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[NPO法人] 経営苦境、 寄付も減り支援側が貧困に

2012-12-01 | Weblog

国や自治体の財政難を背景に、NPO法人などの社会的企業が、新たな公共サービスの担い手として期待されている。生活困窮者や若年無業者(ニート)への支援で実績を上げており、雇用の受け皿としても注目される。

しかし、多くが経営難で苦境に立たされているのが実情で、利用者と共倒れになりかねない状況だ。「支える側を支える」ための環境整備が求められる。

頼みの寄付減る

 「あと数年しか活動が持たない」。生活困窮者を支援しているNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京)の稲葉剛代表理事は危機的な経営状況を明かす。

 2001年に設立。生活保護の申請を手伝ったり、アパートを借りる際の保証人を引き受けたりしてきた。現在、約940世帯の保証人になっている。活動資金は寄付が頼り。湯浅誠理事らが「年越し派遣村」を開設して注目を集めた08年末前後には約1億円集まったが、その後は先細りだ。支援者だった企業の経営破綻も影響し、10年度は赤字が約2100万円、11年度は約1800万円に上った。

 生活困窮者には、精神疾患など様々な問題を抱える人も多い。行政の一律的な対応では解決困難で、きめ細かな支援ができる社会的企業の存在感が高まっている。

 「失業後、ネットカフェで暮らしていたが、所持金がなくなり、何日も食べていない」。同法人には、こうした相談が来所だけで年間に約900件、電話では約2000件寄せられる。「活動が滞れば、利用者を直撃しかねない」。稲葉代表理事は頭を抱える。

 路上での雑誌販売の仕事を提供してホームレスの自立支援を行う有限会社「ビッグイシュー日本」(大阪市)も資金繰りが苦しく、約4000万円の累積赤字を抱える。

 福祉分野に限らないが、NPO法人に対する日本政策金融公庫総合研究所の調査(12年)では、活動上の問題として「事業収入の確保」(63・2%)や「補助金・助成金の確保」(40・3%)が上位。社会的企業の多くが「経営は綱渡り」と口をそろえる。

 「ワーキングプアを支援している自分がワーキングプア」「結婚や健康を考えれば、30歳が“定年”」。こんな窮状を訴える若手スタッフも多い。経済産業研究所の調査(06年)では、常勤事務スタッフの年間平均給与は166万円にとどまる。

支援側が「貧困」

 収益が上がりにくいのは、利用者に負担を求めにくく、収入が寄付や行政の補助などに限られることが背景にある。九州地方の法人幹部は、「利用者には交通費さえ払えない人もいて、負担を求めるのは無理。一人一人の自宅に出向き、きめ細かな支援をするには人手もお金もかかり、経営との板挟み」と嘆く。行政の補助事業でも、不安定な運営を強いられている場合が多い。「単年度の事業が多く、人材育成などの計画が立たない」「事務所代が計上できないなど費用が安すぎ、行政の下請け扱い」と、苦境を訴える声が現場から聞こえる。

「K2インターナショナルジャパン」(横浜市)は、「働く社員が、結婚でき、子どもも育てられる待遇にしている」という数少ない社会的企業だ

 若者の自立支援を行っている横浜市の株式会社「K2インターナショナルジャパン」は、飲食店などの自主事業を積極的に展開し、活動の資金源にしている。「社員が家族を養えるような待遇を確保したい」との考えからだ。しかし、多くの団体では経営管理のノウハウが乏しく、同様の取り組みが成功している例は少ない。

 こうした実態をよそに、社会的企業へのニーズは高まるばかりだ。鳩山元首相は09年、「新しい公共」の創造を掲げ、福祉分野をはじめNPO法人などが主体的に公共サービスを担う社会の実現を目指す考えを示した。

生活困窮者への支援策を議論している厚生労働省の検討会では、社会的企業が担い手となる案を打ち出した

 こうした流れを受け、厚生労働省が9月に打ち出した困窮者対策でも、社会的企業による就労機会の提供などが打ち出されている。若年無業者支援や子育て、教育分野での活動も広がっており、NPO法人数は、02年の約6500が11年には約4万2000まで増えた。

 これに対し、玄田有史・東大教授は「今後もニーズは高まるだろうが、今のような情熱先行の運営では長続きしない。利用者のためにも、『支援者支援』に本腰を入れる必要がある」とクギを刺す。

融資や経営指導

 1990年代から社会的企業が注目を集める海外では、支援の取り組みが進んでいる。

 イギリスでは、公的機関が積極的な融資や専門家による経営指導などを実施。困窮者の就労・職業訓練の場を提供するなど福祉、医療分野を中心に5万5000社以上が活動しているという。アメリカでは、民間支援機関が資金や経営ノウハウを提供し、ホームレス問題などで実績を上げている。韓国も07年、人件費の補助や税・社会保険料を減免する仕組みを制度化。障害者支援で活躍している。

 日本では11年、NPO法人への寄付を促す制度改正が行われたが、普及は進まず、実効性のある支援策は乏しい。塚本一郎・明治大教授は「資金、人材育成、経営ノウハウの面で横断的、継続的に支援する機関が必要。社会的企業は困難な問題の解決策の選択肢を広げるだけでなく、新たな雇用の受け皿としても期待される。支える環境を整えることは、日本の社会・経済の活性化につながる」と話している。(大津和夫)

社会的企業(NPO)
 明確な定義はないが、貧困など社会的課題についてビジネス的手法も用いて解決を目指す団体。NPO、株式会社など形態は様々。「ソーシャルビジネス」とも呼ばれる。経済産業省の研究会は事業者数約8000団体、雇用規模約3.2万人と推計している。

2012/11/5 YOMIURI)


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