会社の後輩が彼の幼い息子と、
あるイベント会場に出かけたときのことだそうです。
そこで大小の資機材を運ぶ作業服姿の人々に交じって、
同じ作業服を着ながらもネクタイをしめ、背広を着た人と打合せをしながら、
他の作業服の人に指示するだけの人がいました。
その男性を見て、彼の息子がこう聞いたそうです。
「どうしてあの人は、みんなと一緒に働かないの?」
そう聞かれた私の後輩は、逆にこう聞き返しました。
「おまえがやるとしたら、あっちで物を運んでいる人と、
その人たちに指示しているネクタイの人とどっちがいい?」
すると彼の息子は迷わず答えました。
「ネクタイの人!」
そこで後輩はしてやったりと、息子にこう言ったそうです。
「だったらしっかり勉強しろよ」
単純労働というのは、誰にでもできるので試験がありません。
代わりの人もたくさんいるので、賃金を多くしなくても人は集まるし、
会社は正社員として雇用する必要もありません。
しかし、知識や経験、技能が必要となる労働は、
誰でもいいというわけにはいかないので、試験があります。
また、より高度な知識や経験、技能を有する人や、
会社がこれから修得させたいと思う人には賃金を高くし、
正社員として雇用し、他の会社へ行かないようにする必要があります。
そして、そのような人は大勢いる必要がないので、試験で選ぶことになります。
後輩は、それが社会の仕組みなのだと息子に教えたそうです。
この話を聞いて、
「幼い子供に対してえげつない」と言う同僚もいます。
なぜなら、そこには親心として、
「しっかり勉強して、条件の良い就職をしてほしい」
という願いや親の価値観があるからです。
ストレートに言えば、子供も反発します。
しかし、多くの親の世代は、
彼の機転の利いた教え方にとても感心しました。
なぜなら、彼の息子は、
「やるならネクタイの人がいい」と言っているのですから。