
【2020.8.17追記】
何年経ってもこのブログ一番人気のこの記事。内容をコンパクトにまとめました。
こちら↑をご参照ください。
【追記終り】
株式会社が株主総会を開催した場合、その議事内容等を記載した「株主総会議事録」という書面を作成しなければなりません。
ここで問題。
会社法上、作成した株主総会議事録に押印しなければならないのは誰?
1出席した取締役の全員
2出席した株主の全員
3代表取締役社長だけ
答えは……どれも不正解(スイマセン)。正解は、「誰も押印しなくてよい」です。
かつての商法第244条第3項には、「議事録が書面を以て作られたるときは議長及び出席したる取締役これに署名(または記名押印)することを要す」と規定されていました。これに対し、いまの会社法の下で、株主総会議事録の作成方法について定めた会社法施行規則第72条には、どこにも署名や押印に関する規定がありません。規定がない以上、誰も押印する必要がないという解釈です。
誰も押印していない株主総会議事録など、これまでの常識からすると奇異な感じですが、実際に登記申請書の添付書面としてもそれで通用しています。
ところが……
ある局面では一転して、まるで旧商法第244条第3項の亡霊が現れたかのように、「議長及び出席取締役全員の押印」が求められることがあります。
商業登記規則第61条第6項
代表取締役の就任による変更登記の申請書には、次の区分に応じ、それぞれに定める印鑑につき市区町村長発行の印鑑証明書を添付しなければならない。
一 株主総会の決議によって代表取締役を定めた場合
議長及び出席取締役が株主総会の議事録に押印した印鑑
(注:理解しやすいように、若干の言い換えをしています)
この規定に「議長及び出席取締役が株主総会の議事録に押印した印鑑」とあるから、株主総会の決議によって代表取締役を定めた場合の株主総会議事録には、「議長及び出席取締役の全員」が押印しなければならないというのです。
ちょっと待った! 商業登記規則第61条第6項は、単に「印鑑証明書の添付義務」を定めているだけで、「議事録への押印義務」を定めたものではないのでは? つまり株主総会議事録の押印について、「印鑑証明書を提出しろ」ということと「そもそも誰が押印するのか」ということとは、次元の異なる問題なのでは?
しかし法務省筋では、この商業登記規則第61条第6項を根拠に、「議長及び出席取締役全員の押印義務があるのだ」と強弁しています。その結果、「代表取締役を選定する株主総会」と「それ以外の株主総会」とで、株主総会議事録の押印義務に著しい差異を生ずることになります。「代表取締役を選定する株主総会」と「それ以外の株主総会」という区分、まるで「天丼」と「それ以外の和食」とでカテゴライズするかのようなチグハグさです(「数ある和食の中で、何で天丼だけ別のカテゴリーなの?」という意味です)。
あくまでも推測ですが、これは法務省内部における規則整備上の連携ミスなのではないでしょうか? 私の考えるシナリオはこうです。
――平成17年冬、法務省では会社法の施行にあわせ、諸規則の整備を急ピッチで行わなければなりません。商業登記規則を担当とするA氏は、旧商法で株主総会議事録に「議長及び出席取締役の押印義務」が課せられていたことから、「会社法の下でも必ずそうなるに違いない」と思い込み、それを当然の前提として商業登記規則第61条第6項を起案します。その一方、別室で会社法施行規則を担当するB氏はこう考えます。「このIT化時代に署名や押印を求めるのはナンセンス。だいいち株主総会議事録など、いわば会社の内部記録に過ぎないのだから、押印の有無まで法令で定める必要はない」。その結果、B氏は会社法施行規則第72条に押印の規定を盛り込むことをやめました。こうしてA氏とB氏の思惑が異なるまま、そして、なぜかその擦り合わせの機会もないままに、会社法施行規則も商業登記規則も正式に制定されてしまいましたとさ……
繰り返しますが、あくまでも私の推測です。しかし「当たらずとも遠からず」ではないかと思っています。
こんなチグハグな規則によって迷惑するのはユーザーサイドである国民。会社法施行から1年以上も経つのですから、これら矛盾する規定はそろそろ整理して欲しいと思います。もっとも、そのためには、法務省は「矛盾があること」を認めなければなりませんが。どうも彼らにとっては、この「矛盾を認める」ということが一番難しいようです。
2011.9.11追記
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こちらの記事もご覧ください。
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