碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

本日の読売新聞で

2019年02月18日 | 本・新聞・雑誌・活字
読売新聞 2019.02.18



大河降板の真相から骨太のドラマ論まで

ドラマへの遺言

倉本 聰 脚本家
碓井広義 上智大学教授

『北の国から』、『前略おふくろ様』・・・
数々の金字塔を打ち立てた巨匠が
最新作『やすらぎの刻~道』まで
愛弟子相手にすべてを語り尽くす。
破天荒な15の「遺言」。




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社


解決力光るヒロイン「家売るオンナの逆襲」

2019年02月18日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評


解決力光るヒロイン

あの天才的不動産屋が帰ってきた。「家売るオンナの逆襲」(日本テレビ系)のヒロイン、三軒家万智(北川景子)である。夫となった屋代課長(仲村トオル)とセットで、懐かしの「テーコー不動産」新宿営業所に復帰したのだ。

さっそく、「私に売れない家はありません!」とばかりに高額物件や訳あり物件を次々と売っていく万智だが、その秘密はどこにあるのか。

最初の相手は、夫の定年を機に住み替えを計画中の熟年夫婦だった。しかし、夫との暮らしにうんざりしている妻(岡江久美子)が難癖をつけ、なかなか決まらない。

万智は、この夫婦の自宅を訪問した際、妻が持つ「生活の知恵」と「合理的精神」に気づく。その上で、妻の「働くこと」に関する考えの甘さを指摘し、夫に対して抱く不満の解決策を提案する。結局、墓地に隣接する難しい物件が売れた。

次は一人暮らしの口うるさい女性客(泉ピン子)だ。万智は彼女が胸の内に隠していた「孤独死」への不安を察知。しかもそれを解消すると同時に、彼女が愛用していた閉鎖寸前のネットカフェを守り、それぞれ事情を抱えた利用客たちも救う。

また、トランスジェンダーの夫を持つキャリアウーマン(佐藤仁美)に対しては、娘を含む家族3人が互いに自分を押し殺すことなく住める構造の家を探してくる。

こうした仕事ぶりを見ていると、万智は単に家を売っているのではないことが分かる。顧客たちが、どんなことで悩んでいるのか。何に困っているのか。彼らが個々に抱えている問題を発見し、住む家をテコにすることで解決を目指す。

そのためには陰で徹底的なリサーチを行う。時には探偵まがいの行動もいとわない。相手をよく観察し、課題を見つけ、情報を集めて分析し、顧客に合った解決法を提案する。これを単独で実践している三軒家万智、やはり只者ではない。

毎回、万智は顧客自身も気づいていない問題点や課題を見抜いていく。家はその解決に寄与するためのツール(道具)に過ぎない。つまり万智は家を売るのではなく、家を介して新たな「生き方」を提案しているのだ。このドラマの見所は、まさにそこにある。

(しんぶん赤旗「波動」 2019.02.18)

書評した本: 『僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年』ほか

2019年02月17日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


久米 明
『僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年』

河出書房新社 3078円

俳優・声優である著者は、94歳の今も『鶴瓶の家族に乾杯』などのナレーターを務める現役だ。旧制麻布中学、東京商科大学(現・一橋大学)、そして学徒動員。役者人生は70年を超える。テレビ草創期から黒澤明監督や福田恆存についてまで、貴重な証言のオンパレードだ。

(週刊新潮 2019年1月31日号)


後藤正治 
『拗ね者たらん~本田靖春 人と作品』

講談社 2592円

『誘拐』や『不当逮捕』などで知られる本田靖春。自伝のタイトルが『我、拗ね者として生涯を閉ず』だ。作品の徹底的な「読み」と、関わりのあった編集者たちの「証言」で構築された本書から、本田の“持続する志”が見えてくる。読み応えのある本格評伝だ。

(週刊新潮 2019年1月24日号)


蜂飼耳 
『朝毎読~蜂飼耳書評集』

青土社 2160円

異能の詩人が新聞3紙に寄稿した書評集。新聞の書評の面白さを著者は「凝縮感」だと言う。本書に並ぶ文章もまさにそれだ。内容はもちろん、その本で何を考え感じたのか。さらに批評も加えた小宇宙。諏訪哲史『岩塩の女王』を、執筆の呼吸で語る鋭さに瞠目する。


中川右介 
『サブカル勃興史』

角川新書 907円

70年代サブカルチャーの考察だ。70年の『ドラえもん』を皮切りに、71年『仮面ライダー』、74年『宇宙戦艦ヤマト』、そして79年『機動戦士ガンダム』などが登場する。注目すべきは、これらの作品が半世紀近くを経た今も“健在”であることだ。その秘密とは?

