
中国山地の小さな村を訪ねる旅が続いている。その内容をうんと縮めていえば、「限界集落」と呼ばれるほど人口減少が進み、過疎化に悩む集落を「まるごと美術館村」にするというプロジェクトである。
詳細についてはまだ公開できる段階ではないが、推進のための話し合いは順調に推移し、私は仲間たちとともに大きな山塊に抱かれた村々を巡っているのである。

中国山地は本州島の西の骨格を形成する大きな山脈である。山は落葉広葉樹の森で、その山塊深く、小さな集落が点在する。山陽と山陰を分ける分水嶺からは、清冽な水が流れる川が幾筋も流れ出る。



赤瓦の屋根の家が点在する村は、豊かな農地を有しており、古代製鉄の遺構や古い神社などもある。出雲系・石見系の神楽も分布する。
日本の原風景ともいえる「里山」の景観構造を保持しているのもこの地方である。村に漂うゆったりと穏やかな空気こそ、ほんとうの豊かさを示す指標である。
私は、40年ほど前に由布院町の「町づくり」と呼ばれた運動に参加し、以後、各地で地域計画とアートの連携を模索し続けてきたが、いま、ここへきて、実現の「とき」が廻ってきたような気がする。その現場が中国山地の小さな村なのである。
遠くない時期に計画を公開し、現地からのレポートをお届けすることになるだろう。



旅の最終日、前回の訪問で集中豪雨の山中へ迷い込み、遭難しそうになった道筋を選び、帰った。その谷はまさしく、山陽・山陰の分水嶺から流れ出る渓谷だったが、今回は水も少なく、穏やかに澄んで、深い緑を水面に映していた。
川辺に降り、川虫を採ってまずは第一投。その糸が水に落ちる瞬間に飛びついてきた元気者は、4寸もの(12センチ程度)の放流サイズ。だが、体側に朱点を散りばめたアマゴである。第二投では小魚がわっ、とばかりに餌を追ってきた。ハリに欠けぬようにかわして、
――よし、魚影は濃い。
と、確認。第三投は淵から浅瀬への駆け上がりで、糸が上流へわずかに引き上げられるアタリ。すかさず合わせると、銀色の魚体が早瀬の中から踊り出てきた。7寸(21センチ)級の良型である。
この間、要した時間は10分ほどだが、満足。前回のリベンジを果たした気分。
次は一日ゆっくりと釣る機会を確保することにして、能竿。
爽やかな真夏の渓を後にした。