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災害の教訓を生かす努力を続ける

2020-02-04 07:00:00 | 編集手帳

1月17日 読売新聞「編集手帳」


妻が叫んだ。
「タンスにはさまれ動かれへん」。
夫が駆け寄る。
「火が来とるで!」。
妻が押し返すように言う。
「お父ちゃん、もういいから行って」

「かんにんやで、
 かんにんやで」。
74歳の夫は近所の人に羽交い締めされながら、
燃えさかる家を見つめた――
阪神大震災の激震の朝を伝える当時の紙面から引いた。
無数の無念の叫びがこだました日からきょう25年を迎えた。

<哀(かな)しみは身より離れず人の世の愛あるところ添ひて潜める>。
歌人の窪田空穂(うつぼ)の一首を思い浮かべると、
大地震の惨禍を「震災の記憶」と過去に押しやることに抵抗がある。

もう25年、
まだ25年…
多くの方が哀しみを身に潜めてきた歳月だろう。
阪神大震災では倒れないはずの高速道の高架が横倒しになった。
まさかと身を震わせた災害の教訓を後の社会に十分に生かせたかというと、合格点に至りそうもない。
津波は越えないはずの高さを越え、
豪雨は壊せないはずの堤防を壊した。

空穂の歌は愛があるから哀しいのだとも聞こえる。
なぜか同じ読みをする「愛」と「哀」を引き離す努力をつづけたい。
防災とはそういうことでは。

 

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