味覚の秋である。
自転車を走らせるにも一番いい季節だ。
ちょっと疲れたときに知らない店に立ち寄るのも、
秋の楽しみ方のひとつだと思う。
埼玉県行田市に「ふじみ鮨」という店がある。
高校生のときから知っているのだけど、
実はまだ一度も行ったことがない。
帰り道に行田を通るとき、
ときどき「ふじみ寿司」の前も通り過ぎる。
いつ創業なのだろう。
少なくとも、ぼくらが高校生のときにはあった。
高校時代、「ふじみ鮨」でバイトをしていた同級生がいた。
本気か冗談かよくわからないけれど、
「もしお店に来たら、メロンをおごってあげる」
と、言ったのを覚えている。
彼女の仕事は裏方ではなく、カウンターだったのだろう。
メロンを食べたかったわけではないけれど、
近い内に必ず行くつもりだった。
友だちにも声を掛け、一緒に行く約束もしていた。
しかし、高校時代の季節の移り変わりと、
20代のそれとは違う。
その後、思いがけない色々なことがあって、
結局「ふじみ鮨」には行けなくなってしまった。
予定や交わした約束が守られるのは、
実は思うより難しいことなのかもしれない。
一度それが崩れると、そうなるはずだった時間と、
現実の時間が生まれる。
それはときとして後々まで尾を引く。
そんなもうひとつの時間は、
誰もが抱えているものだろう。
以来、その人と言葉を交わすこともなくなった。
ケンカ別れでもなく、ただ寂しさが残った。
その人がいつまで「ふじみ鮨」で働いていたのかわからない。
結局ぼくは、店へ行くタイミングを完全に失ってしまった。
以来、そこへ行く話は一度も持ち上がっていない。
店の前を通り過ぎれば、
メロンをおごってあげるというその人の言葉が、
決まって聞こえてくるだけである。
その人は結婚して母親になったという。
きっとメロンのことなど忘れているだろう。
一緒にいた時間はとても短かったし、
言いようのない寂しさのわりにあまりに平穏だったから。
「ふじみ寿司」の周囲も新しい店が次々に建ち、
田んぼの中に立っていた店の看板もなくなった。
何の変哲もないところだけど、
そこを通り過ぎるたびに季節の移り変わりを感じる。
ところで、「ふじみ鮨」には本当にメロンが置いてあるのだろうか?
鮨屋なのに魚の話が全然出てこないのは変だけれど、
やはりメロンが気になる。
いつかふじみ鮨へ行きたい。
近い内か、それともまだ先か……
来店する“はず”だった時間が、
現実の時間に塗り替えられたら、
メロンではない何か別の物になるだろうか?
ふじみ鮨(埼玉県行田市)
自転車を走らせるにも一番いい季節だ。
ちょっと疲れたときに知らない店に立ち寄るのも、
秋の楽しみ方のひとつだと思う。
埼玉県行田市に「ふじみ鮨」という店がある。
高校生のときから知っているのだけど、
実はまだ一度も行ったことがない。
帰り道に行田を通るとき、
ときどき「ふじみ寿司」の前も通り過ぎる。
いつ創業なのだろう。
少なくとも、ぼくらが高校生のときにはあった。
高校時代、「ふじみ鮨」でバイトをしていた同級生がいた。
本気か冗談かよくわからないけれど、
「もしお店に来たら、メロンをおごってあげる」
と、言ったのを覚えている。
彼女の仕事は裏方ではなく、カウンターだったのだろう。
メロンを食べたかったわけではないけれど、
近い内に必ず行くつもりだった。
友だちにも声を掛け、一緒に行く約束もしていた。
しかし、高校時代の季節の移り変わりと、
20代のそれとは違う。
その後、思いがけない色々なことがあって、
結局「ふじみ鮨」には行けなくなってしまった。
予定や交わした約束が守られるのは、
実は思うより難しいことなのかもしれない。
一度それが崩れると、そうなるはずだった時間と、
現実の時間が生まれる。
それはときとして後々まで尾を引く。
そんなもうひとつの時間は、
誰もが抱えているものだろう。
以来、その人と言葉を交わすこともなくなった。
ケンカ別れでもなく、ただ寂しさが残った。
その人がいつまで「ふじみ鮨」で働いていたのかわからない。
結局ぼくは、店へ行くタイミングを完全に失ってしまった。
以来、そこへ行く話は一度も持ち上がっていない。
店の前を通り過ぎれば、
メロンをおごってあげるというその人の言葉が、
決まって聞こえてくるだけである。
その人は結婚して母親になったという。
きっとメロンのことなど忘れているだろう。
一緒にいた時間はとても短かったし、
言いようのない寂しさのわりにあまりに平穏だったから。
「ふじみ寿司」の周囲も新しい店が次々に建ち、
田んぼの中に立っていた店の看板もなくなった。
何の変哲もないところだけど、
そこを通り過ぎるたびに季節の移り変わりを感じる。
ところで、「ふじみ鮨」には本当にメロンが置いてあるのだろうか?
鮨屋なのに魚の話が全然出てこないのは変だけれど、
やはりメロンが気になる。
いつかふじみ鮨へ行きたい。
近い内か、それともまだ先か……
来店する“はず”だった時間が、
現実の時間に塗り替えられたら、
メロンではない何か別の物になるだろうか?
ふじみ鮨(埼玉県行田市)
ふじみ鮨は決して妖しくはなく、
とても敷居が高そうお店です。
でも、「ググって」みると良心的な値段のようです。
しかも、鮨もおいしそう……
おそらく味で続いているのだと思いますよ(^_^)
実は、例の天皇陛下のコーヒーの店は閉店してしまいました。
虹さんと行ったのが最後になってしまったわけで、
あのコーヒーが有終の美を飾りました。
個人で行くことはなかったけれど、
店内がいつもまっ暗というのは寂しいですね。