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きのこ会議/夢野久作

2011年08月15日 | 面白きのこ情報
 初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈(がん)茸、ぬめり茸、霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、談話会を始めました。一番初めに、初茸が立ち上って挨拶をしました。
「皆さん。この頃はだんだん寒くなりましたので、そろそろ私共は土の中へ引き込まねばならぬようになりました。今夜はお別れの宴会ですから、皆さんは何でも思う存分に演説をして下さい。私が書いて新聞に出しますから」
 皆がパチパチと手をたたくと、お次に椎茸が立ち上りました。
「皆さん、私は椎茸というものです。この頃人間は私を大変に重宝がって、わざわざ木を腐らして私共の畑を作ってくれますから、私共はだんだん大きな立派な子孫が殖えて行くばかりです。今にどんな茸でも人間が畠を作ってくれるようになって貰いたいと思います」
 皆は大賛成で手をたたきました。その次に松茸がエヘンと咳払いをして演説をしました。
「皆さん、私共のつとめは、第一に傘をひろげて種子(たね)を撒き散らして子孫を殖やすこと、その次は人間に食べられることですが、人間は何故だか私共がまだ傘を開かないうちを喜んで持って行ってしまいます。そのくせ椎茸さんのような畠も作ってくれません。こんな風だと今に私共は種子を撒く事が出来ず、子孫を根絶やしにされねばなりません。人間は何故この理屈がわからないかと思うと、残念でたまりません」
 と涙を流して申しますと、皆も口々に、
「そうだ、そうだ」
 と同情をしました。
 するとこの時皆のうしろからケラケラと笑うものがあります。見るとそれは蠅取り茸、紅茸、草鞋茸、馬糞茸、狐の火ともし、狐の茶袋なぞいう毒茸の連中でした。
 その大勢の毒茸の中でも一番大きい蠅取り茸は大勢の真中に立ち上って、
「お前達は皆馬鹿だ。世の中の役に立つからそんなに取られてしまうのだ。役にさえ立たなければいじめられはしないのだ。自分の仲間だけ繁昌すればそれでいいではないか。俺達を見ろ。役に立つ処でなく世間の毒になるのだ。蠅でも何でも片っぱしから殺してしまう。えらい茸は人間さえも毎年毎年殺している位だ。だからすこしも世の中の御厄介にならずに、繁昌して行くのだ。お前達も早く人間の毒になるように勉強しろ」
 と大声でわめき立てました。
 これを聞いた他の連中は皆理屈に負けて「成る程、毒にさえなればこわい事はない」と思う者さえありました。
 そのうちに夜があけて茸狩りの人が来たようですから、皆は本当に毒茸のいう通り毒があるがよいか、ないがよいか、試験してみる事にしてわかれました。
 茸狩りに来たのは、どこかのお父さんとお母さんと姉さんと坊ちゃんでしたが、ここへ来ると皆大喜びで、
「もはやこんなに茸はあるまいと思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山ある」
「あれ、お前のようにむやみに取っては駄目よ。こわさないように大切に取らなくては」
「小さな茸は残してお置きよ。かわいそうだから」
「ヤアあすこにも。ホラここにも」
 と大変な騒ぎです。
 そのうちにお父さんは気が付いて、
「オイオイみんな気を付けろ。ここに毒茸が固まって生えているぞ。よくおぼえておけ。こんなのはみんな毒茸だ。取って食べたら死んでしまうぞ」
 とおっしゃいました。茸共は、成る程毒茸はえらいものだと思いました。毒茸も「それ見ろ」と威張っておりました。
 処が、あらかた茸を取ってしまってお父さんが、
「さあ行こう」
 と言われますと、姉さんと坊ちゃんが立ち止まって、
「まあ、毒茸はみんな憎らしい恰好をしている事ねえ」
「ウン、僕が征伐してやろう」
 といううちに、片っ端から毒茸共は大きいのも小さいのも根本まで木っ葉微塵に踏み潰されてしまいました。

青空文庫 きのこ会議/夢野久作

書籍紹介:菌類の生物学―生活様式を理解する

2011年08月04日 | きのこ ゼミ 情報メール
 「菌類の生物学」という菌学の教科書の翻訳本が出ました。
 原本が1999年ということで、内容が若干古いところもあります。
それでも他にはあまり掲載されていない図が載っています。例えば、菌糸の細胞構造などは、微生物ハンドブックには載っていますが、こうした単行本で載っているのは珍しいので重宝します。
 他にもわかりやすい図が載っているので、菌学を勉強するには必携といえるでしょう。
 内容は大学生1,2回生レベルということですが、菌類に多少なじみのある人ならそれほど抵抗なく読めると思います。

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菌類の生物学―生活様式を理解する
D.H. ジェニングス (著), G. リゼック (著),広瀬 大 (翻訳), 大園 享司 (翻訳)
価格: 2,625
出版社: 京都大学学術出版会 (2011/06)
ISBN-10: 4876985561
ISBN-13: 978-4876985562

*******Amazonから引用*******

内容説明
 「黴臭い」「茸が生える」などの言葉が持つ暗いイメージの一方で、食品産業や製薬に大きく貢献する菌類は、どんな暮らしをしているのか?生活スタイルに注目しながら、菌類に関する基礎を網羅し、わかりやすく解説する。菌学、微生物学、生理学、植物病理学、生態学等の研究者だけでなく、初学者や理科教諭にもお勧めの菌類学の基本書。

内容(「BOOK」データベースより)
 生態系のなりたちや生物の多様性、そして食品産業や製薬に大きく貢献する菌類は、どんな生き物で、どのような暮らしをしているのか?菌糸の生活スタイルに関する基礎を網羅して、豊富な図版によりわかりやすく解説する。菌学、微生物学、生理学、植物病理学、生態学等の研究者はもちろん、初学者や理科教諭、そして菌類に興味を持つすべての人々にお勧めの菌類学の基本テキスト。