一人想うこと :  想うままに… 気ままに… 日々徒然に…

『もう一人の自分』という小説を“けん あうる”のペンネームで出版しました。ぜひ読んでみてください。

雪虫

2005-10-30 18:46:29 | 日記・エッセイ・コラム
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 今年は雪虫が多いようだ。
いたるところで異常発生している。
雪虫と言っても雪の降らない地域に住んでいる人たちにはピンとこないだろう。
正式名称はトドノオオワタムシと言ってアブラムシ科の一種だ。
お尻に真っ白な綿帽子のようなものを付け、風のない初雪の降る頃にあたかも雪のようにフワフワと舞っている。
体長5mm程度の小さな虫だ。
ところが今年は、お尻に綿帽子をつけているいつもの雪虫だけでなく、同じアブラムシ科の綿帽子のないやつまで以上に多い。
ご主人様と奥様は雪虫を風情があると言って、結構楽しんでいるようだが、僕は嫌いだ。
塀の上を歩いていると、目には入ってくるし、あくびをしようものなら口の中まで入ってくる。
「こんな虫のどこがいいんだ?」
と思って周りを見渡した。
すると家の周りの木々が色づきはじめていた。
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とうとう平地にも紅葉が降りてきた。
紅葉が終わり、木々の葉が落ち出すと、いよいよ冬の季節を迎える。
その一番の使者が雪虫。
ご主人様と奥様は、この季節の変わり目を楽しんでいるようだった。


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紅葉~毛無山

2005-10-26 22:10:36 | 日記・エッセイ・コラム
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 今日、ご主人様と奥様は紅葉を見に行った。
ちょっと時期的に遅いかなと思ったが、天気も良いのでドライブがてら出かけていった。
まずは、まだ行った事のない豊羽鉱山へ向かう。
国道230号線から道道1号線へと右折し、定山渓温泉を抜けると右側の林道に入っていった。
その途端、山並みが綺麗に色づいていた。
「まだ紅葉が残っている」
二人は赤や黄色に染まった山並みを眺めながらのんびりと車を走らせた。
すると、道路のど真ん中に車を停めているやつがいる。
運転席側のドアを開け放し、中には誰も乗っていない。
「非常識なやつだなあ」
と思いながらよけて通ろうとすると、カメラを片手に山並みを眺めている立派な中年のご婦人がいた。
「なるほど」と、納得したようなご主人様と奥様はその場を離れた。
そして時々車を停め、紅葉を眺めながら豊羽鉱山を目指した。
すると、先ほどの立派な中年のご婦人の乗る車も二人の後を同じようについてくる。
結構行動力はありそうだ。
それに行先も同じようだった。
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 しばらく走ると色づいた山並みの中から、豊羽鉱山が現れた。
初めて見る鉱山だ。
ご主人様は鉱山の中を見たくて敷地内に入ろうとした。
しかし、『ここから先は部外者立ち入り禁止』の立て看板に阻まれ、Uターンを余儀なくされた。
ところが、例の立派な中年のご婦人は立て看板の前に車を停め、出てくる鉱山の車輌に次々と手を振り止めようとしている。
三台ほど無視された後、やっと一台の車が止まってくれた。
なにやら交渉しているようだ。
車に乗っていた男の人は、最初は首を横に振っていたが、根負けしたのかとうとう首を縦に振った。
ご婦人の勝ちのようだった。
ご婦人は車に乗ると鉱山の中へと消えていった。
この見事なおばちゃんのパワーにご主人様と奥様は脱帽していた。
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 二人はこのあと道道1号線に戻り、さっぽろ湖で休憩した後、朝里川を通り赤井川村へ向かった。
山々の紅葉は終わった所とまだ綺麗に色づいている所があった。
よく見ていると、白樺の多い山はすでに葉が落ち紅葉は終わっていたが、それ以外の広葉樹は赤や黄色で綺麗に山をおおっていた。
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 赤井川村へ向かう途中、北海道ワインで『小樽市の皆様へ』という地域限定のワインを買い、更に車を走らせると、ご主人様はおかしな標識を見つけた。
『毛無峠1合目』とある。
しばらく行くと、『毛無峠2合目』、さらに3合目、4合目・・・
どうも峠を上るたびに毛が抜け落ち、生え際までもがズリズリと上がっていきそうだ。
ご主人様は最近頭の毛が気になって仕方がない。
とうとう頂上に着いた。
そこには大きく『毛無山』と書かれた看板があった。
車を降りると風が強く、毛が全て抜け落ち飛んで行きそうだった。
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 このあと、ご主人様と奥様は赤井川村のホピの丘でベーコンとソーセージを買い、小樽の栗原蒲鉾店で蒲鉾を買い帰路についた。
家に着いてから、これらを肴にワインで一杯やったのは言うまでもない。


