memory of caprice

浮世離れしたTOKYO女子の浮世の覚書。
気まぐれ更新。

「わたしを忘れないで」カズオ・イシグロ

2014-09-08 06:50:45 | BOOK
2014年9月7日の朝日日曜日の読書欄で。
「想い出す本忘れられない本」のコーナーに故・中島らも氏の娘であり作家である中島さなえさんが登場。

この本が出た2006年(彼女は1978年生まれだから28歳で読んだのですね)
ライターの仕事をしながらバンドを組んでサックスを吹いていました。
仲間から勧められ、分厚いなと思いながらページを開いたら、もう止まらない。
あんな一気読みは鈴木光司「リング」父の中島らも「ガダラの豚」以来でした。
1ページ目から謎だらけです。主人公はどんな経歴で何の仕事をしているのか。一切説明がなく、語りももごもごしている。でもどんどん引き込まれる。私は元来、飽きっぽくて、バイオリン、アコーディオン、英会話、簿記・・・続いているのはサックスと卓球くらいなんですが、この本には最初からハマりました。
 ある特別な”提供者”として施設で育てられた子供たちは外の世界を知らず、その目的のためだけに生きる。読むとすごく残酷な話なのですが、そこで育ってその環境しか知らないとそれが残酷とも不幸とも思わない。人間は遺伝子じゃなくて環境で作られると思うんですよ。この小説の世界は奇妙で異常だけど、それは外から見てのことで、中にいる者には普通なんです。自分だって、外から見ると不幸なのに知らないから満足しているだけかもしれない。広い世界があるとしても、ここでしか生きられないのは同じです。
 登場人物の中に、ルースという意地悪な女の子に興味を引かれます。他の子にはない嫉妬心や自己顕示欲があるいやな子。でも人間らしいんですよ。ルースみたいな子は私たちの周りにもよくいるけど、小説の中で他の子示す反応がわたしたちと違っていて、なんだか不気味で、それが「変だな」と思う要因のひとつかもしれません。重要なキャラクターですね。
 この本を読んで、「自分も小説を書きたい」と思いました。1人語り、一人称で書くことが多いのはイシグロの影響かも。これより好きな本はまだ見つからない。イシグロの本をもっと読みたいのに、なかなか出してくれないんです。

土屋政雄訳、ハヤカワepi文庫 864円


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