどころか、クリントン長官は (各国の協力体制を構築するために) 米国は「指導力を発揮する」と述べ、さらに「いかなる課題も米国抜きで対処することはできない」とまで述べています。



 ここから、「米国の国力の衰え」を読み取れないことはありませんが、それは「深読みのしすぎ」というものでしょう。



We will also put special emphasis on encouraging major and emerging global powers – China, India, Russia and Brazil, as well as Turkey, Indonesia, and South Africa – to be full partners in tackling the global agenda. I want to underscore the importance of this task, and my personal commitment to it. These states are vital to achieving solutions to the shared problems and advancing our priorities – nonproliferation, counterterrorism, economic growth, climate change, among others. With these states, we will stand firm on our principles even as we seek common ground.

 また、中国、インド、ロシア、ブラジル、トルコ、インドネシア、南アフリカといった世界の主要新興国に対して、世界的な課題への取り組みで全面的なパートナーとなるよう奨励することに、特に重点を置きます。私は、この仕事の重要性と、これを行うに当たっての私の個人的な決意を強調したいと思います。共通の課題について問題を解決し、核不拡散、テロ対策、経済成長、気候変動といった私たちの優先事項を推進するためには、これらの国々の参加が不可欠です。こうした国々に対して、米国は共通点を求めながらも、米国の原則を堅持します。


 「世界の主要新興国に対して、世界的な課題への取り組みで全面的なパートナーとなるよう奨励することに、特に重点を置」くが、「こうした国々に対して、米国は共通点を求めながらも、米国の原則を堅持します」、と述べられています。



 これを著者(田中宇)は米国の国力の衰え、多極化の象徴と「読んだ」のかもしれませんが、

 米国は新興諸国に対して、「世界的な課題への取り組みで全面的なパートナーとなるよう奨励することに、特に重点を置」くと述べられており、あくまでも米国のリーダーシップのもとに「奨励する」と言っているにすぎませんし、

 同時に、「こうした国々に対して、米国は共通点を求めながらも、米国の原則を堅持します」とも述べられているわけです。



 「米国の原則」とは、(この講演について) 私が最初に引用した、
Liberty, democracy, justice and opportunity underlie our priorities.

 自由と民主主義と正義と機会が、私たちの優先事項の基盤となっています。
ではないでしょうか?

 とすれば、米国は (世界的な問題に対処するために) 新興諸国とも協力すべく努力するが、その場合であっても米国は「自由と民主主義と正義と機会」を優先する、ということになります。



 また、講演には次のような内容も含まれています。



And to these foes and would-be foes, let me say our focus on diplomacy and development is not an alternative to our national security arsenal. Our willingness to talk is not a sign of weakness to be exploited. We will not hesitate to defend our friends, our interests, and above all, our people vigorously and when necessary with the world’s strongest military. This is not an option we seek nor is it a threat; it is a promise to all Americans.

 そして、私たちと敵対する国々、あるいは敵対する可能性のある国々に対しては、米国の外交と開発の重視は、わが国の安全保障を維持するための武器に代わるものではない、ということを伝えたいと思います。米国は喜んで話し合いに応じますが、この姿勢はつけ込むことができる弱さの表れではありません。米国は、ためらうことなく、友好国、国益、そして何よりも国民を積極的に守り、必要であれば世界最強の軍事力によって守ります。これは、私たちが求める選択肢でも威嚇でもなく、すべての米国民への約束です。


 「米国の外交と開発の重視は、わが国の安全保障を維持するための武器に代わるものではな」く、場合によっては、「米国は、ためらうことなく、友好国、国益、そして何よりも国民を積極的に守り、必要であれば世界最強の軍事力によって守ります」と述べられています。



 上記講演内容を読むかぎりでは、著者(田中宇)のいうような、米国の「自滅戦略」や「覇権の喪失」などは、どこにもみあたりません。それどころか、
米国の戦略とは、米国の理念「自由と民主主義と正義と機会」に基づいて各国と「協調」するが、場合によっては「軍事力の行使もいとわない」というもの
だと考えるのが自然だと思います。

 したがってますます、「独裁国家を中心として協調する東アジア共同体」などは、「ありえない」し、日本はそんなものを「提唱」すべきではない、ということになります (「民主党も勉強している」参照 ) 。



■追記
 英文を「コピーして貼りつけ」たにもかかわらず、引用文中の "–" が "?" になっていましたので、訂正しました。どうしてこうなったのか、原因はわかりません。おそらく文字コードが原因だと思います。

 なお、民主党(または日本)が、中国に民主化を呼びかけつつ、(中国が)民主化された際には「東アジア共同体」を作って「協調」しようと提唱するのであれば、(私も)構わないと思います。

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