(週刊新潮 2019年1月17日号)



僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年
久米明
河出書房新社


拗ね者たらん 本田靖春 人と作品
後藤正治
講談社


朝毎読 ―蜂飼耳書評集―
蜂飼耳
青土社


サブカル勃興史 すべては1970年代に始まった (角川新書)
中川右介
KADOKAWA

脚本家・倉本聰の「ドラマ人生」、ぜんぶ聞いた!

2019年02月16日 | 本・新聞・雑誌・活字



紀伊国屋書店 上智大学店


脚本家・倉本聰の「ドラマ人生」、
ぜんぶ聞いた!

おかげさまで、倉本聰・碓井広義『ドラマへの遺言』(新潮新書)が店頭に並びました。

脚本家の倉本聰さんは、言わずと知れたドラマ界の巨人です。80歳を超えてから書いた、久々の連ドラ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が話題を呼んだことは記憶に新しいですが、『北の国から』(フジテレビ系)や『前略おふくろ様』(日本テレビ系)といった、後々まで語られる作品を数多く手がけてきました。

しかも、『北の国から』シリーズでは約20年間も視聴者と時代を共有し、『やすらぎの郷』では平日の昼間に「帯ドラマ劇場」という新たな価値を創出するなど、常にドラマの常識を覆してきました。

その一方で、自身の信念に従って大河ドラマでさえも降板し、キャスティングにも積極的に関わっていく。また役者が読む台本の一字一句にもこだわるという”伝説”を持っています。歯に衣着せず物を言い、テレビ局上層部にも遠慮はしない頑固者です。こんな脚本家、他にはいません。

私は現在、大学の教壇に立っていますが、元々は20年にわたってテレビ界にいました。テレビマンユニオンでプロデューサー修業をしていた1983年、スペシャルドラマ『波の盆』(日本テレビ系)の制作現場で「脚本家・倉本聰」に出会ったのです。主演は笠智衆、監督が実相寺昭雄。明治期にハワイへと渡った、日系移民一世の波乱の人生を描いたこの作品は、83年の芸術祭大賞を受賞しました。

鮮やかな作劇術と、心に沁みるセリフの数々。何より、若僧である私にも理想とするドラマ像を伝授しようとする熱意や、その人柄に惚れ込みました。この時、倉本さんを生涯の師匠と決め、以来36年にわたって師事してきました。

これまでも、『見る前に跳んだ 私の履歴書』(日本経済新聞出版社)の解説や、『「北の国から」異聞 黒板五郎 独占インタビュー!』(講談社)の帯で紹介文を書かせていただいたりしてきましたが、今回は共著となります。

この本は、さまざまな風評に彩られた師匠に、不肖の弟子が過去と現在の一切合切について、聞き取りを行った一冊です。テーマは“遺言”。

倉本さんが80代にさしかかった頃から、師匠の無尽蔵の創造力に感嘆する一方で、突然目の前からいなくなってしまうことへの脅えを感じるようになりました。そこで師匠に、仕事と人生のあらいざらいを活字として公開することを提案したのです。

富良野や東京でのロングインタビューは9回、のべ30時間に及びました。84年前の東京に生まれた山谷馨(やまやかおる)は、いかにして脚本家・倉本聰になったのかに始まり、デビュー作から最新作『やすらぎの刻(とき)~道』(2019年4月放送開始、テレビ朝日系)まで、「創作の秘密」60年分をぜんぶ聞いています。

企画の発想。人物像の造形。物語の構築。さらに大物俳優や女優たちとの知られざる交遊も。師匠は何度も「ここだけの話だけどね」と声を潜めたが、もちろん丸ごと書かせてもらいました。

この『ドラマへの遺言』は、脚本家としての「総括」というだけでなく、同時代を一緒に歩んだ人々、そして次代を生きる人たちに送る、人間・倉本聰からの「ラストメッセージ」でもあります。一人でも多くの皆さんの心に届くことを祈るばかりです。




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社



『ドラマへの遺言』、本日発売!

2019年02月15日 | 本・新聞・雑誌・活字



倉本聰、碓井広義
『ドラマへの遺言』
(新潮新書)

本日発売!


