歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

世界の自動車を造った男―荻原映久、50年のモノづくり人生 (単行本)

2007-01-03 21:28:56 | 読書
株式会社オギハラ(本社:群馬県太田市)は、知る人ぞ知る世界一の自動車プレス用金型メーカーです。同社がなければ、間違いなく世界の自動車生産がストップすると思います。
本書はオギハラの元会長、荻原映久氏に対するインタビューを中心にオギハラの歴史を描いたものです。内容は実に面白く、一気に読ませます。世界に誇る日本の金型産業ですが、その発展の歴史を知ろうと思うと意外に良い資料がないのですが、本書はそれに最適な本であると言ってよいでしょう。また、金型といういわば「裏方」の視点からインドやロシアなどを含む自動車産業の動きも学ぶことができるので、自動車産業について学ぼうという方にもお勧めです。
私にとって収穫だったのは、金型産業の国際化は非常に早かった、というものです。金型産業はトヨタ、日産といった日本の自動車メーカーの発展と共に成長してきた、と私は理解していました。それは確かに事実なのですが、業界のリーダー的存在のオギハラは、昭和30年代から映久氏の父親の八郎氏は「これからは海外に市場を求めなければならない。国内の売り上げが3割。残りの7割は海外での仕事にならないと、いずれ追随する国に負けるときが来る」と語り、海外雄飛を目指していたというのです。同社の海外からの初受注は昭和38年のオーストラリアからのものですが、その後、同社は旧ソ連、アメリカ、欧州、韓国、台湾、タイ、中国、南ア、インド、、、と映久氏は世界中を飛び回って販路開拓、というより日本の金型の伝道師のような働きをしていきます。日本の自動車業界にとって縁の薄い旧ソ連・ロシアですら、彼は100回近く訪れているというので、他の国々はどの程度のものなのか想像できるというものです。同社の海外展開を通じて築かれた映久氏の人脈は相当なもので、おそらく彼ほど世界の自動車業界に顔が広い日本人はいないのではないかと思います。
このほか、金型工場を立ち上げるための資金を映画館の経営でまかなったことや、初めて受注した本格的な自動車金型は富士重工のイスラエル向けのバスのボンネット用金型だったこと、オイルショックの不況時に舞い込んだ韓国・現代自動車からの大型受注を業界全体の発展のために他社にも仕事を回したこと、など、意外なエピソードも多く記述されています。
繰り返しになりますが、金型、そして自動車産業の歴史に関心がある方には勧めたい一冊です。

世界の自動車を造った男―荻原映久、50年のモノづくり人生 (単行本)
生江 有二 (著)