倉野立人のブログです。

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行政視察報告「尼崎市のヤングケアラー支援」

2023-05-19 | 日記

5/15(月)~17(木)にかけて、所属する「長野市議会 福祉環境委員会」の行政視察に参加しました。

最終日の17日は 兵庫県尼崎市を訪れ、近年 話題(社会的課題)となっている「ヤングケアラー支援」における先進事例を調査研修する機会をいただきました。

 

「ヤングケアラー」とは、本来は 大人が担うと想定されている、家事や家族の世話などを日常的に行なっている(担っている)子供のことを指(さ)します。

 

 

 

ヤングケアラーになってしまうことで、家庭における責任感や 一方で(自己負担の)自覚が乏しいままに 自分の生活そのものに影響が及ぶこととなり、結果 学業や友人関係などに影響が出てしまうことがあるものです。

これまでも この〝ヤングケアラー問題〟について話題とはなっていましたが、ここのところの社会情勢の多様化・変遷(コロナ禍を含む)が著しい中において一層の遍在化 それに伴い問題が表面化することとなりました。

そこで 国(厚生労働省)においては、令和4年度に「ヤングケアラー支援体制強化事業の実施要項」が示され、同年度から令和6年度を「ヤングケアラー認知度向上の集中取り組み期間」とし、ヤングケアラーに関して分かりやすく広く関心を集めるような広報・啓発活動を実施することとしています。

 

[参考]厚生労働省「ヤングケアラー支援体制強化事業の実施要項」

           ↓

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/yongcarer.support.overview20220331.pdf

 

 

そのような中にあって 今回の視察市である尼崎市は、全国に先んじて ヤングケアラー支援に取り組んでおられるのでした。

 

この日の視察は、尼崎市の子どもの育児支援・ヤングケアラー支援の拠点施設(あまぽーと・いくしあ)で行なわれ、所管の「こども青少年局」の関係課職員から説明を受けました。

 

 

 

 

「ヤングケアラー支援」については(前掲のとおり)昨年度あたりから公的支援が緒に就いたところであり、それも 現段階では(長野市も含め)〝調査段階〟というのが実際のところであります。

しかし 尼崎市においては、遡(さかのぼ)ること平成30年度には 事前研修会やシンポジウムなどを行なっており、全国に先駆けてのヤングケアラー支援に臨んでいました。

「なぜ このように早く(ヤングケアラー支援に)取り組んだのですか。」私の問いに対し「尼崎市には、そうならざるを得ない社会的背景があるのです。」とのことでした。

その背景には、尼崎市が 全国での住民1人あたりの生活保護費受給ランキングが、計928地域中13位の上位にランクされるなど、厳しい市民生活を余儀なくされる世帯が多くあり その中で「ヤングケアラー」の存在がクローズアップされたことがあったそうです(同ランキングで長野市は533位)

この 尼崎市の(厳しい)社会状況を踏まえる中、国においても(令和4年度「ヤングケアラー支援体制強化事業の実施要項」)支援事業が本格化することになったことから、令和元年に設置された「子どもの育児支援/いくしあ」の活用も含め、さまざまな支援事業に取り組んでいます。

◆ヤングケアラーピアサポート事業(こども青少年課)

・ヤングケアラー同士が 自らの悩みや不安を共有・相談できる居場所を提供(委託事業)

・毎月1回のイベント開催により 当事者相互の関係性を構築

◆ヤングケアラー等世帯訪問支援事業(こども相談支援課)

・家事 育児に困っている世帯に専門の訪問支援員を派遣、掃除・洗濯・配膳などを支援

 

 

 

 

説明を聴取するうち 私は、尼崎市のヤングケアラー支援が 非常に機微(きび)に触れたものであることを実感しました。

聴取の中で 私は「ヤングケアラーピアサポート事業」と「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」が いわば車の両輪を成していることに気づきました。

すなわち「ヤングケアラーピアサポート事業」は、当事者の気分転換を促す いわばソフト事業であり「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」は、当事者の生活そのものを実施的に支援する いわばハード事業であること、その双方の支援を並行して行ないながら、なおかつ所管課は ヤングケアラーに該当する若者を温かく見守り、そして(ここが非常に肝心なのですが)個人情報の保護(秘匿)を遵守したうえで キメ細かい支援を行なっているのでした。

 

尼崎市(こども相談支援課)においては、子どもの支援を担う「児童ケースワーカー」を (前掲の)「いくしあ」に2名・保健行政拠点の「北部保健福祉センター」に9名・「南部保健福祉センター」に8名を配置し、それぞれが担当地区を持ったうえで 家庭児童相談に当たっています。

尼崎市においては、これまでも 児童虐待などの家庭問題について相談・支援を行なっていますが、昨今のヤングケアラー問題の遍在化に鑑み 関係者が改めて「要保護児童対策協議会」の場での情報交換や「いくしあ」に寄せられる相談を受けるなどして 児童生徒の中にヤングケアラーに該当する子がいるか等との状況把握に努め、関係者が協力し合って支援に当たっているとのことです。

そのうえで尼崎市では、令和4年度から「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」を開始、ヘルパー派遣により 子どもや保護者の負担軽減を図り、世帯全体の自立を促す取り組みを継続しています。

 

「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」は、敢えて広報を行なっていないとのこと。

これは、該当世帯(児童)に対する配慮とのこと。情報は表(おもて)に出さず、あくまで児童ケースワーカー⇔当該世帯との 相互信頼に基づく情報共有体制の中でヘルパー派遣を決定し、いわば〝陰(かげ)ながらの支援〟に徹しているそうなのです。

また、前掲の 子どもの育ち育成センター「いくしあ」には、尼崎市教育委員会事務局 こども支援課が入っており、スクールソーシャルワーカーを通じて 市長部局・児童ケースとの情報共有を図っているとのことです。

 

そして 資料の最後には、ヤングケアラー支援で注意すべきこと(難しさ)について触れていました。

すなわち、ヤングケアラー自身は「自分がヤングケアラーであること」を自覚しないままに(厳しい)日常生活を〝当たり前のこと〟として送っていることがほとんどであることから、関係者(大人)の無遠慮な介入が 子どもや世帯のスティグマ(劣等感)を呼び起こすことにもなってしまうことがあるそうです。したがって、事業展開については慎重に進めなければならない とのことでありました。

 

「ヤングケアラー支援」については、遠からず 長野市においても具体的に取り組むべき課題となることは必定です。

尼崎市の先進事例を学び、私たちの暮らす地域においても その知見を然るべく役立ててゆくべきことを実感いたしました。