一人想うこと :  想うままに… 気ままに… 日々徒然に…

『もう一人の自分』という小説を“けん あうる”のペンネームで出版しました。ぜひ読んでみてください。

月見酒

2005-10-19 21:33:32 | 日記・エッセイ・コラム
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 ご主人様は毎日のように晩酌をする。
飲むのは決まってバーボンの水割り。
一人座ってぼんやりと、窓の外を眺めながら飲んでいる。
そういう時、僕はいつもご主人様の横でごろ寝。
別にご主人様に用があるわけでもない。
ご主人様も僕に用があるわけでもない。
だけどいつもそばにいる。
 最近は月がきれいだ。
窓の外には満月が浮かんできた。
ご主人様はただぼんやりと月を眺め、いつものように飲んでいる。
そして時々フフッと笑ったり、誰かに話しかけているようにも見える。
どうも、もの想いにふけっているようだ。
 傍らのステレオからはビートルズが流れている。
ジョンレノンの『GOD』。
 ご主人様はジョンレノンが大好きだ。
レノンが凶弾に倒れた時、「オレの青春の1ページは終わった」
そう言って嘆き悲しんだそうだ。
この時、ふと思った。
「1ページが終わった」ということは、ご主人様の青春はいったい何ページあるんだ?」
僕は聞いてみた。
すると、「死ぬまで青春だ」と答えた。
どうもご主人様の青春は相当数のページ数があるらしい。
 柳葉魚(ししゃも)を一口頬張った。
北海道鵡川産の本物だ。しかもオスである。
口に入れた瞬間に脂がじわ~とにじみでる。
口を動かしながらもご主人様は相変わらす窓の外を見ている。
目で見ている、という感じではない。
頭の中で何かを描いているようだ。
とりとめの無い何かを。
 レコードの片面が終わり、ご主人様はレコードをひっくり返すと、ゆっくりと針を置いた。
1曲めの『MOTHER』がかかった。
この曲もご主人様のお気に入りだ。
ひとり静かに飲んでいる時は、こういう曲を聴いていることが多い。
 月が天上で輝きだした。
気がつくとレコードの曲は終わり、「ジーッコ、ジーッコ」と針の音だけがエンドレスで鳴っている。
ご主人様は目を閉じ、こっくりこっくりと舟を漕ぎ出した。

『月見酒 柳葉魚肴に なに想う』


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