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奥様 vs カラス

2005-10-22 21:46:36 | 日記・エッセイ・コラム
 最近のご主人様は朝が早い。
午前6時には家を出る。
 いつものように奥様と僕はご主人様を見送ると、奥様はゴミを出した。
そして時間があるのか、玄関前を竹ぼうきで掃いていた。
するとゴミステーションの方から、ゴソゴソと音がする。
「何だろう?」と思って見てみると、カラスがゴミをあさっていた。
「コラッ!」
と奥様が怒ると、カラスは隣のFさん宅の塀の上に飛び上がった。
そして、「カッカッカッカー」とバカにしたように鳴いている。
奥様は無視して掃き掃除をしている。
するとまたもやカラスはゴミをあさりだした。
「コラッ、だめでしょう!!」
奥様は向き直って怒った。
カラスはまたFさん宅の塀に飛び上がった。
奥様もまた掃除をはじめた。
するといきなり奥様の頭の上すれすれを黒い影が飛び去った。
そして向かいのHさん宅の門の上に伸びている松の木にとまった。
あのカラスだった。
「カッカッカッカー」とまたバカにしたように鳴いている。
この挑発とも言っていい行為は、完全に奥様を怒らせてしまった。
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奥様は右手に竹ぼうきを持ち、仁王立ちしてカラスを睨みつけると、薙刀よろしく竹ぼうきを振り回し、カラスに向かって行った。
しかし、カラスはヒラリヒラリとほうきの先をかわし、奥様の頭上から飛び去ろうとしない。
それどころか奥様を見下ろして、「カッカッカッカー」とバカにして鳴いている。
どうにもならない奥様の頭にあることがひらめいた。
「そうだ、カラスは飛道具に弱い」
奥様は竹ぼうきをライフル銃のように構え、狙いを定めると、「パーン!!」と叫んだのだ。
さすがにカラスはびっくりしたらしい。
「バサバサッ」と羽音をたてて飛び上がると奥様を一瞥し、そのまま飛び去って行った。
奥様は、「ざまーみろ」というように両手を腰に当て、逃げ去るカラスを見ていた。
しかし、この時僕にはカラスの捨て台詞が聞こえたような気がした。
「おぼえてろー、くそばばー!!」

