部屋に居るとき、ラジオは点けっ放しにしている。
特に意識して聴いている訳でもないから、普段は音声の素通りである。
だが、たまには耳に引っ掛かる話しに出会ったりすると付き合う。
過日は、高見順のエッセー『いろはカルタ』の朗読が流れた。
最近のお正月は、子供たちのカルタ遊びなど家族団らんの風景としては、
あまり見かけないようでもあるから、つい聞き耳を立てた。
高見順、曰く。
カルタはポルトガル渡来であり、安土桃山時代に日本へ伝わった。
日本には和歌の伝統もあったから、日本独自の故事や諺をカード化し、
子供たちに文字を教え込ませるツールとしたり、人生訓としたりするなど、
一つの文化として発展させたことは、ポルトガル人も賞賛するところだそうな。
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いろは四十八文字を頭に、つなぐ言葉は、
東京、大阪、京都と、それぞれ地域性が有ったり、無かったり、でもある。
例えば、東京の「犬も歩けば棒に当たる」は、
大阪は「一を聞いて十を知る」京都は「一寸先は闇」とか。
一方で「花より団子」は、東京、大阪、京都いずれも同じである。
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文豪・夏目漱石にも『いろはカルタ』にまつわる逸話が伝わる。
夏目家でも、お正月は子供らが『カルタ遊び』を始めると、
漱石先生も「どれどれ」と割り込んできた。
漱石の好きな札は「屁をひって尻すぼめ」と「頭かくして尻かくさず」。
この二枚の札を自分の前に置き、子供たちに取られないようにした、とか。
あの文豪が「屁」や「尻」に、こだわった訳を想像すると、どこか可笑しい。
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私も自分の子供の頃に覚えた『いろはカルタ』を反芻してみた。
すっかり思い出せない文句も有るが、気に入るのを挙げるとすれば、
東京の「頭かくして尻かくさず」より、大阪の「アホにつける薬はない」。
東京の「論より証拠」より、大阪の「六十の三つ子」。
何故か関西よりに軍配をあげたい。