マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

楽器が乾燥するとどうなるか

2013-02-18 | ピアノ技術者の仕事

 カワイイわんこの熱烈歓迎を受け、お客さんの家に入る。
長年訪問の仕事を続けていると、部屋に入った瞬間大体の湿度と室温が分かる。
室内環境はピアノのコンディションに大きな影響があるので
仕事を始める前に必ず気にするチェックポイントのひとつ。

この部屋はピアノのためには暑すぎで乾燥しすぎてますという僕の意見を
すぐには受け入れてくれないTシャツ姿のおじさん。



 お客さんが所有するピアノは1892年にウイーンで産まれた楽器。
ベーゼンドルファーの弟子によって作られたヴィンテージ物。
ウインナーアクションと言うウイーン派の跳ね返り式打鍵機構で
ハンマーはフェルトの上に鹿皮が巻かれていて、独特の柔らかく甘い音色。 
もちろんデザインも当時のベーゼンドルファーに似ていて
旧き良き時代の雰囲気を醸し出している。



が、気になるのが過乾燥。
悪い予感はお年玉年賀はがきの1等に当たるよりも15625倍以上の確率で的中。
響板は簾(すだれ)のように何本もの太い亀裂が出来ている。
チューニングピンが緩いのは狂った音を聴くだけで分かる。
細かい木材の部品も反りがでて、戻らない鍵盤、止音できないダンパーが続出している。 
はい、調律不可能でございますょ。





最新兵器をお道具箱から出して測定してようやく納得してもらう。
加湿器を付けようか? いやその前にとにかく室温を下げましょう。
木材が割れたり反ったりすると自然に元には戻りません。
オーバーホールが必要です。 やるしかないでしょ?  
でも、首を立てには振ってくれないお客様。

あきらめずに交渉していくつもりですが……  -まー