 奥様とカラスの戦いを近所の人が見ていたら、いったいどう思ったろう。
絶対に腹を抱えて笑っていたに違いない。
僕もおかしくて仕方なかった。


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月見酒

2005-10-19 21:33:32 | 日記・エッセイ・コラム
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 ご主人様は毎日のように晩酌をする。
飲むのは決まってバーボンの水割り。
一人座ってぼんやりと、窓の外を眺めながら飲んでいる。
そういう時、僕はいつもご主人様の横でごろ寝。
別にご主人様に用があるわけでもない。
ご主人様も僕に用があるわけでもない。
だけどいつもそばにいる。
 最近は月がきれいだ。
窓の外には満月が浮かんできた。
ご主人様はただぼんやりと月を眺め、いつものように飲んでいる。
そして時々フフッと笑ったり、誰かに話しかけているようにも見える。
どうも、もの想いにふけっているようだ。
 傍らのステレオからはビートルズが流れている。
ジョンレノンの『GOD』。
 ご主人様はジョンレノンが大好きだ。
レノンが凶弾に倒れた時、「オレの青春の1ページは終わった」
そう言って嘆き悲しんだそうだ。
この時、ふと思った。
「1ページが終わった」ということは、ご主人様の青春はいったい何ページあるんだ?」
僕は聞いてみた。
すると、「死ぬまで青春だ」と答えた。
どうもご主人様の青春は相当数のページ数があるらしい。
 柳葉魚(ししゃも)を一口頬張った。
北海道鵡川産の本物だ。しかもオスである。
口に入れた瞬間に脂がじわ~とにじみでる。
口を動かしながらもご主人様は相変わらす窓の外を見ている。
目で見ている、という感じではない。
頭の中で何かを描いているようだ。
とりとめの無い何かを。
 レコードの片面が終わり、ご主人様はレコードをひっくり返すと、ゆっくりと針を置いた。
1曲めの『MOTHER』がかかった。
この曲もご主人様のお気に入りだ。
ひとり静かに飲んでいる時は、こういう曲を聴いていることが多い。
 月が天上で輝きだした。
気がつくとレコードの曲は終わり、「ジーッコ、ジーッコ」と針の音だけがエンドレスで鳴っている。
ご主人様は目を閉じ、こっくりこっくりと舟を漕ぎ出した。

『月見酒 柳葉魚肴に なに想う』


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古民家

2005-10-16 22:07:08 | 日記・エッセイ・コラム
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 古民家。といっても本州で言う築何百年の立派な民家のことではない。
歴史の浅い北海道にはそのようなものはほとんど存在しないし、厳しい風雪に何百年も耐えるのはまず無理だろう。
 ここで言う古民家とは古い木造住宅のことである。
屋根は当然三角屋根。壁は板張りで庭に面して縁側がある。
今では本当に珍しくなった本州の建築様式を残した家である。
今日はその家にまつわるお話。

 僕はハルカの死後しばらくは落ち込んで家の中にいた。
しかし、それも三日だけ。
やはり僕はおもてに出たい。自由に散歩したい。
そう思って何度も何度もベランダの窓を引掻いた。
根負けした奥様は、また僕を自由に出してくれるようになった。
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 僕はベランダに出ると、ぶどうの木を伝って庭に下りた。
やはり外は気持ちが良い。
一通り庭を散歩すると玄関先に回った。
僕の姿が見えなくなったからか、二階の窓から奥様の呼ぶ声が聞こえる。
そんな事かまってられない。
今日はどうしても行ってみたいのだ。
ハルカが住んでた向かいの木の家に。
 僕は道路を渡るとオンコの下をくぐり庭に入ろうとした。
しかし・・・、ここで足が止まってしまった。
なんと草が生え放題で前が全く見えない。
僕は草を掻き分け進んだ。すると急に右の前足が下に沈んだ。
なんだか冷たい。
前足を引き抜き草をよけると、小さな池があった。
「庭に池がある」
僕はビックリして覗き込んだ。
すると何か紅く光るものが泳いでいる。
金魚だ。
思わず右手でつかもうとした。
しかし、つかめるわけがない。
僕はさらに進んだ。
やっと縁側の下に来たようだ。
今ではほとんど目にする事のない縁側。
昔はりっぱな家だったんだろう。
縁側の下を見ると中に入れるようだ。
僕は縁の下に入り、暗闇に慣れてくると四方から薄光が差し込んできた。
昔の家は自由に縁の下に入れるようだ。
僕は反対側から外に出ると、目の前に丸くコンクリートで囲まれた物があった。
どうやら井戸の跡らしい。
井戸の中を覗こうとした時だ。この家の主が玄関から出てきた。
僕はまた縁の下に入った。
 この家の主であるHさんは独身だ。
僕のご主人様より年上だが、結構独身生活を楽しんでいるらしい。
遊びたい時は遊び、働きたい時は働く。そして本を読み出したら何日でも家に閉じこもってしまうらしい。
なんとも羨ましい生活だが周りの目にはとてもユニーク、あるいは奇異にうつる事もあるらしい。
しかし、ご主人様と奥様は昔から知っているので、会うと世間話に花を咲かせている。
 今日も何日ぶりかで家の外に出てきた。
すると珍しい事に門の真上に伸びている松を自分で上げようとしている。
自分で家の仕事をするなんて本当に珍しい。
そこに隣のSさんがやって来た。
この方も独身だ。性格は二人とも良く似ている。
「Hさん、なにやってるの?」
「松が引っ掛かって車の出入りができなくなってきた」
「いきなりそんな事やってると雨降るよ」
「そうだそうだ、せっかく天気がいいのに雨降らすなよ」
気がつくとご主人様と奥様までやって来た。
「Hさん、そんなことより庭の手入れしたら?
せっかくの庭が台無しじゃない」
奥様がそう言うと、思い出したようにSさんが言った。
「そうだHさん。この家改造して喫茶店でもやったら」
「そうよ、古い住宅改造して喫茶店やレストランやってるとこ結構あるじゃない」
「そんなものやったって儲かるわけないよ」
そうHさんが答えるとご主人様が言った。
「そりゃそうだよな。客が来てコーヒー注文したら、『豆はそこ。ミールとドリッパーはあっち。お湯はそれ使って。カップと皿は棚の中』てな具合で自分じゃ何にもしねえだろ。先が見えてるよ」
一同大笑いしていた。
皆さん性格を見抜いているらしい。

