■製作年:1965年
■配給:松竹
■監督:山田洋次
■主演:倍賞千恵子、露口茂、滝沢修、新珠三千代、他
まずあの寅さんシリーズを撮ってきた山田洋次監督が松本清張の小説を原作とした映画を監督していたのが意外でありました。そして主人公の桐子を演じるのが倍賞千恵子、これまたびっくりもので。この映画が製作されたのが1965年、「男はつらいよ」が公開されたのが1969年であるということは、ひとつは寅さん映画の前の作品であることは人情ものではなく社会派ミステリーなんかも撮っていたんだということ、そして山田洋次監督と倍賞千恵子のコンビは依頼ずっと続いているとても長い関係なんだなということです。気心しれたスタッフや俳優といい仕事をするということを山田監督がどこかで発言していたことを記憶しているのですが、その姿勢がそこからも見ることができるようです。
さて、原作に登場する桐子という女は弁護の依頼を断った弁護士に逆恨みし自らも犯罪を偽装していくことになる特異でサイコな女性であるのですが、倍賞千恵子はその役をうまく演じていたように思いました。胸に何を秘めているのかがよくわからない、思い詰め感情を表に出さない、ひょうひょうとした感じ、彼女がそうした役にこんなに合っているとは思いもよりませんでした。でも、それは監督・山田洋次の力なのかも知れませんが。何しろ倍賞千恵子は、もしかしてデビュー仕立?と思えるほど若いので、この映画の桐子のような役柄は難しいんじゃないがろうかと邪推してみたりするわけでして。いずれにせよ、この映画における倍賞千恵子は、よかったです(時折見せる幼さも、桐子が実は無理をして復讐のため行動を起こしている感じがして、それがリアリティというか深みがあるような印象を与えたのであります)。
一方、桐子に相対することになる大塚弁護士ですが、演じた滝沢修はいかにも貫禄あるお父さんといった感じで、立派な紳士です。映画の後半になると桐子との関係が逆転し、それまでの真摯な姿勢が一層理不尽さを引き立てています。桐子の復讐は大塚からすすればとばっちりといえば本当にそうで、それを何とか表に出さずグッと押さえているところが哀れに見えてきます。でも本当のとばっちりは大塚弁護士の愛人・河野径子(新珠三千代)でしょう。彼女は何もしていないのですから。冤罪で獄中死した桐子の兄・柳田正夫(露口茂や河野径子の最大の過ちは殺人現場に遭遇したときに逃げたことでしょう。そうではなく直ぐに警察に連絡すれば、その後の悲惨な展開は避けられたかもしれないのです。これは教訓的ですね。
冤罪によって新たな犯罪者となった桐子ですが、先にも書いたように倍賞千恵子は飄々とした感じなので、一層不気味に後半はなっていきます。彼女は怪物と化していくわけです。ボタンを掛け違うと果ては恐ろしいことまでになってしまう…、こちらも教訓的にとらえることがいいんだろうなと思いました。
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