内容紹介

大河降板の真相から最新作まで、巨匠がすべてを語り尽くす。

「やすらぎの郷」「北の国から」「前略おふくろ様」……テレビドラマ界に数々の金字塔を打ち立てた巨人、脚本家・倉本聰が83歳で書き上げた最新作「やすらぎの刻~道」まですべてを語り尽くす。大河ドラマ降板の真相は? あの大物俳優たちとの関係は? テレビ局内の生々しいエピソード、骨太なドラマ論、人生観――愛弟子だからこそ聞き出せた、破天荒な15の「遺言」。



まえがきに代えて 倉本聰
はじめに 碓井広義

第1章 常に怒りのパッションを持っていないと
第2章 原点から学ぶってことが必要
第3章 10年ぐらいの修業を経ないと絶対続かない
第4章 歴史というのは地続きだ
第5章 利害関係のあるやつばっかりと付き合うな
第6章 頭の上がらない存在はいた方がいい
第7章 都会で競ってる知識なんてなんの役にも立たない
第8章 「棄民の時代」から目を背けない
第9章 何かを創造するというのは命懸け
第10章 夢の鍵を忘れるな
第11章 店に入ったら壁を背にして座る
第12章 あえて重いテーマをずばりと掘り下げる
第13章 美は利害関係があってはならない
第14章 "これが最後"という覚悟がいい仕事を生む
第15章 神さまが書かせてくれている間は書き続ける

おわりに 碓井広義
倉本聰 主要作品略年表


著者について

倉本 聰(くらもと・そう)
1935(昭和10)年東京都生まれ。麻布高校卒、東京大学文学部美学科卒。脚本家。劇作家。富良野市在住。主な作品に「前略おふくろ様」、「北の国から」シリーズ、「やすらぎの郷」など。

碓井広義(うすい・ひろよし)
1955(昭和35)年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。代表作に『人間ドキュメント・夏目雅子物語』。著書多数。

(アマゾンより)




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




深川麻衣の頑張りだけで一見の価値「日本ボロ宿紀行」

2019年02月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


ドラマ25「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京系)は
深川麻衣の頑張りだけで一見の価値あり

2016年に乃木坂46を卒業した、深川麻衣。女優としての地上波連続ドラマ初主演が「日本ボロ宿紀行」だ。ヒロインの篠宮春子(深川)は零細芸能事務所の歌手、桜庭龍二(高橋和也)のマネジャー。

経営者だった父親(平田満)が急逝し、春子は突然社長になってしまった。同時に所属タレントは皆退社して、残留したのは桜庭だけだ。2人は売れ残りのCDを抱えて、地方営業の旅に出る。

とは言うものの、「忘れられた一発屋歌手」の復活物語ではない。2人が旅先で泊まり歩く、古くて、安くて、独特の雰囲気を持った「宿」こそが、もう一人(一軒?)の主人公だ。

毎回、ドラマの冒頭で春子が言う。「歴史的価値のある古い宿から、驚くような安い宿までをひっくるめ、愛情を込めて“ボロ宿”と呼ぶのである」と。登場するのはいずれも実在の宿だ。

新潟県燕市「公楽園」は元ラブホで、お泊まりが2880円。春子と桜庭の夕食は自販機ディナーだった。また、山小屋にしか見えない群馬県嬬恋村「湯の花旅館」も、玄関に置かれた熊の剥製や巨大なサルノコシカケが、ボロ宿ムードをあおっていた。

主人公が実在の店で食事をする、同局「孤独のグルメ」の宿屋版といった構造だが、マニアック度やニッチ度が半端じゃない。何より、女優・深川麻衣が頑張っている。もう、それだけで一見の価値ありだ。

(日刊ゲンダイ 2019.02.13)




<2月15日発売>

ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社


『ドラマへの遺言』、間もなく店頭に並びます。

2019年02月13日 | 本・新聞・雑誌・活字


これは見本です。実物が間もなく店頭に並びます。




<発売は2月15日>

ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




書評した本: 篠原勝之 『戯れの魔王』ほか

2019年02月11日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


篠原勝之 
『戯れの魔王』

文藝春秋 1,944円

3年前、『骨風』で泉鏡花文学賞を受けた、ゲージツ家のKUMAさんこと篠原勝之。本書は最新連作集だ。「山岳の作業場」に籠る「オレ」は限りなく著者に近い。オッカサンの最期を描く「蓮葬り」もさることながら、白塗りの舞踏家マロの舞台に立つ表題作が鮮烈だ。


川村 湊 
『ホスピス病棟の夏』

田畑書店 1,944円

文芸批評家である著者が、乳がんで逝った妻と看取った自身の日々を、日記形式で綴っている。病状を冷静に記録していたかと思うと、隠せない不安が顔を出す。さらに「なぜ、こんな文章を書いているのか」という自問も。ホスピスのリアルを垣間見る貴重な一冊だ。