 ここで古い木造住宅を改造した喫茶店についてちょっとだけ話したい。
中央区には古い木造住宅を改造した喫茶店やレストランが何軒かある。
前にご主人様と奥様がその中の一軒に行ったことがある。
その喫茶店は古くからある閑静な住宅街にあった。
小さな看板を見逃すと通り過ぎてしまいそうなくらい普通のたたずまいであった。
普通の家の玄関を入ると長い廊下を通され、奥の部屋が喫茶室になっていた。
部屋に入り席につくと縁側から庭が見える。
庭といっても松や大きな石があるような俗にいう立派な庭ではない。
あるのは藤棚とその横に梨の木が一本。
ただそれだけなのだ。
それがなんとも言いようのない居心地さを醸し出していた。
そんな事もありみんなで勧めていたのだが、Hさんのユニークさではしょせん無理だった。

 井戸端会議も終わり、皆家に帰ると僕も縁の下から出て家に帰った。
奥様のところへ行き、「ただいま」と言おうとしたら、奥様はビックリしたような顔をして言った。
「お向かいのHさんの所まで行って来たのね」
どうしてわかったんだろう。
「くもの巣が付いてるからわかるのよ」
どうやら縁の下に入れるのはHさん宅だけなので、すぐばれてしまったようだ。

 後日、ご主人様が会社に行った後、Hさんが来てピンポーンとインターホンを鳴らして言った。
「これから3~4日旅行に行くので家空けますから。人気が無くても別に死んでるんじゃありませんから。
ただ何かあったらよろしくお願いします」
奥様は「ブッ」と笑ってしまいそうになったが、なんとかこらえて明るく、「いってらっしゃーい」と送り出した。
本当にユニークな方だ。


