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[NPO法人] 手話通訳派遣、無料でどこへでも

2012-12-01 | Weblog

 趣味やレジャーにも無料で手話通訳を派遣――。兵庫県のNPO法人による試験的な取り組みが、注目を集めている。聴覚障害者への手話通訳者の派遣は、障害者自立支援法に基づいて自治体が実施しているが、利用目的や派遣エリアが限定されている場合が多い。よりニーズに合った仕組みを求める声が強まっている。

NPO 目的限定せず派遣

 10月下旬、京都市内のレストランで開かれた結婚式の2次会。聴覚障害を持つ西村侑資(ゆうじ)さん(24)が、健聴者の友人男性の肩をたたいた。男性は笑顔で「元気だった? 彼女とうまくいってる?」「この間のアドバイス、役立ったやろ」と矢継ぎ早に話しかけた。

 西村さんが手話通訳者の飯塚諒(まこと)さん(22)に目で合図すると、通訳が始まった。「お陰で助かったよ。ありがとう」。西村さんの手話を飯塚さんが訳して伝えると、男性の顔がほころんだ。〈2対1〉の会話はその後も続き、時に大きな笑い声も交じった。

自治体には制約

 飯塚さんを派遣したのは、兵庫県西宮市のNPO法人「聴覚障害者自立生活センターLIC」。無料でどこへでも手話通訳者を派遣する「パーソナル通訳プロジェクト」の一環だ。

 先天性の難聴である西村さんは、耳元で叫ぶほどの大声でなければ聞き取れない。普段は口の動きと補聴器で相手の話を理解するが、パーティーのように様々な音が交錯する場では、聞き分けるのが難しい。

 西村さんの住む西宮市では、病院での受診などには無料で手話通訳が派遣されるが、結婚式の2次会などは対象外。派遣先も同市近郊に限られる。2次会を楽しんだ西村さんは、「初対面の人や、久しぶりの友達にも話しかけやすかった。このプロジェクトのおかげです」と喜んだ。

 財団法人「全日本ろうあ連盟」(東京)の2010年度調査によると、手話通訳派遣を実施している自治体の8割超が、「医療関係」「公的機関での手続き」などでの利用を認めている。一方で、「職場の朝礼や会議」「資格取得のための研修」などを認めているのは3~4割にとどまる。また、約半数が派遣エリアを市内や県内に限定していた。自治体の定めた基準に合わなければ、自費で依頼するしかないのが現状だ。

福祉財団が助成

 派遣を巡って裁判も起きている。原告は高松市に住む聴覚障害者の池川洋子さん(41)。娘が進学を希望する専門学校の保護者説明会に参加しようと手話通訳の派遣を申請したが、場所が東京都内であることを理由に却下された。これは基本的人権の侵害にあたるなどとして、今年2月、同市を相手取って慰謝料などを求める訴訟を起こした。

 池川さんを支援する「高松市の手話通訳派遣を考える会」の太田裕之事務局長は、「同様の理由で派遣が断られたケースは他にもあり、多くの聴覚障害者が不便を強いられている」と指摘する。

 LICのプロジェクトはこうした制限を極力なくし、聴覚障害者の自由な社会参加を進めるのが狙い。期間は10月から来年3月末までで、京阪神の22市町に住む聴覚障害者が対象だ。財源は、キリン福祉財団からの助成金50万円。交通費を抑えるため、遠方への派遣は現地の団体に協力を要請し、通訳者を確保している。

 10月には西村さんを含めて8件の派遣を行い、11~12月も既に9件の予約が入っている。大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」へ遊びに行ったり、テニススクールに参加したりと、内容も様々。LICスタッフの田中息吹(いぶき)さん(27)は「今回のプロジェクトを通して聴覚障害者のニーズを把握し、行政に派遣範囲の拡大を働きかけていきたい」と話している。

 利用申し込みは、ファクス(0798・61・2447)か、メール(chokaku@jpn.cilmsa.com)へ。(中井道子、写真も)

2012/11/13 YOMIURI


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