(週刊新潮 2019年1月17日迎春増大号)


中村邦生:編 
『推薦文、作家による作家の』

風涛社 2,484円

「全集内容見本」は書店に置かれる出版案内のパンフレットだ。本書には、ある作家について他の作家が書いた推薦の弁が並ぶ。丸谷才一が吉田健一を、井上ひさしが藤沢周平を、そして村上春樹が吉行淳之介を語る贅沢。文学エッセイのアンソロジーとして秀逸だ。


鈴木 耕 
『私説 集英社放浪記』

河出書房新社 1,944円

著者の本名は鈴木力。通称「リキさん」は集英社の編集者として36年を過ごした。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」「週刊プレイボーイ」「イミダス」と渡り歩き、さらに集英社新書の創刊にも携わる。“譲れぬ一線”を守り続けた編集者の貴重な同時代記録だ。

(週刊新潮 2018年12月27日号)



戯れの魔王
篠原勝之
文藝春秋


ホスピス病棟の夏
川村 湊
田畑書店


推薦文、作家による作家の
中村邦生
風濤社


私説 集英社放浪記: 「月刊明星」「プレイボーイ」から新書創刊まで
鈴木 耕
河出書房新社




倉本聰が語った「女優・八千草薫」への思い

2019年02月10日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


倉本聰が語った「女優・八千草薫」への思い


ドラマ『やすらぎの刻(とき)~道』とは・・・

4月から放送が始まる、『やすらぎの刻(とき)~道』(テレビ朝日系)。このドラマ、実は一風変わっています。

2017年の『やすらぎの郷』の続編として、老人ホーム「やすらぎの郷」で暮す人たちの“その後”、というか“現在”が描かれるだけではないからです。

主人公である脚本家、菊村栄(石坂浩二)が自分のために“最期の作品”を書き始めます。戦前、山梨の田舎の村から出てくる一家の物語です。

ですから、このドラマでは、『やすらぎの郷』の続編である「刻」と、菊村栄の“脳内ドラマ”である「道」が、入れ子細工のような形で同時進行していくのです。


倉本聰が語った「女優・八千草薫」への思い

昨年末、『やすらぎの刻~道』全235話を書き上げた、脚本家の倉本聰さんにお話を伺おうと、北海道・富良野のアトリエを訪ねました。

その時、倉本さんは八千草薫さんについて、こんなことをおっしゃっていました。

「八千草(薫)さん演じる九条摂子を殺しちゃったのは僕の中で誤算でした。執筆当時は続編を作るなんて思いもしなかったですから。八千草さんは「やすらぎ」の象徴ですからね、新作にもいてくれないと困ってしまう。でも、こちらの都合で生き返らせるわけにはいかない。それで視聴者の皆さんに馴染みのある九条摂子を、脳内ドラマのヒロインにしようという発想をしたんです」

確かに、亡くなったとはいえ、脚本家である菊村(石坂)の脳内ドラマであれば、再び登場させても何ら問題はないわけです。

「前作『やすらぎの郷』の中で描きましたが、女優・九条摂子には昔、京都に監督だった永遠の恋人がいました。でも、その恋人が戦争で死んでしまい、生涯独り身を通すことになる。そんな彼女の生き方には、僕の心の中にある谷口千吉さん(八千草の亡夫)の存在が影響していたりします」

八千草さんが人気絶頂期に結婚した相手は、親子ほど年が離れていた、映画監督の谷口千吉さんでした。そして約50年間、谷口さんが亡くなるまで、連れ添いました。

「今回、『やすらぎの刻~道』を書くに当たって、前の作品をだいぶ見直したんですね。僕が八千草さんと最初に仕事したのは、東芝日曜劇場の『おりょう』(1971年、中部日本放送制作)でした。僕は当時、30代半ばぐらいでしたが、半世紀近くも前のことなのに、その美しさを鮮明に覚えていますね。僕にとっての八千草さんは、原節子とはまた違った形での身近な聖処女なんです」

八千草さんは、『おりょう』の後も、『うちのホンカン』シリーズ、『前略おふくろ様2』、『拝啓、父上様』など、数々の倉本ドラマに出演してきました。

(九条)摂子と(原)節子。

倉本さんの「脳内ドラマ」という挑戦的な試みは、九条摂子=八千草さんを生き返らせるために2つの物語を同時進行させる、という離れ業だったのかもしれません。


八千草薫さんの無事回復を祈る

『やすらぎの刻~道』の脳内ドラマの中で、八千草さんは新キャストである橋爪功さんの妻を演じ、この夫婦が軸となって物語が進んでいく予定でした。その2人の若き日を演じるのが、清野菜名さんと風間俊介さんです。