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片思い

2005-10-12 19:56:26 | 日記・エッセイ・コラム
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 僕はまた一人で外に出ることができなくなった。
この前の一件で外出する時は、いつも奥様と一緒だ。
それも犬のように紐を着けられて。
仕方がないので家にいる時は階段の踊り場の窓から外を眺めるのが日課になった。
ここから眺めていると、道行く人々が良く見える。
ママチャリに乗った買い物帰りの近所の奥さん。
塾へ急ぐ小学生。
犬と散歩中のおじいちゃん。
郵便屋さん、新聞屋さん、等など。
眺めているだけで結構飽きない。
 人通りが途切れたところで、ふと向かいの家を見た。
道路をはさんだ向かいの家は古い木造住宅で庭には草木が一杯生えている。
二階に目をやった時、フッと何かが動いた。
灰色っぽい何かが。
僕は目を凝らした。
すると、やわい日差しを浴びてのんびりと昼寝をしている猫がいた。
よほど気持ちが良いのだろう。
仰向けになったり、うずくまったり。
寝返りを打つのだが、一向に起きる気配はない。
僕はしばらく見つめていた。
 夕方、奥様が帰ってきたら早速聞いてみた。
「向かいにいる猫はどんな猫?」
「ああ、あの子?
あの子はハルカという名のアメリカンショートヘアよ。
もちろん血統書つき」
「血統書?」
僕は血統書という言葉を聞いた時、少し落ち込んだ。
なぜって?
だって生まれも育ちも僕とは段違いだから。
しかし、ハルカという名を聞いたらどうしても気になってしょうがない。
だってメス猫だあ~。
 僕は次の日もう一度踊り場の窓から向かいの家を見た。
いた!!
今日はきちんとお座りをして、二階の窓から外を眺めている。
美人だ。さすがに血統書付。
「おーい。こんにちはー」
呼んでみたが聞こえないのか見向きもしない。
僕は窓をカリカリと引掻いてみた。
見た!!
確かにこっちを見た。
しかし、プイと横を向くとそ知らぬ顔をしている。
まるで僕の存在を無視するかのように。
 僕はめげなかった。
何日も何日も彼女とコンタクトを取ろうとした。
しかし結果は同じだった。
いつまでたっても彼女はこっちを見ることはなかった。
そしていつしか彼女そのものの姿も見かけなくなった。
「どうしたんだろう」
僕は気になって奥様に聞いてみた。
すると奥様は寂しげに答えた。
「入院してるみたいよ」
「えっ? どうして?」
「ノラと喧嘩して白血病にかかったみたい」
僕は言葉が出なかった。
奥様と一緒にハルカのいない向かいの家を見つめるだけだった。
 その後ハルカは入退院を何度か繰り返した。
そして三週間後、静かに永遠の眠りについたと言う。
僕はハルカの死後も向かいの家の窓を見続けていた。
一度も言葉を交わしたことのない彼女が愛しくてしょうがなかった。
本当にショックだった。
しかし・・・
もっとショッキングな事を奥様から聞かされた。
実は・・・
彼女は・・・
オスだった・・・!!


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墓標

2005-10-09 21:20:03 | 日記・エッセイ・コラム
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 僕が一人で外出するようになってからニ~三日たったある日、庭の片隅に変なものを見つけた。
一つは白樺で囲ってあり、もう一つはレンガで囲ってある。
白樺の方には菊が一輪、レンガの方にはトナカイのぬいぐるみが置いてあった。
なにかわからず、しばし眺めていた。
ただの置物ではなさそうだ。
何だろう?
思い出した。ご主人様と奥様が話していたことを。
僕がこの家にくる前に黒猫の先輩達が二匹いたそうだ。
二匹とも本当におりこうさんの猫だったらしい。
僕とは段違いだ。
しかし、二年ほど前に相次いで亡くなった。
死因は白血病。
猫の白血病は人間とは違い感染するらしい。
母子感染もあれば、猫同士喧嘩してちょっとした傷でもうつるらしい。
また、白血病のウイルスを持っていても、生涯発病することなく一生を終える猫もいるという。
本当にやっかいな病気だ。
 僕は墓前の前で目を閉じ合掌した。
この土の下に黒猫が二匹、眠っている。
ご主人様と奥様に可愛がられた黒猫が・・・
そう思い、閉じた目を開けた時だった。
背後に強い視線を感じた。
振り向くとトラ模様の野良猫がいた。
僕と目が合うと「フーッ!!」と言いながら全身の毛が逆立った。
僕も全身の毛が逆立っていた。
その時、奥様が「ビビー、ビビー!!」と叫びながら走った来た。
途中で木の棒切れを拾うと思いっきりトラ猫に投げつけた。
トラ猫はビックリして走り去っていった。
奥様はまだ毛が逆立っている僕を抱っこすると頬すりしながら言った。
「だから言ったでしょう、一人で出ちゃ危ないって」
やっと僕は一人で出してもらえなかった理由がわかった。
野良と喧嘩してまた白血病にかかったら・・・
それが奥様の一番の心配だった。


