十二世紀になると、意識、心、内的経験などが「書物」という隠喩によって、liber conscientiae, liber cordis, liber experientiae などと表現されるようになる。精神の内的活動は、書記・写字生の仕事をモデルとして、手書きの文書の作成作業に倣って、書かれ、読まれ、修正されるべき「書物」として表象されるようになる。
例えば、フランシスコ会厳格主義者たちにあっては、苦行によって心という羊皮紙に言葉を刻みつけるという表象が生まれる。
この心という書物という暗喩は、以後ヨーロッパに広く伝播していく。ドミニコ会修道士にして師エックハルトの神秘主義の後継者・擁護者であったハインリヒ・ゾイゼ(1295‐1366)においては、この暗喩を文字通り実践するという過剰な熱誠に至り、キリストの名を自分の体に刻みつけるまでになる。
十一世紀末から多様な形を取って広まっていったキリスト教信仰の刷新と識字率の漸進的な向上とによって、霊性の書は、ラテン語あるいはそれぞれの現地語によって書かれ、普及していく。それは、現実の書物としてばかりでなく、象徴的な「書物」としても、十五世紀に至るまでのあらゆる階層の人々に受け入れられていく。