しかし2月9日、八千草さん自身が事務所のサイトを通じて公表したように、がんの治療に専念するため、『やすらぎの刻~道』を降板することになりました。そしてテレビ朝日は、八千草さんの代役を、風吹ジュンさんが担当することを発表しました。

風吹さんは、『やすらぎの郷』で菊村(石坂)の妻・律子を演じていました。ドラマが始まった時点で、すでに亡くなっていましたが、律子も元々は舞台女優です。脳内ドラマの中で、女優として復活してもおかしくはありません。

まず、風吹さんの決断に頭が下がります。また風吹さんであれば、八千草さんの代役というだけでなく、風吹さんなりの「しの(役名)」を作り上げてくださると思います。

八千草さんには、本当にご自愛をお願いし、無事回復されることを祈るばかりです。そして、倉本さんのおっしゃる「視聴者の皆さんに馴染みのある九条摂子」が、カメラの前に凛として立つ日をお待ちしております。



<発売は2月15日>

ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社

『ドラマへの遺言』 表紙&帯、出来ました。

2019年02月08日 | 本・新聞・雑誌・活字
『ドラマへの遺言』表紙&帯、出来ました。





<2月15日発売/予約受付中>

ドラマへの遺言
倉本聰、碓井広義
新潮社

金曜ドラマ『メゾン・ド・ポリス』は、原作を超える面白さ!?

2019年02月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


異色の刑事ドラマ『メゾン・ド・ポリス』は、
原作を超える面白さ!?


異色の刑事ドラマ『メゾン・ド・ポリス』

『インディゴの夜』や『モップガール』などで知られる、加藤実秋さんの小説を原作としているのが、金曜ドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)です。

ひと言で内容を説明するなら、新人女性刑事が、退職刑事専用のシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」に暮らす“おっさん”たちの力を借りて事件を解決していく物語、ということになります。

昨年、大いに話題となったドラマに『おっさんずラブ』があり、おじさんというか、“おっさん”に注目が集まりました。

また、ドラマにおけるシェアハウスという「器」、もしくは「場」も、すっかりお馴染みのものとなりました。

そんな両者が合体したイメージ。しかも、刑事ドラマというところが、『メゾン・ド・ポリス』の特色でしょうか。

高畑充希さん主演の刑事物なのですが、主人公の牧野ひより(高畑)をサポートする、おっさん(退職刑事)たちの活躍こそが、このドラマのミソです。


おっさんたちのキャラクターショー

まず、このシェアハウスに暮らす面々のキャラクターと、それを演じている俳優たちのマッチングの妙が見事です。

シェアハウス「メゾン・ド・ポリス」のオーナーは、元警察官僚の伊達(近藤正臣)。警察内部での影響力をしっかり保持しています。

次が、ひよりと同じ柳町北署にいた迫田(角野卓造)。最後まで「所轄」勤務にこだわった職人肌の元刑事です。

シェアハウスの管理人(ただし、通いです)は、現役時代に現場経験がなかった高平(小日向文世)。家事はもちろん、住人たちの健康管理もしっかりやっています。

藤堂(野口五郎)が所属していたのは科捜研。今も自分の部屋には、鑑定のための機材が山積みです。かなりの女好きみたいですが、野口五郎さんが楽しげに演じています。

そして、一番よく働くのが元捜査一課の夏目(西島秀俊)。管理人である高平の下で、いわゆる雑用を一手に引き受けている感じ。集中して何かを考えるには、「アイロンかけ」が一番というのも面白い。

こんな5人のおっさんたちが、ひよりと共に事件を解決していくのです。それでいて、5人はいずれも単なる「いいひと」じゃない(笑)。「おっさんをナメるなよ!」というドラマの姿勢が痛快です。


アレンジが効いた物語展開

第1話では、人を焼死させる動画にアップする事件が発生。それは5年前の「デスダンス事件」の模倣犯の仕業かと思われました。

当時、犯人を逮捕したのが夏目でしたが、その犯人はずっとえん罪を主張しています。ひよりは夏目の誤認逮捕を疑うのですが、彼女自身が罠にはまり、窮地に陥ってしまう・・・。

