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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

昭和の黒い霧・松本清張NO.44・・・映画「ゼロの焦点」(主演:広末涼子)

2009-11-18 | 松本清張

■製作年:2009年
■配給:東宝
■監督:犬童一心
■主演:広末涼子、中谷美紀、木村多江、西島秀俊、加賀丈史、他

公開されたばかりの松本清張原作の映画「ゼロの焦点」を見ました。小説は既に読んでいるし1961年に野村芳太郎監督によって映画化された作品や他にもテレビドラマ化されたものも直前に見ての、映画鑑賞となりました。へたしたらこの映画、テレビの特番との違いはどうなの?となりかねないのであります。なぜなら最近は松本清張の作品は、映画化そのものが久しぶり(25年ぶり)でテレビ特番として放送されることが多くなっているからです。(先日もビートたけしが主演した「点と線」が再放送されていました)で、映画はどうであったか。さすがに原作や映像化されたもので、実はボクが密かに物足りなさを感じている部分をこの映画は膨らませて見せていました。

「ゼロの焦点」には戦争に翻弄された女性の影の部分の歴史的要素が大きなりポイントとしてあるのですが、その肝心のところについて松本清張の小説も過去に見た映像化された作品も具体的に細かくは描かれていませんでした。(立川のパンパン時代の様子についてです)映画ではその立川時代の様子を描いており、犯人がなぜ体を売らなくてはならなかったかを、あるいはパンパン女性二人と失踪した夫・鵜川憲一との出会いを映像として見せてくれます。

その部分がイメージしやすく具体的に描かれているほうが、感情移入しやすいのにとは、清張の小説や映像化された作品をみて感じていたからです。映画はその場面で、女性がこうした苦労をする時代はきっとなくなるだろうという未来に向けた希望を語る部分を挿入し、のちの女性の地位獲得に向けた市長選の応援に至る行動の伏線も張られています。その心の内に秘めた強い意志こそがこの物語を大きく膨らませており、犯人を単なる殺人鬼とはしていないのです。むしろ、今回の映画は犯人が同じ昔のパンパン時代の仲間を殺そうとしたとき、相手の女性は天使のような微笑みを見せて奈落へとダイブした後に残された母子手帳により、逆に良心の呵責に捕らわれ半狂乱となり、演説で失神するといった人間の弱さを描くことにより犯人を悲劇のヒロインに仕立て上げています。

広末涼子演じる夫を失った禎子がラストに犯人に平手打ちを食わせる場面があり、そこに自分の存在証明をかけて女探偵と化した彼女の怒りの表現があるのですが、その前に彼女が大衆の面前で講演する犯人に対して呼びかけた「マリー」の一言はそうは問屋が卸さないよという女の意地であったのかも知れません。

この「ゼロの焦点」は、それぞれ性格が違う3人の女性が登場し女優が上手く演じ分けているのですが、前半は広末、後半は中谷と軸が移動します。特に中谷美紀が熱演で貫禄を見せたといった感じでした。基本的に映画は、最終的には誰も救われない悲しみを多く含んだ物語となっています。そして登場する人物には生来の悪人はいない?という性善説に立っているようにも感じました。エンディングには運命に絆される人の悲しみを浮き出させているように効果的に、中島みゆきの曲が流れました。

※「ゼロの焦点」関連記事です。↓
昭和の黒い霧・松本清張NO.40・・・「ゼロの焦点」
昭和の黒い霧・松本清張NO.41・・・映画「ゼロの焦点」(監督:野村芳太郎)
昭和の黒い霧・松本清張NO.42・・・ドラマ「ゼロの焦点」(TBS/主演:星野知子)
昭和の黒い霧・松本清張NO.43・・・テレビ“知る楽・松本清張”「ゼロの焦点」byみうらじゅん



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9 コメント

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知りませんでした (飾釦)
2009-11-26 10:21:45
まつぞう様

