1月20日 おはよう日本
山形県村山地方に伝わるムカサリ絵馬。
「ムカサリ」とは“迎える”などの意味に由来する“結婚”を指す方言で
絵は独身のまま亡くなった人の架空の結婚式である。
絵には亡くなった後も大切な人の幸せを願う遺族の願いが込められている。
優しい色合いで描かれた幸せなひととき。
独身のまま世を去った幼い子どもや兄妹の晴れ姿を描くムサカリ絵馬である。
1500点近い絵馬が奉納されている天童市の若松寺。
いずれも架空の伴侶を添えた実現しなかった結婚式が描かれている。
古くは江戸時代から遺族は叶うことのなかった願いをこめて
いつしか「ムサカリ絵馬」と呼ばれるようになった。
(若松寺 氏家榮脩住職)
「あの世で幸せになって
この世に再生してもらいたい。
別の世界でも安穏な生活で暮らしていけるように
そういう気持ちがこういう形で表れるのでは。」
ムサカリ絵馬に思いを託した札幌に住む佐藤美樹子さん。
3年前にたったひとりの姉の章子さんを亡くした。
職場での人間関係の悩みから心の病を患い10年近く自宅にこもっていた章子さん。
家族にも心情を打ち明けることなくこの世を去った。
(佐藤美樹子さん)
「もうちょっと話がしたかった。
最期の方は心を閉ざしてしまったので。
あまり話せなかった 心から。」
唯一 章子さんが心を開いていたのは愛犬だった。
(佐藤美樹子さん)
「犬がなくなったんですけど
姉が人一倍泣いていたんですよね。
感情あふれる姉を見た最後だった。
天国で孤立してるんじゃないかというイメージしか出てこない。」
姉を救えなかったことで自分を責め続けた美樹子さん。
山形に伝わるムサカリ絵馬なら姉を幸せにできるかもしれないと依頼を決意した。
ムサカリ絵馬は専門の絵師によって描かれる。
写真や在りし日の思い出をもとにかなわなかった晴れ姿を描く。
(絵師 高橋知佳子さん)
「ご遺族も亡くなった人の気持ちも全部背負って描くもの。
この人を幸せにしてあげようと思う。」
依頼を出して約2か月。
完成した絵馬が佐藤さんのもとに届いた。
そして愛犬も一緒である。
(佐藤美樹子さん)
「あらためて見てこれが本来の姿なので
うれしいですね。」
美樹子さん自身の心にもひとつの区切りがついた。
(佐藤美樹子さん)
「姉は亡くなったので人生を歩むことはできないけど
亡くなって終わりではなく
また始まって笑顔で歩んでいる感覚。」
晴れ姿をまとうもう会えない人の微笑み。
残された遺族からの最後のはなむけである。