第2話では、女性の独居老人の「密室殺人」。また第3話は、猫を殺害するだけでなく、その遺体に青いペンキをかけるという「青猫事件」が起こりました。

実は、どちらも第1話同様、加藤さんの小説がベースになっていますが、かなりのアレンジを施してあります。

たとえば「密室殺人」編は、原作では被害女性が働いていた、消費者金融の人たちが事件に関わっていました。それがドラマでは小学校のPTAに変えてあり、消費者金融の店長はPTA会長になっています。そこから事件の背景に奥行きが生まれていました。

このドラマ、黒岩勉さん(『謎解きはディナーのあとで 』など)の脚本によって、原作小説の面白さが倍加されています。


さり気ない現代性

刑事ドラマというのは、見る側にどこか緊張感を強いるところがあるのですが、こんなにリラックスして見られる刑事ドラマも珍しい。

また、ひより(高畑)はヒロインであるにもかかわらず、決してリーダーではないし、「面倒くさいなあ」と思いながら、5人とつき合ったり、助けてもらっています。そのほど良い「距離感」も、ドラマとして巧みだと思います。

かつて、TBSは『七人の刑事』という集団刑事ドラマの名作を生んだわけですが、『メゾン・ド・ポリス』はいわば、ひよりを加えた『六人の刑事』です。それでいて集団というより、互いにリスペクトする個人の集まり、「ゆるやかな連帯」といった雰囲気が好ましい。

さらに、このドラマには、女性の働き方、パワハラ、熟年離婚、定年後の人生、シェアハウスという暮らし方、オトコの家事といった現代的テーマが、重くならず、そしてさり気なく散りばめられています。

最後になりましたが、ひよりを演じる高畑さんが、やはりうまいですね。演技のシリアスとコメディの配分が抜群で、おっさんたちのムチャぶりに困惑しながらも、彼らに助けられ、同時に彼らを元気にしているヒロインが、ピタリとはまっているのです。




<2月15日発売/予約受付中>

ドラマへの遺言
倉本聰、碓井広義
新潮社

書評した本: 森 功 『地面師』

2019年02月07日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


大宅賞受賞の著者が暴く
「地面師」の巧妙な手口

森 功 『地面師
~他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』

講談社 1728円

江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズに、『超人ニコラ』という作品がある。この物語では、銀座にある大きな宝石店の店主一家が、次々と本人そっくりの別人にすりかわっていく。まさに「なりすまし」であり、誰にも知られず高価な宝石類を奪おうとするニコラの仕業だった。

自分の土地ではないにもかかわらず所有者になりすまし、転売して稼ぐ。それが「地面師」だ。彼らはニコラのように本人と同じ顔を作り出すわけではない。ところが相手はまんまと引っかかり大金を支払ってしまう。

近年、戦後の混乱期やバブル期に劣らず、地面師詐欺が多発していると著者は言う。たとえば台湾華僑が所有する渋谷区富ヶ谷の土地が、本人の意思とは無関係に6億5000万円で転売された。また赤坂・溜池の駐車場用地をめぐって12億円を超える被害が出ている。だが、本書に収められた事案で最も興味深いのは、やはり「積水ハウス」事件だろう。

五反田駅にほど近い、「海喜館」という旅館が舞台だ。約600坪の土地の所有者になりすました地面師が、積水から何と55億円を騙し取ったのだ。著者の綿密な取材で浮かび上がってくるのは、役割分担によって相手を取り込むプロ集団の姿だ。

その中心には、「地面師の頂点に立つ男」と呼ばれる人物がいる。物件を探し、計画を練り、成否の鍵を握る「なりすまし役」の人選を行う。集団の中には「なりすまし役」を用意する女性手配師もいて、彼女は複数の事件に関与しているそうだ。

地面師たちは、逮捕されても起訴されることが少ない。弁護士や司法書士が加担し、法の網をくぐり抜ける方法を徹底的に研究しているからだ。しかし、この本が上梓されたことで彼らの手口の詳細が明らかになった。

著者は昨年、『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受けた。本書は受賞第1作である。

(週刊新潮 2019年1月31日号)
 


地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団
森 功
講談社

フジ「科捜研の男」のタイトルは悪い冗談!?