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初めての外出

2005-10-07 22:16:01 | 日記・エッセイ・コラム
bibi2-3
 僕はご主人様のうちに来てから、しばらくの間一人で外へは出してもらえなかった。
外に出たいとせがむと、必ず犬のように紐を着けられ奥様と一緒に散歩だった。
なぜ一人で出してもらえないのか、よくわからなかった。
仕方がないので家の中をあちこち探検する日々が続いた。
当然?僕が家の中を遊びまわると悪さをしてしまうらしい。
レースのカーテンは引き裂くし、花瓶は落として割ってしまう。
怒った奥様は家中の戸を常に締め切ってしまった。
しかし、僕はめげなかった。
引き戸は爪を立ててこじ開け、ドアのノブは飛びついてぶら下がり開けてしまった。
挙句の果て障子戸は常に出入りできるように穴を開けてしまった。
根負けした奥様は二階のベランダなら大丈夫だろうと出してくれた。
僕はおずおずとベランダに出た。
日の光がまぶしかった。
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ベランダの端の方を見ると、葉っぱが生い茂っていた。
ちょうど良い木陰だ。
僕は日差しを避け、木陰で横たわっていた。
しかし、なぜ二階のベランダに葉が生い茂っているんだ?
僕は足元を見た。
そしてニヤッと笑った。
なんとそこには庭の片隅に植えてあるぶどうの木が、二階のベランダまで伸びてきて、手すりに絡み付いていたのだった。
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太いぶどうの木が梯子のように二本、地面から伸びていた。
僕は躊躇することなくぶどうの木を伝って地面に飛び降りた。
「ヤッター!! ついに出れた!!」
 僕は庭の中を歩き回った。
久しぶりに嗅ぐ土の匂い。そして草の匂い。
なつかしかった。
夢中で草を噛んだり、土を掘ったりしていた。
裏の方にはご主人様の造ったカヌーが三艇、ラックの上に並んでいた。
カヌーの下で遊んでいると、遠く上の方から奥様の呼ぶ声がしてきた。
「ビビー、ビビー。帰っておいでー」
かなり心配しているらしい。
仕方がないので、今日のところは帰ることにした。
ぶどうの木をよじ登りベランダに入ると、奥様の顔があった。
怒った顔と心配した顔。そしてホッとした顔がそこにあった。
僕は思わず胸に飛びついた。
奥様はジーッと抱きしめてくれた。
なぜだか僕もホッとした。


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娘盛り、花盛り

2005-10-04 21:45:15 | 日記・エッセイ・コラム
mamito1
 ここでご主人様について少し語ろう。
僕のご主人様はサラリーマンでどう見てもただのおっさんだ。
ただちょっと違うのは自分で造ったカヌーで遊びに行くのが趣味のようだ。
そしていつも奥様と一緒に行く。
はたで見ていると本当に仲が良さそうだ。
しかし、奥様の言い分はちょっと違うらしい。
曰く、「どうせ私はカヌー運搬人ヨ」
どうやらご主人様は自分一人ではカヌーを車に載せる事も運ぶ事もできないらしい。
だからいつも「一緒に行こう」と誘うようだ。
ま、理由はどうあれ、仲の良い事は確かのようだ。
 ここ数年、ご主人様はカヌーに乗るたびにポツリと言う。
「前は子供達も一緒に遊んだのに」
すると決まって奥様が言う。
「子供達も大人になったのよ」
しかし、ご主人様の横顔はいつも寂しそうだ。
 去年、久しぶりにキャンプに行った。
ご主人様と奥様、それに兄夫婦と三人の姪っ子達。そしてそれぞれの彼氏。
楽しい一泊二日を過ごし、帰り際に兄夫婦が言った。
「来年もまた同じメンバーでキャンプしよう。
ただし、彼氏の顔が替わっているのがいるかも」
ご主人様は思わず「ブッ」と吹いてしまった。
けど羨ましかったようだ。
「来年は娘も彼氏と一緒に来ればいいのに」
ご主人様はそう思ってキャンプ場を後にした。
sikotuko176-3
 先月、その夢がかなった。
去年のメンバー(なんとか姪っ子達の彼氏は全員同じだった)とまたキャンプをした。
そしてご主人様の娘がなんとか日程を合わせて彼氏と一緒にバイクで駆けつけてくれた。
ご主人様はたいそう喜んでいた。
多感な時期を過ぎると、また一緒に遊んでくれるようだ。
 娘と姪っ子達とそれぞれの彼氏達。
みんな、良い顔をしていた。

