小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

頓馬なマスコミに誑かされるな(SSKシリーズ15)

2014年12月01日 22時23分35秒 | エッセイ
頓馬なマスコミに誑かされるな(SSKシリーズ15)




 埼玉県私塾協同組合というところが出している「SSKレポート」という広報誌があります。私はあるご縁から、この雑誌に十年以上にわたって短いエッセイを寄稿してきました。このうち、2009年8月以前のものは、『子供問題』『大人問題』という二冊の本(いずれもポット出版)にだいたい収められています。それ以降のものは単行本未収録で、あまり人目に触れる機会もありませんので、折に触れてこのブログに転載することにしました。発表時期に関係なく、ランダムに載せていきます。

                                  
【2013年3月発表】

 2013年2月19日付の朝日新聞「社説」に次のようなことが書かれている。

 ≪朝日新聞の世論調査で、原発の今後について尋ねたところ、「やめる」と答えた人が計7割にのぼった。「すぐにやめる」「2030年より前にやめる」「30年代にやめる」「30年代より後にやめる」「やめない」という五つの選択肢から選んでもらった。全体の6割は30年代までに国内で原子力による発電がなくなることを望んでおり、「やめない」は18%にとどまる。政権交代を経ても、原発への国民の意識は変わっていないことが確認されたといえよう。≫

 マスコミが自分たちに都合がいいように世論操作をするのは今に始まったことではない。ことに朝日新聞はこれが得意。
 昔この新聞は、夫婦別姓問題についての調査結果からとんでもなく間違った結論を公表した前科がある。だがその時はだましのテクニックがなかなか巧妙だった。しかし今回のこのアンケート項目の設定のずさんさはどうだろう。なんと五項目のうち四項目までが「やめる」になっている。
 原発が危険を抱えていることは福島事故で思い知らされたから、誰でも、もっと安全で安定供給できコストも安い発電方法があるならそれに越したことはないと考えるのが人情だ。だから「やめる」項目八割のアンケートを突きつけられたら「やめない」をきっぱり選ぶ人が少なくなるのは当然で、回答者は初めからまんまと誘導されているのだ。何の根拠があるのか、30年代などという設定も恣意的そのものである。
 こういう科学的客観性を担保したかのような装いのもとにあらかじめ決まっている結論を導き出すのは、じつにたちの悪い煽動である。もともと世論調査というのは、いろいろな意味でその信頼性に問題があるのだが、そのことを踏まえつつ、もしできるだけ公平を期すならせめて次のように選択肢を設定すべきだろう。

 原発を
 ①やめるべきだ 
 ②どちらかと言えばやめる方向で 
 ③迷う 
 ④どちらかと言えば再稼働の方向で 
 ⑤再稼働すべきだ

 これなら③や④を選ぶ人がかなりに上ることが予想される。「『やめる』と答えた人が計7割にのぼった」なんてことにはならないだろう。言うまでもなくマスコミには事実をなるべく正確に伝える重い責任があるのだから、こんなボロ丸出しの調査などやってはいけないのである。
 しかしそもそも脱原発か再稼働かという問いは、原子力発電そのものについての高度な専門知や、これからのエネルギー政策、外交政策などを総合的にとらえる広い見識が要求されるきわめて選択困難な課題である。ふだんよく考えてもいない(考える必要もない)圧倒的多数の国民に安直に二者択一させて済むような問題ではない。こういう大衆迎合主義が無反省にまかり通るようでは世も末である。読者諸兄は頓馬なマスコミに誑かされないようによくよくご注意。


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