2回もTBし恐縮です。またコメントもいただきありがとうございます。

metroの「妹と油揚」公演については知りませんでした。貴重な情報ありがとうございます。

またよろしくお願いいたします。
返信する
TB、ありがとうございます (まつぞう)
2009-11-25 23:40:43
2回目のTBを頂戴し、ありがとうございます。
飾釦さまの記事や他の方々の「ゼロの焦点」の深読み、感心致しました。
話は変わりますが、12月にmetro「妹と油揚」公演、飾釦さまのお好みの範疇に入っていませんか?
私も楽しみにしています。
返信する
コメント (飾釦)
2009-11-21 23:11:11
いただきありがとうございます。

犬童監督(1960年生まれ)と私(1961年生まれ)は一つ違いになりますから、同時代となります。

で、犬堂式解釈なのですが

①立川時代を描いたことはよりドラマティックに見せるためには必要であると思う
②そこで室田佐知子が女性が幸せになる時代がくると語る台詞は、物語の展開と佐知子の性格を見せるには効果的であったと思う。
③ただし、学校に逃げて鵜原が助けることとか、そこで田沼久子が一目ぼれ?する設定には、ちょっと無理があるというか、漫画的でありすぎると思う。
③立川時代を描いてくれたことはよかったが、もっと違う描きかたの方が重みがでたと思う。
④監督と同世代と知り、漫画の影響をうけているんだろうなと、少し希望的観測のような設定をしているところがそのように感じるしリアリズムに水を差してしまう要素もあると思う。

以上のようなことから、50%成功、50%失敗とみたいです。

Biancaさんが、お書きになっている部分は、言われてみれば変と思いました。気づきをありがとうございました。またよろしくお願いします。
返信する
犬堂式 (Bianca)
2009-11-21 12:19:12
TBありがとうございます。1961年の映画や原作をしっかりご覧とのこと、私もそうですので頼もしく感じました。ところで、飾釦さんは犬堂監督と年齢が上でしょうか下でしょうか。犬堂式解釈(馴れ初めのいきさつ)をそのまま受け取れますか?私はかなり疑問に感じましたが・・・・。
返信する
コメント (飾釦)
2009-11-21 01:56:01
ありがとうございます。

ハルさんのブログの中の指摘、
“そしてやっぱり幸が薄い、木村多江さん”

あまり今の女優について詳しくないのでなんなのですが、華がないなーと見ていたらやっぱりそうだったんですね。
返信する
TBありがとうございました (ハル)
2009-11-20 11:35:03
お礼が遅くなってしまい、申し訳ありません。

「ゼロの焦点」、市長選がああいった形で意味を持っていくとはつゆ知らず、見流していました。
その伏線が、この作品の重要なポイントになるとは…。
やられました
返信する
コメント (飾釦)
2009-11-19 21:51:06
いただきありがとうございます。

BCさんへ
おっしゃるように誰にでも起こりえること、それが清張の特徴かもしれませんね。先日アップした記事、知る楽の中でみうらじゅんさんもそのようなことを言っていました。またよろしければ見てやってくだい。ありがとうございました。

kumikoさんへ
私が思うタイトルの解釈は、ゼロとはやり直したい過去をないことにすること、焦点とは立川時代のことではないかと考えています。すべてはそこから始まったんじゃないのかなと。またよろしければ見てやってください。ありがとうございました。
返信する
Unknown (kumiko)
2009-11-19 21:02:31
TBありがとうございます。
中谷さん、熱演でしたねー。ただ、木村さんの死で暴れたシーン後の顔はあまりにきれい?という気もしましたが。
私がどうしても理解できないのがこのタイトルです。なにが「ゼロの焦点」なんでしょう?
返信する
松本清張作品。 (BC)
2009-11-19 20:49:30
飾釦さん、はじめまして。
~青いそよ風が吹く街角~のBCと申します。
トラックバックありがとうございました。(*^-^*

>そして登場する人物には生来の悪人はいない?という性善説に立っているようにも感じました。

松本清張の作品は人間の栄光と陰を浮き彫りにする物語が多いですよね。
心のブレが物哀しい事件を引き起こしてしまうというか・・・。
すなわち、誰にでも起こりえる事として描かれているところが
松本清張作品の怖さでもあり凄さなのかもしれないですね。
返信する

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