神戸の空の下で。~街角の歴史発見~

足かけ8年、150万PV突破。「近畿の史跡めぐり」のサブタイトルも、範囲が広がったために少し変更しました。

大阪・土佐稲荷神社。

2010年02月28日 | ◆大阪府
商売繁盛・諸業発展

土佐稲荷神社

(とさいなりじんじゃ)
大阪市西区北堀江4-9-7

三菱グループ発祥の地



土佐稲荷神社の鳥居。南側には土佐公園が広がり、子供たちの歓声で包まれています。



〔御祭神〕
宇賀御魂大神
(うがのみたまのかみ)



 大阪市西区役所の前を東西に走る長堀通。ここは、1960(昭和35)年から始められた埋め立て工事によって出来た道路で、それより以前には「長堀川」と呼ばれる川が流れていました。長堀川は、物資の水上輸送を円滑にするため、1622(元和8)年に伏見町の町人だった三栖清兵衛池田屋次郎兵衛伊丹屋平右衛門岡田心斎たち4名が中心となって開削した川で、この開削工事が完工したのとほぼ同時期には土佐藩がここに蔵屋敷を建てています。

 土佐藩は非常に経済に通じていた藩で、長堀川の両岸に蔵屋敷街を設けて土佐の特産物である鰹や和紙、材木などを商都・大坂に運び、全国へと流通させることで大きな利益を生み出していました。土佐鰹の市が建てられたことから、蔵屋敷の脇に架かる橋が「鰹座橋」や「土佐殿橋」などと呼ばれていたことからも、「天下の台所」と呼ばれた経済の中心地・大坂での土佐藩の存在の大きさを推し量ることが出来ます。





土佐稲荷神社の社殿。神紋には三菱グループの象徴・スリーダイヤモンドマークが入っています。


 
 土佐藩の経済力の源であった土佐藩蔵屋敷に守護神として祀られていたのが、土佐稲荷神社です。土佐稲荷神社は天正年間(1573~1592年)には既に創建されていたとも1770(明和7)年に伏見稲荷大社から勧請されたともいわれていますが、1717(享保2)年になって土佐藩主・山内豊隆公の崇拝するところとなって本格的に社殿の造営が行われ、蔵屋敷の鎮守社として一般にも開放されるようになりました。それ以来、山内家は参勤交代の折には必ず土佐稲荷神社を訪れて参拝するようになり、社殿の造営や修復の土佐藩の藩費をもって行われるようになりました。





東側の鳥居の南側には、放生池(左)と石宮大神社(右)があります。


 
 1868(慶応4)年、誕生間もない明治新政府を震撼させる事件が起きました。「堺事件」と呼ばれるこの事件は、大坂に滞在していたフランス領事たちが堺へと入ろうとしたことをきっかけに起こった事件で、事前にこの移動の通達を受けていなかった土佐藩兵たちと、フランス領事を迎えようとしたフランス海軍の兵士たちとの間で衝突が起こり、土佐藩の旗を倒すなどして小競り合いを起こしたフランス海軍の水兵に対して土佐藩側が発砲。フランス人11人が殺傷される騒ぎとなったため、フランス公使ロッシュが賠償金や事件関係者の処罰を求めて猛抗議を行うという事態に至りました。

 圧倒的な軍事力を背景に圧力をかけるフランスに対し、明治政府は法外な要求を呑まざるを得ず、結局賠償金の支払いと20名の切腹という条件を飲み、事件に関わった29名に籤を引かせて切腹する者を決めさせました。この籤引きが行われた場所が、ここ土佐稲荷神社です。この後、堺の妙国寺に護送された20名は、立ち会っていたフランス海軍の水兵たちの前で切腹を行いましたが、藩士たちは腹を切った後、その腸をフランス兵士たちに投げつけながら絶命していき、その凄惨さを見かねたフランス側は、たまらずフランス側の被害者数と同じ11名が切腹したところで刑の執行の中止を要請したといいます。自刃して果てた土佐藩士たちは妙国寺で厚く葬られ、フランス人犠牲者たちの碑も神戸市立外国人墓地に建てられています。





東側鳥居の北側に鎮座する稲荷社(左)と、岩崎弥太郎の屋敷跡である事を伝える石碑(右)。


 
 土佐稲荷神社は「三菱グループ発祥の地」としても知られています。坂本龍馬が暗殺されたことをきっかけに解散した海援隊の後を継ぐ形で、土佐藩は1870(明治3)年に大坂の長堀にあった土佐藩蔵屋敷を拠点に「九十九商会」を発足させ、その総責任者を岩崎弥太郎に命じます。九十九商会は翌年には個人事業会社に改組されて岩崎弥太郎が所有することとなり、同時に土佐藩屋敷も譲り渡される事となりました。代々土佐藩主が崇敬してきた土佐稲荷神社九十九商会に引き継がれ、岩崎弥太郎も社殿の造営などを行うなど、社の守護神として厚い崇敬を寄せました。九十九商会は1873(明治6)年に「三菱商会」と改称され、積極的に事業を展開して大成功を収めることとなりました。三菱が東京に本社を移転した後も土佐稲荷神社は三菱グループが守る事となり、今でも毎年4月には三菱グループの各社の代表が集まり、三菱の発展を願う祈祷祭が行なわれているそうです。





社殿の裏手に居並ぶ摂社(左)と、その南側にある植栽(右)。美しい梅が花を咲かせています。


社殿の真裏にある奥殿(左)と、社殿の東側にある蘇鉄の植栽(右)。



アクセス
・大阪市営地下鉄千日前線・長堀鶴見緑地線「西長堀駅」より徒歩5分
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拝観料
・境内無料

拝観時間
・常時開放