ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

記憶を書き換えての治療

2020-01-26 10:23:51 | 自然
記憶と感情は私たちの心に長い間残り、蓄積されて一人ひとりが形成される元となります。

一方深刻なトラウマを経験した場合、恐ろしい記憶は人生を変えてしまう程の精神疾患の原因ともなり得ます。

人間の脳の発達に関する理解が深まりつつある今、PTSD(心的外傷後ストレス)やうつ病、アルツハイマー病といった疾患に対し、記憶を書き換える治療法が少しずつ実現に近づいています。

ボストン大学のチームは、ネガティブな記憶をポジティブな記憶で「上書き」できるかどうかをマウスの実験で探っています。ポジティブな楽しい記憶は、オスのマウスをメスのマウスと一緒に1時間ケージに入れておくことで形成されます。

一方ネガティブな記憶は、別なケージで体を固定するなどのストレスを与えることで作られます。あるマウスにそれぞれの体験と刺激を関連付けて覚えさせたら、次はそうした記憶と関わる細胞を研究者が手術で操作します。

この実験によって分かったのは、ネガティブなケージの中でポジティブな記憶を活性化させると、マウスが以前ほど強く恐怖を感じなくなるようです。この記憶の「再教育」は、マウスの心的外傷を消すのに役立つのではないかと考えられます。

ただしそうした元々ある恐怖の記憶が完全に上書きされるのか、それとも抑制されるだけなのかは分かっていません。これとは別な技術を用いてカナダ・トロント大学のチームは、マウスから恐怖の記憶を完全に消し去ることに成功しました。

ある記憶と関連している細胞を特定した後で、それらの細胞内にあるタンパク質が、マウスは通常は抵抗力を持っている毒素の影響を受けやすいようにしました。毒素を注入されるとそれらの細胞は死滅し、マウスは恐怖を感じなくなりました。

その他完治することが難しいとされる薬物依存症を、脳を刺激することで治そうとする取り組みなども行われています。前の実験では、マウスの脳に直接ブルーライトを照射するなどの技術が使われました。

つまりマウスの頭蓋骨を切断して神経組織をむき出しにするといったことが、人間に使われる見込みは薄いでしょう。記憶を上書きしたり消したりすることがマウスで成功しても、人間に応用するまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

こういった記憶を操作するような技術に対しては、倫理的な問題もあるようですが、議論すべき事項というよりは正しく必要な人に行うような体制が重要と思っています。

喫煙にまつわる経済や健康格差

2020-01-25 10:26:15 | 煙草
社会・経済的な格差は、健康格差にもつながっています。

タバコを吸う人は、貧困層と低学歴の人に多いことはよく知られています。日本はずっと欧米ほど格差が大きくありませんでしたが、最近になって格差が広がってきており、それが喫煙率にも表れているようです。

厚生労働省が2018年の国民健康・栄養調査の結果を公表しました。この調査では初めて加熱式タバコの喫煙状況を調査し、男性の加熱式タバコの喫煙率が総数で22.1%となり、紙巻きタバコの併用を合わせると総数で30%を超えることが分かりました。

また年代別では20代、30代の加熱式タバコの喫煙率が男女ともに高くなりました。この調査では、世帯所得(年収)と喫煙率の関係も調べています。その結果200万円未満の世帯所得の男性の喫煙率は34.3%が最高であり、600万円以上の女性が6.5%で最低だったことも分かりました。

世帯所得と喫煙率の関係は、2014年の調査でも調べていますが、ほぼ同じ傾向だったようです。この4年で200万円未満の男性の喫煙率は約1%しか下がっていません。

2014年の習慣的にタバコを吸う男性の割合は32.2%で、2018年には29.0%と3.2ポイント下がっていますが、低所得の男性喫煙者はこれほど下がっていないことになります。

2010年の全国規模で行われた調査研究によれば、喫煙率が最も高かったのは25~34歳の男性で最終学歴が義務教育(中卒)の68.4%で、男性の大学院卒業19.4%の3倍以上の喫煙率となっています。

同様の傾向は女性にもありますが、配偶者のいない女性性でシングルマザーほど喫煙率が高いことも分かっています。2005年とやや古いのですが、配偶者のいない母親の喫煙率は、55%を超えていました。

母子家庭は低所得のケースが多く、生活の満足度が低いと喫煙率が上がることも知られています。社会的経済的な格差が、喫煙率という形を取って健康格差に表れているとしています。

