ブログ 古代からの暗号

「万葉集」秋の七草に隠された日本のルーツを辿る

謎解き詠花鳥和歌 薄と鶉ー5

2011-02-12 12:06:41 | 日本文化・文学・歴史
『古事記』の歌謡で「ももしきの大宮人は鶉鳥・・・」と歌われている「天語歌」がどのような時代背景で
詠まれたものかを『古事記』(講談社学術文庫209)で訳注者の次田真幸(1909年~1983年)氏の解説を
参考にして考えてみたい。

 三重の采女の歌、大后の歌、天皇の三歌は「天語歌(あまがたりうた)なり」とされている。天語歌とは
宮廷で歌われた歌曲の名称で、似たものとしては八千矛神の妻問い物語として知られる「神語歌(かみがた
りうた)」がある。
他に古事記には多くの歌謡が載るが、「志都歌(しつうた・宮廷の楽府で歌われた歌曲の名称)」「寿歌
(言寿ぎの歌)」「読歌(よみうた・朗読するように歌う意か?)」「宇岐歌(うきうた・うきは酒杯、
酒宴で酒を勧める歌)」など様々に分類されており、『古事記』に採録されるまでに様々な場所や場面で
歌われていたことがうかがえる。

一般的に「天語歌」は「海人語歌」の意味に解釈されているが、私は記紀で明確に区別している国神系の歌
が「神語歌」、天神系の歌が「天語歌」であり、海人系(鵜伽耶)の歌が「海人語歌」であったのではない
かと思う。なぜなら古今伝授の秘伝「三木三鳥」や、三種の神器、『日本書紀』などによると、海人族は神
木の上枝、中枝、下枝に呪物を懸ける招魂儀礼、三柱の海神の誕生や禊ぎの仕方を「底」「中」「下」の三
段階に分ける発想などをことあるごとに語られているように感じるのである。

そして、この「天語歌」とされる三首の歌謡の中で三重の采女の歌は「海人語歌」ではないかと思われる。
本来この歌の「纏向の日代の宮」は景行天皇の皇居であり景行天皇への讃歌であったのが、雄略天皇の物語
に採用されたのである。
この点を次田真幸氏は
 「天を覆い、都を覆い鄙を覆う巨大な槻の木の葉が三重の采女の小さな酒杯に浮かぶという叙述はいかに
  も不調和である。いま仮に<あり衣の三重の子が指挙(ささ)がせる瑞玉盞に>の句を除外してみると
  全国を覆う巨木を歌って国土創世神話を連想させる雄大な内容となり、宮廷寿歌にふさわしい。
  そうしてみるとこの四句は、「天語歌」を雄略天皇と三重の采女の物語に結合させるための挿入と考え
  られる。」また「<浮きし油><水こをろころに>という語句は記紀の国土創世神話やイザナギ、イザ
  ナミ二神の国土を固めた神話を思い起こさせる。これらの神話は元来難波から淡路島にかけての、瀬戸
  内海東部の海人族の間に発生したものと言われているから、その周辺の海人族の伝承であった可能性が
  強い。」
そして本来この歌謡を伝承していたのは、阿波国の安曇系の海人部であろうと述べている。

安曇氏は「綿津見神」を斎祀る海人系氏族で、北九州はじめ瀬戸内海沿岸地域、伯耆、さらに信濃方面にも
分布するが、その本拠は筑前国糟谷郡安曇郷および志珂郷あたりで志加(志賀)海神社の「綿津見神」を
斎祀る海人系氏族である。
『肥前国風土記』によると、安曇連百足(ももたり)が景行天皇の西国巡幸に従って海人を帰属させたと
いうが、景行天皇は『日本書紀』によると襲国の隼人を平定した天皇である。ということは隼人や安曇連
の服属が景行天皇のころとされていて、その景行天皇をたたえた寿歌が安曇氏の宮廷への服属儀礼歌として
奏されたと考えられる。

「天語歌」の二首目は大后の歌であり、内容的には雄略天皇への讃歌である。
この皇后の系譜は仁徳天皇と日向の髪長比売との間に生まれたとされ、長子が大日下王、妹が皇后となる
若日下部王で、兄は妹の結婚を巡ってのトラブルで雄略天皇の兄(安康天皇)に殺され、大日下王の妃は
安康天皇に奪われ、その皇后となるが、大日下王との間に生まれた目弱王は七歳の時、安康天皇により
父が殺された事を知り安康天皇の首を斬り殺すという血なまぐさい物語が古事記に載る。
また、目弱王を匿った都夫良意富美(葛城円大臣・かづらきのつぶらのおほおみ)が安康天皇の弟である
雄略天皇に殺され、葛城宗家は滅亡する。
この天皇讃歌を奉った皇后の心の内は見えないが、日向系の服属儀礼歌とも考えられよう。

そして「天語歌」の三首目が「「ももしきの大宮人は鶉鳥・・・」と雄略天皇によって歌われる。
景行天皇の「海人語歌」は安曇氏の服属儀礼歌であるが、雄略天皇の場合は三重の采女である。それは伊勢
国の豪族の服属が雄略朝のことと考えられていた事と関係があるらしい。

前回、「庭雀」を「<二羽 鈴奴>」かな?」と推量したが、一羽目は三重(穂の国・尾張)が有力候補と
思うが、二羽目は何処?













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