 娘盛り、花盛り。


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はじめまして

2005-10-03 21:56:10 | 日記・エッセイ・コラム
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 僕は黒猫。名はビビ。
生まれは北海道、洞爺湖のキャンプ場・・・らしい。
気がついた時には兄弟達と一緒にダンボール箱に入れられ、キャンプ場のゴミステーションに捨てられていた。
そこで助けてくれたのが今のご主人様の友人であるUさん。
Uさんなる人物は家業を奥さんにまかせ、一年の殆どをキャンプ場で暮らしているアウトドア人間。
それに大の猫好きらしい。
当然僕たちを放っておけず里親を探すため、友人、知人に電話をかけまくった。
そして今のご主人様にも電話をした。
「ようYさん、最近どう? カヌー行ってる?」
「あんまり休み取れなくてまいってるよ」
「仕事ばっかりじゃ体こわすぞ。
ところでさあ、猫いらねえか?
キャンプ場に捨ててった不届きものがいるんだ。
目が開いたばっかりの子猫が五匹。
一匹もらってくれないか?」
 ご主人様は一瞬言葉に詰まった。
なぜって?
実はYさんからこのような電話がくるのは二回めなのだ。
前に電話があった時はちょっとためらったが猫好きなこともあり、黒猫を一匹引き取った。
本当に可愛く、おりこうさんな猫だった。
しかし、その黒猫は白血病にかかり、二年前に亡くなっていた。
最近、やっと忘れかけていた矢先にYさんからまた電話がきたのだった。
 ご主人様はしばし考え、口を開いた。
「黒いのはいるか?」
「ああ、一匹いるぞ」
「その子は大丈夫か?」
「大丈夫かって、例の病気のことか?」
「ああ、そうだ」
「そんなもの大きくなってみないとわかんないだろ」
 一瞬間があいた後、ご主人様は言った。
「黒いのを一匹、うちで引き取るよ」
「ありがとう! さすがYさん。礼を言うよ。
これで五匹全部の里親が決まった。
ほんとにありがとう。
さっそく明日バイク便で送るよ」
「バイク便?」
 ご主人様は呆気にとられたが、Uさんはかまわず話し続けた。
「ああ、ここに東京から道内旅行に来ているライダーがいるんだ。
明日、札幌にいくからついでに乗っけてもらうよ」
「ああ、わかった。
くれぐれも気をつけるように言ってくれ」
「了解。じゃあ猫たのむな」
 僕は小さなダンボール箱に入れられ、札幌に向かった。
三時間かかってご主人様の家に着いた頃には車酔いでフラフラになっていた。
やっとダンボールのふたが開き、日の光が差し込んでくると同時にごつい手が伸びてきた。
ご主人様の手だった。
僕をつかみ上げ、ジーッと見ている。
僕はなんか怖くなった。
「まずいところに来てしまったようだ」
そう思っていると、横から小さな手が伸びてきた。
僕をそうっと抱き上げ、ふんわりとした胸でだっこしてくれた。
やわらかく、あたたかい胸だ。
奥様だった。
僕は忘れかけていたものを思い出した。

 こうして僕は今のご主人様と奥様のところへやって来た。
去年の夏のことだった。


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