行動経済学の研究によれば、喫煙者は長期的な不利益よりも短期的な利益の方を尊重する性向を持つと考えられています。

2018年の国民健康・栄養調査によれば、世帯所得が上がるほど男女ともに喫煙率は下がり、同じように健康診断の未受診率の割合も世帯所得が上がるほど下がる傾向があるようです。

こういった健康格差をなくすための方策として、タバコの値段をもっと高くすべきとしています。この文章はタバコが悪いものと決めつけていますので、取り上げ方がやや偏っているような気がします。

タバコにも良い面があるからこそこれだけの長い間、多くの人の嗜好品となってきているはずです。ここではあえて反論しませんが、経済格差が健康格差となるというのは、あまり納得できない理論と思っています。

収入まで「遺伝」で決まる 行動遺伝学

2020-01-24 09:56:14 | その他
ほぼあらゆる個人差には、無視できない遺伝の影響があります。

この「ほぼあらゆる」には身長・体重、心身の健康度、発達障害や精神疾患、犯罪、パーソナリティ、社会的態度、知能、学力、さらには職業適性や収入など、人が社会の中で生きるとき気になる側面がおおむね網羅されています。

「無視できない遺伝の影響」とは、大体30~60%程度で、特に知能や学力、精神疾患は遺伝率の高い方(50~60%)に位置づいています。一方社会的態度は30~40%程度ですので、遺伝で説明できない割合の方が大きいとも言えます。

しかし人間は環境次第でどうにでもなるほど環境に従順ではなく、良きにつけ悪しきにつけその人物の内側から出る遺伝的な持ち味を、程度の差こそあれ発揮しています。

「行動のあらゆる側面には遺伝の影響がある」というのが行動遺伝学の第一原則となっています。ヒトの形質への遺伝の影響は、遺伝子が全く同じ一卵性双生児の類似度を、環境は同じ条件だが遺伝子が半分しか同じではない二卵性双生児の類似度と比較することによって得られます。

この双生児法によると社会的態度の一卵性の一致度30~50%で、二卵性は15~25%程度にすぎません。大きいのは同じ家庭で育っても一人ひとり異なる環境があり、それを非共有環境と呼んでいます。

この例として、ネクラな人でもマクドナルドのレジに立ち、客に笑顔を作り元気に対応すれば明るく見えます。しかし客に見られない厨房や家に帰れば普段通りのネクラな自然の姿に戻ります。

一方生まれつき明るい人は、レジの前でも厨房でも家族の前でも明るいでしょう。これが根本的な違いであり、ネクラな人がこの仕事を何年も続けることにより、明るい性質になるという事はおそらくないでしょう。

レジ打ちや厨房を仕切る知識は学習によって身に付きますが、社交性や勤勉性などのパーソナリティは、学習された知識により作り出されるものではないからです。

それはドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が、それぞれの遺伝子タイプに従って、どの程度の配分で調合されて脳の中で放出されているかの違いによります。

学校を卒業したてのころ、収入の個人差を一番説明するものは共有環境で、およそ50%がこれで説明でき、遺伝の影響は20%にすぎません。

ところが親の七光りなどで与えられた共有環境による貧富の差は、その後20年余りをかけて仕事をこなすに従って、徐々にその人自身の遺伝的実力があらわになってきます。

つまり収入は、その人の遺伝的素質をどれだけ伸ばし続け、その時たまたまどんな仕事に恵まれていたかでほぼ説明がつき、はじめにあった親や親族のコネの影響など雲散霧消してしまうという事です。

これが行動遺伝学的解析ですが、まあこういった見方もあるのかもしれません。

注意すべき最先端ガン治療法

2020-01-23 10:29:05 | 健康・医療
ガンは「不治の病」から治る病気へと印象が変わりつつありますが、それにつけ込んで「治せる治療法」が続々登場しています。

こういった「最先端のガン治療法」をうたった書籍や広告をよく見かけますが、本当に効果があるのか怪しいものも多いようです。

必要なエビデンスつまり科学的根拠とは、人に対して効果があるかどうかの裏付けのことを意味します。一般的には人を対象とした臨床試験で有効性が証明され、その結果が第三者による査読審査で受けて学術雑誌に掲載されているのであれば、エビデンスが十分とされています。

ただしこの場合でも問題となることがあり、ある治療法が100%の人に有効という事はまずありません。ガンの場合は30%の有効率で効果ありと判定されていますので、70%の人には効果が出ないものです。

