一人想うこと :  想うままに… 気ままに… 日々徒然に…

『もう一人の自分』という小説を“けん あうる”のペンネームで出版しました。ぜひ読んでみてください。

初めての外出

2005-10-07 22:16:01 | 日記・エッセイ・コラム
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 僕はご主人様のうちに来てから、しばらくの間一人で外へは出してもらえなかった。
外に出たいとせがむと、必ず犬のように紐を着けられ奥様と一緒に散歩だった。
なぜ一人で出してもらえないのか、よくわからなかった。
仕方がないので家の中をあちこち探検する日々が続いた。
当然?僕が家の中を遊びまわると悪さをしてしまうらしい。
レースのカーテンは引き裂くし、花瓶は落として割ってしまう。
怒った奥様は家中の戸を常に締め切ってしまった。
しかし、僕はめげなかった。
引き戸は爪を立ててこじ開け、ドアのノブは飛びついてぶら下がり開けてしまった。
挙句の果て障子戸は常に出入りできるように穴を開けてしまった。
根負けした奥様は二階のベランダなら大丈夫だろうと出してくれた。
僕はおずおずとベランダに出た。
日の光がまぶしかった。
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ベランダの端の方を見ると、葉っぱが生い茂っていた。
ちょうど良い木陰だ。
僕は日差しを避け、木陰で横たわっていた。
しかし、なぜ二階のベランダに葉が生い茂っているんだ?
僕は足元を見た。
そしてニヤッと笑った。
なんとそこには庭の片隅に植えてあるぶどうの木が、二階のベランダまで伸びてきて、手すりに絡み付いていたのだった。
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太いぶどうの木が梯子のように二本、地面から伸びていた。
僕は躊躇することなくぶどうの木を伝って地面に飛び降りた。
「ヤッター!! ついに出れた!!」
 僕は庭の中を歩き回った。
久しぶりに嗅ぐ土の匂い。そして草の匂い。
なつかしかった。
夢中で草を噛んだり、土を掘ったりしていた。
裏の方にはご主人様の造ったカヌーが三艇、ラックの上に並んでいた。
カヌーの下で遊んでいると、遠く上の方から奥様の呼ぶ声がしてきた。
「ビビー、ビビー。帰っておいでー」
かなり心配しているらしい。
仕方がないので、今日のところは帰ることにした。
ぶどうの木をよじ登りベランダに入ると、奥様の顔があった。
怒った顔と心配した顔。そしてホッとした顔がそこにあった。
僕は思わず胸に飛びついた。
奥様はジーッと抱きしめてくれた。
なぜだか僕もホッとした。


コメント
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