2019年02月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


フジ「科捜研の男」のタイトルは
悪い冗談としか思えない

ドラマのタイトルは内容を象徴するだけでなく、見たいと思わせる引きの力も必要だ。その意味で、「トレース~科捜研の男~」は損をしている。同じ組織を舞台にした「科捜研の女」(テレビ朝日系)を連想させることで何を狙ったのか。単純なリスペクトでも便乗でもないだろう。ならば挑発か? いずれにしても、「科捜研の男」は悪い冗談としか思えない。

というのは、このドラマの出来自体は悪くないからだ。主人公の真野礼二(錦戸亮)と相棒の沢口ノンナ(新木優子)が、文字通り地道な鑑定作業を重ねることで真実をあぶり出していく過程は結構見応えがある。

公園内で起きた幼女絞殺事件にしろ、真野たちの同僚である相楽(山崎樹範)の兄が遺体で発見された事件にしろ、その“犯人”は予想外の人物だった。そこでは、「主観や臆測で動かない」や「真実のカケラは被害者が遺(のこ)した思いだ」といった真野の口癖が、しっかり体現されている。

ただ、真野を目の敵にする刑事、虎丸(船越英一郎)だけはちょっと困る。自分の見立てで突っ走るのだが、それが外れることがパターン化している。また大声で怒鳴りまくるばかりの船越も同様で、もう少し抑えた演技のほうが虎丸の“奥行き”も見えてくるはずだ。

ライバル視するなら、「科捜研の女」よりも「アンナチュラル」(TBS系)であってほしい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」 2019.02.06)



<2月15日発売/予約受付中>

ドラマへの遺言
倉本聰、碓井広義
新潮社

デイリー新潮で、常盤貴子主演「グッドワイフ」について解説

2019年02月05日 | メディアでのコメント・論評


常盤貴子「グッドワイフ」の視聴率が2ケタ割れ 
評判いいのにナゼ数字が取れない?

「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」(フジテレビ系/木曜22時)、「イノセンス 冤罪弁護士」(日本テレビ系/土曜22時)「グッドワイフ」(TBS系/日曜21時)と、3つも弁護士ドラマが並ぶ今期の連ドラ。

熾烈な視聴率競争が生まれるかと思えばそうでもない。「QUEEN」も「イノセンス」も1ケタ止まり。唯一2ケタで視聴率でスタートした「グッドワイフ」も3話目にして、ついに1ケタに落ちた。視聴者には、なかなか面白いと評判は悪くないのに、肝心の視聴率が上がらないのはなぜなのか。

スタート前に大宣伝をしたのはTBSだ。伝統の日曜劇場枠であり、なんといっても常盤貴子が17年ぶりの民放連ドラ主演で、日曜劇場の主演には19年ぶりの登場。しかもその19年前の「ビューティフルライフ」はキムタクとのW主演で、平均視聴率32.3%(ビデオリサーチ調べ:関東地区、以下同じ)で、最終回はなんと41.3%を叩き出したのだ。

だがフタを開けてみれば、視聴率は初回10.0%、第2話11.5%、第3話9.6%とパッとしない数字である。これに業界では首をかしげる人が少なくないという。

「オリジナルは米国で大ヒットしたドラマ『The Good Wife』で、韓国でもリメイクされています。もちろん、アメリカの法廷ドラマは日本では通じないので、日本に合わせた作品となっていますが、検察官の夫が逮捕され、2人の子供を養うために十数年ぶりに弁護士に復帰した妻の物語という基本は一緒。しかも、日本版の『グッドワイフ』の総演出・塚原あゆ子さんは昨年の『アンナチュラル』を演出して、東京ドラマアウォード演出賞など受賞した実力派です。実際に見ると、結構面白いんですよ。夫が逮捕された謎解きという伏線を張りながら、基本は1話完結のスタイル。キャストも常磐さんはじめ、夫に唐沢寿明、常盤さんの働く弁護士事務所には賀来千香子、検察官には吉田鋼太郎、滝藤賢一。初回のゲストには武田鉄矢、2話には橋爪功となかなか豪華です。TBSとすれば13〜14%は取りたいところじゃないでしょうか」(民放ディレクター)

上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)も、こう語る。

「面白いと思って見てますよ。ただ、視聴率が取れないというのは横並びの問題もありますからね。初回には『行列のできる法律相談所3時間SP さんまVS怒れるスター軍団』(日本テレビ系)があったし、2話では市原悦子さんの追悼『家政婦は見た!』(テレビ朝日系)、3話では『森村誠一ミステリースペシャル』(テレビ朝日系)もありましたからね。もっとも、だれもが面白いと思う作品なら、自ずと数字は取れるはずですが……」


もっと不幸を!

