僕は黒猫。名はビビ。
生まれは北海道、洞爺湖のキャンプ場・・・らしい。
気がついた時には兄弟達と一緒にダンボール箱に入れられ、キャンプ場のゴミステーションに捨てられていた。
そこで助けてくれたのが今のご主人様の友人であるUさん。
Uさんなる人物は家業を奥さんにまかせ、一年の殆どをキャンプ場で暮らしているアウトドア人間。
それに大の猫好きらしい。
当然僕たちを放っておけず里親を探すため、友人、知人に電話をかけまくった。
そして今のご主人様にも電話をした。
「ようYさん、最近どう? カヌー行ってる?」
「あんまり休み取れなくてまいってるよ」
「仕事ばっかりじゃ体こわすぞ。
ところでさあ、猫いらねえか?
キャンプ場に捨ててった不届きものがいるんだ。
目が開いたばっかりの子猫が五匹。
一匹もらってくれないか?」
ご主人様は一瞬言葉に詰まった。
なぜって?
実はYさんからこのような電話がくるのは二回めなのだ。
前に電話があった時はちょっとためらったが猫好きなこともあり、黒猫を一匹引き取った。
本当に可愛く、おりこうさんな猫だった。
しかし、その黒猫は白血病にかかり、二年前に亡くなっていた。
最近、やっと忘れかけていた矢先にYさんからまた電話がきたのだった。
ご主人様はしばし考え、口を開いた。
「黒いのはいるか?」
「ああ、一匹いるぞ」
「その子は大丈夫か?」
「大丈夫かって、例の病気のことか?」
「ああ、そうだ」
「そんなもの大きくなってみないとわかんないだろ」
一瞬間があいた後、ご主人様は言った。
「黒いのを一匹、うちで引き取るよ」
「ありがとう! さすがYさん。礼を言うよ。
これで五匹全部の里親が決まった。
ほんとにありがとう。
さっそく明日バイク便で送るよ」
「バイク便?」
ご主人様は呆気にとられたが、Uさんはかまわず話し続けた。
「ああ、ここに東京から道内旅行に来ているライダーがいるんだ。
明日、札幌にいくからついでに乗っけてもらうよ」
「ああ、わかった。
くれぐれも気をつけるように言ってくれ」
「了解。じゃあ猫たのむな」
僕は小さなダンボール箱に入れられ、札幌に向かった。
三時間かかってご主人様の家に着いた頃には車酔いでフラフラになっていた。
やっとダンボールのふたが開き、日の光が差し込んでくると同時にごつい手が伸びてきた。
ご主人様の手だった。
僕をつかみ上げ、ジーッと見ている。
僕はなんか怖くなった。
「まずいところに来てしまったようだ」
そう思っていると、横から小さな手が伸びてきた。
僕をそうっと抱き上げ、ふんわりとした胸でだっこしてくれた。
やわらかく、あたたかい胸だ。
奥様だった。
僕は忘れかけていたものを思い出した。
こうして僕は今のご主人様と奥様のところへやって来た。
去年の夏のことだった。