便秘のことなど聞きたくも見たくもない、これは誰も本音だ。抗がん剤治療を受けていた
時のことだ。治療前に懇切丁寧な治療内容と出るかもしれない副作用について説明があ
った。そこには日常生活の中でも起こりうることも、その副作用に含まれており、ひっそり
と『便秘』もあった。。
抗がん剤治療、シスプラチン+5FUの投与で、一般的に言われる、食欲不振、吐き気、目
まいなどを中心に注意していたが、幸いなことに目に見える副作用はなかった。最初の5
日間で投薬治療し、その後は安静にして体力の回復を図る日程で治療を始め約2週間
の予定だった、この治療は2回受けている。何れだったのか、はっきりしないが、いつもは
朝に行く大便が止まってしまった。毎日の検診でトイレの有無は報告するから2~3日後
に『下剤』の投与を指示された。
しかし、こいつは根性なしで一つも効き目がなく4~5日目くらいになると心配になって
きた。それまでの人生で一度だけ『蓄便』の経験をしたことがある。経緯や経過は覚えて
いないが所謂、糞づまりになり大便が出なくなった。事が事だけに、どうしたものかと思
案に思案を重ねた結果、踏ん張るしかないと、トイレの中で格闘が始まった。肛門の出口
付近まで出かかっているが、余りにも巨大化した糞の頭の部分が顔を覗かせている状態
だった。踏ん張るも、力むも、汗をかく、冷や汗に変わる。
この時は、糞闘努力の甲斐があり何とか始末できた。しかし、そいつが肛門を出る時は破
裂するのではないかと思うほど痛い思いをした。通過してからは、『天よお力を頂き、感
謝申し上げます』と腰が抜けるほど安堵した。
下剤を飲んでも効き目はないことから、以前の事が頭をよぎり『浣腸』でもしないと解決
できないかもと思い始めていた。便秘による腹の張りやゴロゴロなど一切なく、ただ便が
出ないだけだった。
ある日の夜中、便意をもよおしトイレに座る。ところが、自分の思いとは裏腹に便は一向
に出てこようとはしない。どうも、状況が以前に経験した肛門の出口付近に頭があるの
と同じであるらしい。ならばと、経験のように頑張れば危機を脱出できるかもと、あの手
この手を尽くすが,所詮トイレに座っているだけのこと、何にも変わらなかった。
よーし、とばかりに洋式便器の便座に上がり和式のように座ってみるも、姿勢が不安定
なこともあり功を奏さなかった。頭が出ているのであれば、汚い話だが爪楊枝のようなも
ので少しづつ削ってやればいいのではと考え、出ている部分を手探りで試掘してみる。
便は水分をすっかり吸収され切っているから非常に硬く、最初は怖かったが段々,要領
が分かってくると何とかなりそうな感じになり、その内、少しくらい手が便に触れても平気
になってきた。この域に達すると、危機脱出は夢ではなり詳細は省くが、叶うことになる
のだ。このバトルの格闘タイムは約1.5時間くらいだった。
抗がん剤治療という大それた治療中に、夜中のトイレの中でウンチをほじくっている馬
鹿げた姿を思い返すたびに、『それでも、良かったよなー出て』と思うのである。