架空庭園の書

音楽への"homage"を主題として、思いつくまま気侭に書き連ねています。ブログ名はアルノルト・シェーンベルクの歌曲から

グルダ&ザヴィヌル 2台のピアノのための音楽

2011-11-23 | 音楽


音楽が、まさに生まれる瞬間がレコード-----実際にはCDというメディアに、だが-----されている。

プレーヤのスタートボタンを押し聴きなれた旋律が聴こえてくるのを待ち構えていると、ポツリポツリと気侭そうな音が鳴らされ、さらには内部奏法まで飛び出してくるのだから、これはトラックを間違えたかとすら思ってしまう。

気侭そうな音が、あの旋律の歌いだしのような音型になり、ついにはハイドン・バリエーションが始まる。

4手、あるいは2台のピアノのための作品というは、学習用というものが多いし、それを裏付けるような演奏がほとんどなのだが、この2人が生み出す音楽は、そのようなものを遥かに超えている。

やや早めのテンポで、ぐいぐい進む。これはグルダが----この曲だけでなく、他の2曲もそうだ----主導権を握っているのだろう。

グルダ&ザヴィヌル 2台のピアノのための音楽(MUSIC FOR TWO PIANOS)
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 Op.56b
グルダ:2台のピアノとバンドのための変奏曲
ザヴィヌル:ヴォルケイノ・フォー・ハイアー
1988年5月21日、22日 ケルン・フィルハーモニーでのライブ録音(CAPRICCIO 67175)

聴こえてくる音からは、この曲では左側がグルダ、右側がザヴィヌル。

名人同士による、和やかなうちにも真剣勝負という感じだ。グルダは思いっきりピアノを鳴らすだけでなく、時には相手のザヴィヌルを挑発する。それを受けるザヴィヌルは、終始冷静。さらりと受け流すかのような大人の対応。とはいっても挑発されっぱなしということはなく、鋭く切り替えしたり、ときには逆に煽ったりする。しかも、やんちゃな子供のようなグルダとは違い、クールなのだ。ピアノの独奏者として----時に、協奏曲を弾いたとしても----自分を主張してきたグルダ。一方、ザヴィヌルは、バンドの1メンバーとしてキャリアをスタートし、"Weather Report"までそれは続いた。"Weather Report"では、ジャコのような強烈な個性の持ち主との連携/協調そして「大人の対応」などもあっただろう。この差が演奏にそのまま出ているといえそうだ。

演奏会の後にレストランで愉しんでいると感じがするアルバムの画像----無邪気なグルダと飄々としたザヴィヌル-----を貼っているが、それにもよく現れている(と思いません?)。

クラシックのグルダとジャズ/フュージョンのザヴィヌル。異質の組み合わせとも思えるが、2人は同年代(グルダが2歳年上)、しかもウィーン生まれで、ウィーン音楽院に学び、それぞれの分野でトップに立った。そんな2人が一緒に----しかもグルダはジャズも弾くことで有名-----演奏するのだから、音楽ファンにとっては堪らないだろう。

堪らない、と思う。だが、クラシック、ジャズそれぞれのファンは保守的なのだ。

クラシック・ファン
モーツァルトのソナタでは、なんで勝手に楽譜を変えて弾くのかと見られる。繰り返しの部分で装飾したりするだけでも、そうなのだ。ましてジャズまで弾くようでは....とグルダをとらえる。

ジャズ・ファン
アコースティックに重きをおく傾向があるので、電子キーボードを多用するザヴィヌルの音楽を素直に受け止められない。それがいつのまにかメイン・ストリームを外れ「ワールド・ミュージック」をやり始めて....とザヴィヌルをとらえる。

どちらのファンもそれぞれに正道(と勝手に思っている道筋)を進むことを期待しているのだろう。

だからか(?)境界にあるともいえるこの盤はあまり話題にならない。CAPRICCIOというマイナー・レーベルのせいもあるかもしれないが。

だが、そのような(クラシック、ジャズといった)分類を取り払ってしまえば、この2人の名人が作り出した音楽(の記録)の持つ豊かさを愉しむことができるし、ザヴィヌルという、冷静な、そして冷静ななかにも時折は秘めた狂気をのぞかせる、懐の深い、素晴らしい音楽家の姿が浮かび上がってくる。

ジャズ・プレーヤーとしてのグルダ
とても優秀。だが、グルダだけの音かというと答えは「NO」。やはり余技なのだ。といっても飛び切りうまい----普通のジャズ・ピアニストからすれば羨ましいと思うだろうレベル。

優秀、つまり最高のピアノ演奏技術をもって様々なフレーズが奔放に繰り広ろげられるのだけど、どこか枠を超えられない。
むしろ弾け過ぎてしまうことが問題なのだろう。また作り出すフレーズがやや古い。一緒にプレイするザヴィヌルのそれといやでも比較することになってしまうのだが、すぐに感知されてしまうのだ。YouTubeで公開されているブルースの演奏がそのことを示している。

Friedrich Gulda & Joe Zawinul...so blues!so groove! II



2人ともご機嫌なプレイだ。どちらかといえばザヴィヌルがグルダを煽っている。
ザヴィヌルの左手が繰り出す豪快なベースライン。6分20秒過ぎのさりげない右手のフレーズ!!

Gulda and Joe Zawinul play together


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