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ロンドンから徒然に

サーティファイド・コピー

2010-09-12 | 映画・演劇
 最近はTwitterがブログを駆逐する勢いで(その人気の理由は同時性だとか、セレブとの繋がり感だとか色んな要素が他にもあるんでしょうが)感情の単純な発露たる短い言葉に皆が飛びついています。
 何かの調査によると、年々一点に集中できる時間が短くなってきているんだそうで、世の中がスピード感という名のもとに、こまぎれの要素の連続になってきている気がします。

 映画にしても、短いカットや刺激の強い一言の台詞に慣れた人には、この映画はもしかしたら違和感があるのかもしれません。
 長回しの連続で、しかもその間の台詞がやたら多いのです。その上、劇的にストーリーが展開するわけでもない。でも、それが妙な緊張感を生み出し、いつの間にか引き込まれてしまっています。
 ポスターを見るとやけにカラフルですが、何だか白黒映画だったかのような印象さえ残るのは、こういったことが影響しているのでしょうか。



 『Certified Copy』。いやぁ面白い映画でした。
 イランの監督によるフランス映画でイタリアが舞台、主演がフランス人とイギリス人、劇中では英語、フランス語、イタリア語が飛び交うといった、ある意味非常に国際的なドラマです。

 監督がアッバス・キアロスタミと聞けば、上記のことにうなずく映画マニアも多いでしょう。この映画は今年のカンヌ映画祭に出品され、主演のジュリエット・ビノシュが主演女優賞を取っています。
 相手役のイギリス人作家を演じるウィリアム・シメルの名前を知っている人は音楽通だと思います。実はオペラのバリトン歌手なんですが、これが映画初出演。とてもそうとは思えない演技ぶりです。

 それにしてもジュリエット・ビノシュの演技は凄いです。力でねじ伏せるといった熱演とは質が全然違いますが、それだけに底力を感じます。しかも台詞が上記の英語、フランス語、イタリア語。これらを巧みに使い分けて自然です。

 実はこの言語の使われ方がすごく面白いのです。ふたりが英語で会話していたかと思うと、途中でフランス語に変わったり、フランス語の問いかけに英語で答えたり、あるいはその逆だったり。イタリア語同士の会話の背景で英語の電話の会話が聞こえていたり。それらがまるで音楽でも聴いているかのような響きで、独特のリズム感とメロディーを生み出し、感情のニュアンスを伝えるのに役立っているような気がします。

 それにしても『Certified Copy』のタイトルがなかなか意味深なのですが、それに触れるとどうしてもストーリーまで紹介することになるので、日本公開まで(まだですよね?)楽しみにして下さい。“おとなの映画”が好きな人にはお勧めです。