クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

クニのウラ部屋雑記(29) ―ふじみ鮨―

2008年09月16日 | ウラ部屋
味覚の秋である。
自転車を走らせるにも一番いい季節だ。
ちょっと疲れたときに知らない店に立ち寄るのも、
秋の楽しみ方のひとつだと思う。

埼玉県行田市に「ふじみ鮨」という店がある。
高校生のときから知っているのだけど、
実はまだ一度も行ったことがない。
帰り道に行田を通るとき、
ときどき「ふじみ寿司」の前も通り過ぎる。

いつ創業なのだろう。
少なくとも、ぼくらが高校生のときにはあった。
高校時代、「ふじみ鮨」でバイトをしていた同級生がいた。
本気か冗談かよくわからないけれど、
「もしお店に来たら、メロンをおごってあげる」
と、言ったのを覚えている。

彼女の仕事は裏方ではなく、カウンターだったのだろう。
メロンを食べたかったわけではないけれど、
近い内に必ず行くつもりだった。
友だちにも声を掛け、一緒に行く約束もしていた。

しかし、高校時代の季節の移り変わりと、
20代のそれとは違う。
その後、思いがけない色々なことがあって、
結局「ふじみ鮨」には行けなくなってしまった。

予定や交わした約束が守られるのは、
実は思うより難しいことなのかもしれない。
一度それが崩れると、そうなるはずだった時間と、
現実の時間が生まれる。
それはときとして後々まで尾を引く。
そんなもうひとつの時間は、
誰もが抱えているものだろう。

以来、その人と言葉を交わすこともなくなった。
ケンカ別れでもなく、ただ寂しさが残った。
その人がいつまで「ふじみ鮨」で働いていたのかわからない。
結局ぼくは、店へ行くタイミングを完全に失ってしまった。
以来、そこへ行く話は一度も持ち上がっていない。
店の前を通り過ぎれば、
メロンをおごってあげるというその人の言葉が、
決まって聞こえてくるだけである。

その人は結婚して母親になったという。
きっとメロンのことなど忘れているだろう。
一緒にいた時間はとても短かったし、
言いようのない寂しさのわりにあまりに平穏だったから。

「ふじみ寿司」の周囲も新しい店が次々に建ち、
田んぼの中に立っていた店の看板もなくなった。
何の変哲もないところだけど、
そこを通り過ぎるたびに季節の移り変わりを感じる。

ところで、「ふじみ鮨」には本当にメロンが置いてあるのだろうか?
鮨屋なのに魚の話が全然出てこないのは変だけれど、
やはりメロンが気になる。
いつかふじみ鮨へ行きたい。
近い内か、それともまだ先か……
来店する“はず”だった時間が、
現実の時間に塗り替えられたら、
メロンではない何か別の物になるだろうか?


ふじみ鮨(埼玉県行田市)

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2 コメント

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Unknown ()
2008-09-16 13:00:40
そーですか。なぞのおすし屋さん。メロンもおすしもだいすきです。ぜひ行ってみたいよーな、こわいような・・。(味で続いた店なのか、店主の根性でつづいたのか・・・なぞですね)例の天皇陛下のコーヒーのお店とどっちがインパクトがあるだろうか・・・・。
返信する
虹さんへ (クニ)
2008-09-17 07:31:43
謎めいていますか(^^;)
ふじみ鮨は決して妖しくはなく、
とても敷居が高そうお店です。
でも、「ググって」みると良心的な値段のようです。
しかも、鮨もおいしそう……
おそらく味で続いているのだと思いますよ(^_^)

実は、例の天皇陛下のコーヒーの店は閉店してしまいました。
虹さんと行ったのが最後になってしまったわけで、
あのコーヒーが有終の美を飾りました。
個人で行くことはなかったけれど、
店内がいつもまっ暗というのは寂しいですね。
返信する

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