初嶋大神宮
(はつしまだいじんぐう)
兵庫県尼崎市築地2-6-17
阪神淡路大震災で大きく傷付いた社域も、現在は綺麗に復興されています。
〔御祭神〕
天照大御神
(あまてらすおおみかみ)
事代主命
(ことしろぬしのみこと)
応神天皇
(おうじんてんのう)
蛭子命
(ひるこのみこと)
兵庫県と大阪府の県境を流れる中島川。そのすぐ西隣、国道43号線の南側に築地地区があります。この地域は、平安時代の頃には白砂青松、そして海に点在する砂洲が織り成す絶景が広がる美しい景勝地として知られていました。951(天暦5)年に編纂された「後撰和歌集」に戒仙法師が詠んだ詩「あな恋し 行きてや見まし 津の国の 今もありてふ 浦の初島」が収められたのを皮切りに、1439(永享11)年編纂の「新続古今和歌集」に至るまで実に21首の歌が詠まれるなど、数多くの歌人たちがこの地の美景を「歌枕 浦の初島」と称して愛し、何度も足を運んだと伝えられています。その初島の地の氏神として地域住民の崇敬を長く集めているのが、初嶋大神宮です。
1974年に伊勢神宮より下賜された大鳥居は震災で倒壊。現在の鳥居は復興されたものです。
「尼崎志」によると、14世紀の正和年間(1312~1317年)の頃、近江国坂本に鎮座する日吉神社より一社が尼崎の地に遷座されてきました。やがてこの御社は、別所町南浜(現在の東本町)と別所村東山町(現在の西本町)の2つの地域へと分社されていきます。別所町南浜に祀られた御社は初嶋恵比寿神社と呼ばれ、地域の氏神として崇敬を集めていきました。ちなみに別所村東山町に祀られた御社は、阪神電車の中からも良く見える大鳥居で知られる尼崎戎神社だといわれています。
時代は下って江戸時代に入り、尼崎藩第4代藩主を務めた青山幸利公が尼崎城の南方に広がる小島と葭島一帯を町域へと変える大造成工事を遂行。1655(寛文5)年に築地の町が誕生し、別所町や東町、中在家町などから多くの住民が移転することとなりました。それに伴って別所町南浜の初嶋恵比寿神社も移されることとなり、1666(寛文6)年に現在地に遷座されて「築地の氏神」としての新たな歴史を刻むこととなりました。
震災で倒壊するも見事に再建された社殿。神輿も篤志家の尽力で往時の輝きを取り戻しました。
享保年間(1716~1736年)に入り、宮司を勤めていた上村家は藤原北家水無瀬氏の流れを汲む京都の公家・町尻家(まちがみけ)より、次男である町尻為量卿を養子に迎え入れます。町尻為量卿の姪がのちに中御門天皇の皇后となり、産まれた皇子が櫻町天皇として皇位に就くという慶事に恵まれるなど、初嶋恵比寿神社は皇室との強い結びつきをもとに大きく隆盛していきます。社殿が新築されたのもこの時期で、社名が「初嶋太神宮」と改称されたのもこの頃だといわれています。1751(寛延4)年には、水無瀬三位、町尻三位、山井大蔵卿、櫻井刑部権大輔、七条二郎丸といった公卿たちが社殿新築の祝いとして菊の御紋の入った見事な神輿を寄進しています。この神輿は阪神淡路大震災の際に屋根が一部損壊するなどのダメージを受けて存続が危ぶまれましたが、2002(平成14年)に地元出身の篤志家の尽力によって当時の姿そのままに修復され、輝きを取り戻しています。
社殿の西側に鎮座する荒神社(左)。社殿の東側には天満宮社と金比羅社が鎮座しています(右)。
1995(平成7)年1月17日に発生した阪神淡路大震災において築地地区は液状化現象に見舞われるなど、約1,100軒あった建物のうち10軒が全壊、292軒が半壊するという甚大な被害を受けました。昔ながらの城下町の香りの残る町並みはすっかり姿を変え、初嶋大神宮も拝殿が崩れ落ち、大鳥居も損壊するなど境内全域に大きなダメージを受けてしまいます。復興は困難を極めましたが、人情味に溢れた下町気風が残り、だんじり保存会や地域コミュニティなどの地域の絆が深い地域であったこと、自治体も地域住民の意見を尊重して慎重に復興計画を策定したこともあって比較的スムーズにまちづくり計画の合意形成が図られました。しかしながら液状化現象による地盤の不当沈下によって最大で2mもの凹凸が出来てしまった町域全体に1.5mほどの盛り土をしての区画整理事業が完了したのは、震災から10年近くが経った2005(平成17)年度末のことでした。
初嶋大神宮も氏子の皆さんの尽力によって拝殿や大鳥居の再建をはじめ復興が進められ、2007(平成19)年に無事「震災復興奉告祭」が執り行われました。阪神淡路大震災での苦難を乗り越えた築地地区では毎年9月の敬老の日とその前日の2日間にわたって初嶋大神宮や松嶋橋公園を中心に「築地だんじり祭」が行われており、地域の絆を深めつつ新たな未来に向けて力強い歩みを進めています。
神輿庫の隣に鎮座する八剣大明神(左)。毎年9月には「築地だんじり祭」が執り行われています(右)。
アクセス
・阪神電鉄本線「尼崎駅」もしくは「大物駅」下車、南へ徒歩約10分。
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【境内図】
拝観料
・境内無料
拝観時間
・常時開放