京都で気分一新して、我が家に帰ってきてからも地酒と肴のことはしばし脳裏
を離れなかった。
ただ、京都のことというのではなく、やはり食欲の秋である。旬の食べ物や郷
土料理のことなどが頭の中をかけ巡った。
そうこうしていると、今度は無性にけんちん汁が食べたくなってきた。
うまい食べ物は、なにも京都にだけあるわけではないだろう。それぞれの地域
に伝統的な郷土料理が必ずあるはずだ。
そう考えていると、そろそろ十三夜もやってくる。十三夜といえばお月見であ
る。
お月見には団子である。そして、ススキ、栗、柿、サトイモなどを供える。
例年我が家では、満月の良く見える縁側に卓袱台を出して、前記の物のほかに
けんちん汁を供える。
時には縁側を通りかかった猫が、けんちん汁のおつゆを綺麗になめてしまうこ
ともある。何もつまみ食いをするのは、人間だけではないようである。
けんちん汁を作る習慣のある地域は、全国に広く分布しているようで、地域や
家庭によっても内容は千差万別のようである。
我が家のけんちん汁には、大根、牛蒡、人参などの根菜類、サトイモ、こんに
ゃくなど、土の中で育った物が多い。
その他、豆腐、油揚げなどの大豆加工品、しいたけ、シメジ、ヒラタケなどの
きのこ類や長ネギなどを入れることもある。言わば伝統的素材である。
根菜類やサトイモなどは、最初に油で炒めた後に煮込む。煮立って具もやわら
かくなってきたら、醤油で味付けをする。地方によっては、味噌仕立てのところもある
ということなのだが、この辺ではしょうゆ味である。
私は子どもの頃から好物であったが、作り立てよりは何度か煮返した後の方が
、具が柔らかくなり、出汁も出ておいしいと思う。
いずれにしても、私には満月を鑑賞することはかなわないので、今年もお月見
はなしでけんちん汁をいただくことにしよう。