碓井教授が続ける。

「同じ弁護士ドラマでも、視聴率が低迷している『QUEEN』は、法廷シーンが少ないんですよ。やっぱり弁護士ドラマは法廷が華ですよね。そこまでのドラマがそこに集約されるわけですから。その点、『グッドワイフ』は法廷シーンが多いし、見応えがあります。法廷では、16年ぶりに弁護士に復帰した不慣れな姿を見せることも出来るわけですから。しかし、視聴率が落ちた3話目って法廷シーンがなかったんですよね。弁護士同士のつばぜり合いばかりで、なんだかスケールが小さく見えました」

確かに、3話は法廷シーンはなかった。とはいえ、視聴率が上がらない理由は他にもあって……、

「16年ぶりに弁護士に戻った主婦という設定は、17年ぶりに民放連ドラ主演に戻ってきた常盤さんとダブる。TBSとしては、それを意識もしたでしょうし、連ドラの女王、高視聴率女優といわれた彼女なら数字も取れると思ったはず。ただ、彼女が演じる女性は、夫の唐沢さんは特捜部長で、高級マンションに住んで……、夫が逮捕されて内心お困りではあるんでしょうけれども、それほど窮地に立たされている感じがしないんです。視聴者にすれば、感情移入して、彼女を応援する気持ちにならないのです。また常盤さん自身も、民放の連ドラ主演は確かに久しぶりではあるけれど、単発ドラマやNHKには出ています。17年ぶりのといっても、正直言って新鮮味はありません」(碓井教授)

常磐が連ドラの女王と言われたのは、いまから20年以上も前のことだ。そしてヒット作の多くで彼女は不幸であった。いきなり婦女暴行される「真昼の月」(96年・TBS系)、難病に侵された「ビューティフルライフ」(00年・TBS)など……。

「今回、常盤さんには“不幸のスパイス”が足りないのかもしれません。となると、脚本にも目が行ってしまう。書いたのは篠崎絵里子さん。彼女と常盤さんはNHKの朝ドラ『まれ』で組んでいます。ドラマが進むほどに行き当たりばったりとなって、迷走して、平均20%を切った朝ドラです。常盤さんはヒロインの土屋太鳳の母役でした。『まれ』コンビの復活と思うと、今後がちょっと不安になってきます。あの時の轍は踏まないで欲しいですね」(碓井教授)


視聴率が上がらない原因としてもうひとつ、業界で囁かれるウワサもある。

「唐沢さんです。いい役者さんですけど、最近ちょっと演技がワンパターンになってきているかもしれません。そのせいなのか、昨年の『ハラスメントゲーム』(テレビ東京系)も評判がよかった割りには数字が取れなかった。ひょっとしてサゲ○○では?」(前出・民放ディレクター)

さて、4話目の視聴率は? 【週刊新潮WEB取材班】

(デイリー新潮 2019年02月03日)



<2月15日発売/予約受付中>

ドラマへの遺言
倉本聰、碓井広義
新潮社

橋本治さんに、合掌

2019年02月04日 | 本・新聞・雑誌・活字



作家の橋本治さんが亡くなりました。1月29日のことだそうです。

自分ではあまり意識していませんでしたが、新刊が出れば、必ず手に取っていました。そして、「いつもの橋本節だ」とか、「今回は読みやすいなあ」とか、勝手なことを思っていて・・。

そうか、もう新しい本は出ないのか。やはり寂しいですね。

本棚から取り出したのは、もう10年くらい前の『最後の「ああでもなくこうでもなく」 そして、時代は続いて行く』(マドラ出版)です。

2009年に幕を閉じてしまった愛読誌『広告批評』で、11年にもわたって連載が続いてきた、時評エッセイの最終巻。

連載自体は最終号まで継続されましたが、「単行本としてはラストになる」と橋本さん自身が書いていました。

2007年から2008年にかけての間に起きた、食品偽装、サブプライム問題、そして秋葉原無差別殺傷事件などが論じられています。特色は、「人間」にフォーカスされていることでしょうか。

例によって、決して分かりやすい内容ではありません。いや、それは正確じゃないな。

いわゆる「テレビ的な分かりやすさ」のようなものを、橋本さんは目指してもいないし、「分かりづらい」という読者がいるのも承知で書いていたはずです。

でも、橋本さんは、そんな読者に「じゃあ、読むのやめれば?」とは言わないし、「ついてこれる人だけ、ついてきなさい」とも言わない。

たぶん、「十分には分からないけど、でも、橋本さんでなければ展開する人はいない論旨であり、やはり読みたい」と答える読者が大多数だったんじゃないでしょうか。

とにかく、「人のあり方」に軸を置くこのシリーズが、この最終巻も含め、泥沼化する近代産業社会への強烈なカウンターパンチであることは確かです。

これからも、ときどき、こうして読み直そうと思います。


橋本治、享年70。

合掌。



最後の「ああでもなくこうでもなく」―そして、時代は続いて行く
橋本治
マドラ出版