またたまたま臨床試験では30%有効となっても、実際に使用して見るとそれほど効かないという状況が続き、消えていく(使われなくなる)治療法も多いようです。しかしここでいう怪しげな治療法というのは、こういったエビデンスの全くないものを指しています。

そもそも怪しげなガン治療法が蔓延しているのはなぜかというと、日本に「ガン難民」があふれているからかもしれません。ガン難民とはガンが進行しているのに治療を行っていない人を指します。

3大療法である手術、抗ガン剤治療、放射線治療で治らないことから、緩和医療を進められてしまう人が非常に多くなっています。

日本のガン死亡者数は年間130万人で、その2人に1人が治療をせずに亡くなっていることから、広義では65万人ほどで、患者の実数予測から狭義では40万人程度いると言われています(やや多すぎる気はしますが)。

日本では3大療法で治しようがなくなると心と体を和らげる緩和ケアへ移行するしかなかった時代が長く、その中間に位置する医療がなかったためこれほど多くなっているようです。

つまり標準治療以外の治療を求める人が多く、その要望から怪しげな治療法が蔓延しているともいえるようです。新たな治療法としてオプジーボの様な免疫療法も始まり、このブログでも紹介しているウイルス療法や光療法も近い将来採用されるかもしれません。

それまでにはやはり何か治療を受けていると、患者が感じられるような治療法が、たとえ怪しげでも必要なものかもしれません。非常に高額であったり身体に有害である方法以外は、医師が頭から否定するだけでは問題は解決しないでしょう。

患者に「治療を受けている」と感じられることが、より良い緩和ケアといえるような気がしています。

男性が基準の医学の世界

2020-01-22 10:14:44 | その他
今の医療制度、治療法、研究の支援などは、人口の半分を占める女性たちが使うにはあまりに穴だらけのようです。

男性が支配してきた医学の世界では、治験も主に男性が対象でした。あくまでも男性が「基準」であり、新薬の効果も男性だけ調べれば事足りるとされてきました。

妊娠・出産が可能な年代の女性は安全面の理由から除外され、それ以外の女性もホルモンの男女差を関連要因から除外するために対象から外されていました。

私が臨床試験に関係していたのはもう20年以上前で、実際に携わるわけではなく結果の報告を受けていただけですので、男女比率については記憶があいまいになっています。

臨床試験の第Ⅰ相は、健康な成人に安全性や薬物代謝など基礎的データをとるもので、昔は学生アルバイトを使っていました。ホテルに3,4日缶詰になり、何回か血液検査を受けるだけで、良いアルバイトだったのですが、学生を使うのは良くないという事になりそれ以後は、製薬会社の開発担当など身内の人間を使うようになりました。

私はこれに参加したことは無いのですが、確かにほとんど(全員かもしれません)男性が対象となっていたようです。

実際の患者に投与する第Ⅱ相は、病院の入院患者ですので男性ばかりという事は無いはずですが、多分男性が多かったことは確かなようです。

1993年アメリカ国立衛生研究所は、女性の被験者をもっと増やすように求めましたが、2016年に医学誌が行った分析では、確かに女性の割合は増加しているものの、人口比を必ずしも正確に反映しているわけではありませんでした。

調べを進めるなかで、医薬品の安全性や有効性を男女別に分析することすら行われていないことも分かりました。男女の生物学的な相違や医療効果の差まで把握するには、女性のみを対象にした研究が必要になりますが、これまで全く行われていませんでした。

しかし男性中心の医療といっても、別に男性向けの医薬品を目指したことはありません。むしろ医薬品の研究に当たって、男女の差を全く考えていなかったことが問題なのかもしれません。

アメリカでは一つ以上の慢性疾患にかかっている女性の割合は38%で、男性は30%というデータもあり、女性は男性よりも慢性疾患や免疫疾患を抱えている人が多くなっています。

冠動脈疾患の場合、死亡率は女性の方が高く後遺症も深刻ですが、研究予算は男性対象の方がはるかに多いという実態もあります。女性向けとうたって発売される医薬品が、かえって女性の害になっていることすらあるようです。

こうした現状を見ると、女性が被験者になり意思決定できる研究や治験がまだ足りていないことが分かります。医薬品の効果も男性と女性では異なる可能性もあり、今後は女性を対象とした研究も必要となるでしょう。