・アドマイヤムーン
日刊スポーツによると、今年の宝塚記念&ドバイデューティーフリー優勝の
アドマイヤムーンに対し、ゴドルフィンが40億円で購入したいというオファーを申し入れているという。
金額の大小を別とすれば、種牡馬としての権利込みで現役馬の金銭トレードというのは
珍しいことではない。記事中にあるように今年もゴドルフィンは各国のトップホースを
買い漁っているし、他の有力な馬主も度々行っていることである。
また日本においても社台グループが国内外の現役馬を金銭トレードで獲得した例はあり
ジャングルポケットが引退レースとなった有馬記念で吉田勝己氏の勝負服で走ったことは記憶に新しい。
このほかにもキングカメハメハやゼンノロブロイなども現役中に元々のオーナーとの
共同所有という形を取っていたはずである。
しかし相手がゴドルフィンとなると、ユートピア(否「よろしく~ねっ」)のように
海外で走ることが予想され、そうなると上記の社台の例とは意味合いが違ってくる。
社台の例はあくまで国内でのトレードであって、トレード後も日本のレースを中心に使うことになるが
ゴドルフィンにトレードされれば当然主戦場は海外のレースとなり、日本のファンの多くは
その走りをライブで見ることは不可能になる。
大金が絡んでくる話なので「ファンのもの」などという身勝手な論理を振りかざすべきでは無いと思うが
現役の中距離チャンピオンが急にいなくなると言うのは、ファンとして残念という気持ちもあるし
またJRAとしても興行的に、例えば参戦が予想されていた天皇賞・秋の売り上げに
大きくマイナスの作用があることは確かだろう。
ローテーション的にサムソンもウォッカも参戦しないであろうから
宝塚で惨敗した昨年の覇者ダイワメジャーが中心で、
そこにフサイチホウオーが参戦するかどうかというメンバーになりそうなのを考えると
そこにアドマイヤムーンがいるか、いないかで売り上げが大きく変わりそうなのは容易に想像できる。
とネガティブな面がある一方、アドマイヤムーン固体にとっての話をすれば
極東の半鎖国競馬国の1オーナーの所有馬でいるより、
世界的馬主グループの所有馬となった方が、知名度も上がり
引退後に、種牡馬として多様な配合相手に恵まれ、その血を後世に残す確率が高くなる(可能性がある)。
それにもし海外のレースを狙うなら、現状より遠征経験が豊富かつ、世界的に高度な施設を持つチームに
移籍するほうがよりベターであろう。
またこれは海外の競馬関係者がどう受け取るかなのではっきりとは言えないが
アドマイヤムーンが海外でゴドルフィンの所有馬として走ることによって(そしてビッグレースを制することによって)
他の海外競馬関係者が日本の競馬、ならびに日本の馬産に興味を持つきっかけとなるかもしれない。
せっかくダーレージャパンファームがJRAの馬主資格を取得できそうなのだから
そのままJRAで走って、その上でゴドルフィンのノウハウしつつ海外のビッグレース狙うのがベストのような気がするんだが。
で、ここまでは前フリで(長っ)、私が一番食いついたのは
「この40億って、本当にアドマイヤムーンの馬代としてだけの金額なの?」
という点。
上記日刊スポーツの記事によると
「近藤オーナーに対しては、6日に正式な申し入れがなされた」
という事である。「正式な」ということはそれまでに「非公式に」打診はあったとも受け取れる。
実際これだけの「ビッグマネー」が動くことだから何らかの接触がもっと前からあったと
考える方が自然なような気がする。
さて、ご記憶の方もおられるだろうが、この3日前である今月3日に「馬主登録審査委員会」において
ダーレージャパンファームのJRAにおける馬主申請が賛成多数でクリアされた。
昨年の全会一致での反対から一転したのは日本がパート1国入りしたのが大きな原因だとされてきた。
確かにそんな側面があったのは確かだろう。ただそれに加えてひょっとすると
「反対派が反対の力を緩めた」という要因があったのかもしれない。
もしアドマイヤムーントレードのオファーが、もっと以前から非公式の形で
近藤オーナーに伝えられていたと仮定すると、正式オファーの3日前である7月3日の段階では
すでに伝えられて可能性が高い。
そして昨年の申請時から、ダーレーのJRA馬主資格取得反対の
急先鋒であったとされているのが近藤オーナーである。
どうだろう、この40億円という破格のトレードマネーによるアドマイヤムーンのトレードと
ダーレージャパンファームのJRA馬主資格とが複雑に裏で絡み合っているような気がしてこないだろうか。
ついでに言うと、正式オファーのあったとされる7月6日のまた3日後の9日からは
国内最大の1歳、当歳のセリ市「セレクトセール」が開催されている。
そこにはアドマイヤムーンの1歳と当歳の弟が上場され、いずれも
近藤オーナーが2億5000万、3億落札している。
そしてこの2頭を含め、ダーレージャパンファームは今年、セレクトセールにおいて
1頭も馬を購入していない。
これについてダーレーの高橋力氏は
「馬主参入の微妙なタイミングの中で、ギリギリまで悩みましたが、今回は購入を見送ることにしました。」
と理由を説明している。深読みすると
「ここで近藤オーナーの機嫌を損ねたらせっかく通りそうな申請が、通らなくなってしまうかもしれないから購入を見送ることにしました。」
とも取れるし、
表向きはそう言っておいて、実はアドマイヤムーンのトレードの条件の一つとして
「今年のセレクトセールでムーンの弟2頭は近藤オーナーに譲る」
というような条項が入っていたのかもしれない。
どうあれ、この「40億円」という金額に落ち着くまでには
純粋なアドマイヤムーンに対する評価以外に、様々な「交渉」が
積み重ねられてきたのだろうな、と妄想して楽しんでしまった次第である。