一人想うこと :  想うままに… 気ままに… 日々徒然に…

『もう一人の自分』という小説を“けん あうる”のペンネームで出版しました。ぜひ読んでみてください。

片思い

2005-10-12 19:56:26 | 日記・エッセイ・コラム
bibi6-3
 僕はまた一人で外に出ることができなくなった。
この前の一件で外出する時は、いつも奥様と一緒だ。
それも犬のように紐を着けられて。
仕方がないので家にいる時は階段の踊り場の窓から外を眺めるのが日課になった。
ここから眺めていると、道行く人々が良く見える。
ママチャリに乗った買い物帰りの近所の奥さん。
塾へ急ぐ小学生。
犬と散歩中のおじいちゃん。
郵便屋さん、新聞屋さん、等など。
眺めているだけで結構飽きない。
 人通りが途切れたところで、ふと向かいの家を見た。
道路をはさんだ向かいの家は古い木造住宅で庭には草木が一杯生えている。
二階に目をやった時、フッと何かが動いた。
灰色っぽい何かが。
僕は目を凝らした。
すると、やわい日差しを浴びてのんびりと昼寝をしている猫がいた。
よほど気持ちが良いのだろう。
仰向けになったり、うずくまったり。
寝返りを打つのだが、一向に起きる気配はない。
僕はしばらく見つめていた。
 夕方、奥様が帰ってきたら早速聞いてみた。
「向かいにいる猫はどんな猫?」
「ああ、あの子?
あの子はハルカという名のアメリカンショートヘアよ。
もちろん血統書つき」
「血統書?」
僕は血統書という言葉を聞いた時、少し落ち込んだ。
なぜって?
だって生まれも育ちも僕とは段違いだから。
しかし、ハルカという名を聞いたらどうしても気になってしょうがない。
だってメス猫だあ~。
 僕は次の日もう一度踊り場の窓から向かいの家を見た。
いた!!
今日はきちんとお座りをして、二階の窓から外を眺めている。
美人だ。さすがに血統書付。
「おーい。こんにちはー」
呼んでみたが聞こえないのか見向きもしない。
僕は窓をカリカリと引掻いてみた。
見た!!
確かにこっちを見た。
しかし、プイと横を向くとそ知らぬ顔をしている。
まるで僕の存在を無視するかのように。
 僕はめげなかった。
何日も何日も彼女とコンタクトを取ろうとした。
しかし結果は同じだった。
いつまでたっても彼女はこっちを見ることはなかった。
そしていつしか彼女そのものの姿も見かけなくなった。
「どうしたんだろう」
僕は気になって奥様に聞いてみた。
すると奥様は寂しげに答えた。
「入院してるみたいよ」
「えっ? どうして?」
「ノラと喧嘩して白血病にかかったみたい」
僕は言葉が出なかった。
奥様と一緒にハルカのいない向かいの家を見つめるだけだった。
 その後ハルカは入退院を何度か繰り返した。
そして三週間後、静かに永遠の眠りについたと言う。
僕はハルカの死後も向かいの家の窓を見続けていた。
一度も言葉を交わしたことのない彼女が愛しくてしょうがなかった。
本当にショックだった。
しかし・・・
もっとショッキングな事を奥様から聞かされた。
実は・・・
彼女は・・・
オスだった・・・!!


コメント
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