内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

日本の近代化の特異性を際立たせる古代ギリシア文化との関係

2019-11-11 23:59:59 | 哲学

 Michael Lucken, Le Japon grec. Culture et possession, Gallimard, 2019 は、古代ギリシアと近代日本との文化全般に渡る独特な関係を精査することで、日本の近代化の特異な性格に新しい光を当てるという斬新な企図を見事に成功させた著作である。
 その序論を読めば、古代ギリシアに対して日本が世界的に類例のない関係性を持っていることがよくわかる。
 西欧列強によって植民地化された諸国では、西欧の文化的・文明的優位を顕示する手段として、西洋古典教育が強制された。その内容は、西欧文化・文明の「源泉」としての古代ギリシア・ローマの古典であった。それらの国では、だから、古代ギリシア・ローマの古典といえば、抑圧の経験とその記憶と分かちがたく結びついている。
 一方、ヨーロッパにも地中海世界にも属していない日本は、古代ギリシアの遺産の「正当な相続人」ではない。ところが、西欧列強によって植民地化されなかったために、「西洋古典研究」は、抑圧の経験とは無縁に、ある種の自律性を保っている。
 この日本の立場の特異性が、日本における「西洋化」の内実を新たに問い直すことを可能にするばかりでなく、文化の転移・同化過程に独自の角度から照明を当てることをも可能にする研究テーマを与えてくれる。