碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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朝日新聞で、「朝ドラとCM」について解説

2016年06月07日 | メディアでのコメント・論評



朝ドラと企業家、蜜月なぜ 
NHKが宣伝に加担してる?

「朝ドラ」の愛称で親しまれるNHKの連続テレビ小説で、企業の創業者をモデルにした作品が続いている。放送後には、出演した俳優らがドラマでのイメージそのままのCMに出演するケースも。なぜ、実在の企業人にスポットを当てるのか。理由を探ってみると――。

「竹鶴さん、あなたがウイスキーづくりに注いだ情熱は、今もこのグラスに息づいています」。ニッカウヰスキーのテレビCMでグラスを傾けるのは、俳優の玉山鉄二。朝ドラ「マッサン」(2014年9月~15年3月)で同社の創業者、竹鶴政孝がモデルの主人公を演じた。

玉山は朝ドラ終了の3カ月後、同社の「アンバサダー(大使)」に就任。CMはドラマのロケ地、北海道の余市蒸溜(じょうりゅう)所で撮影された。広報担当者は起用の理由を「朝ドラ効果で視聴者がウイスキーを想起しやすい」と説明する。

「マッサン」では、サントリーの創業者鳥井信治郎をモデルにした人物も登場。演じた堤真一も昨年4月から、同社の「ウイスキーアンバサダー」を務め、ホームページや航空会社の機内誌などに露出する。

サントリーは「ウイスキーへの知識が深く品質などを丁寧に伝えてもらえる。朝ドラとは関係ない」とするが「ドラマでウイスキーになじみのなかった人も関心を持ってくれた。市場が拡大しているのは確かだ」と、効果の大きさを認める。

今年4月に終了した「あさが来た」で波瑠が演じたヒロインは、大同生命などの創業者・広岡浅子がモデル。現在放送中の「とと姉ちゃん」では、高畑充希が雑誌「暮しの手帖」を創刊した大橋鎮子(しずこ)がモデルの人物を演じている。そして今秋からの「べっぴんさん」は、子ども服メーカー「ファミリア」創業者の坂野惇子(ばんのあつこ)がモデルの物語だ。

大同生命広報部は「当社の創業者の一人、広岡浅子が広く知られ、営業担当から『営業活動がしやすくなった』との声もある」と話す。ファミリアは「問い合わせや取材依頼が増えた。より多くの方に知ってもらえる機会になれば」。NHKの看板番組だけに、企業側には「宣伝効果」への期待も大きい。

■企業宣伝に加担?

だがNHKには、公共放送として企業などの宣伝に加担しないという原則がある。放送法83条はNHKに対し、「他人の営業に関する広告の放送をしてはならない」と規定。ドラマで使う飲料はラベルを架空のものに貼り替え、携帯電話は会社のロゴをテープで隠すなどの配慮をしてきた。一方で同法は「編集上必要で、広告のためでない場合は放送することを妨げない」とも定め、一義的な判断は制作側に委ねられている。

NHKの遠藤理史ドラマ部長は「制作過程で企業を利することが想像されても、それを超える公共的理由があり、多くの方が楽しめるなら作る意義はある」と語る。
近年、朝ドラではドラマチックな人物を描くと視聴者に支持される傾向にあるといい、遠藤部長は「そういう素材を探すと企業の創業者や、何かのパイオニアに行き着くケースが多くなった」と打ち明ける。番組終了後に出演俳優らがCMに起用されることも、「企業がドラマを利用するのは作品がヒットした証し。ある意味ありがたい」と話す。

■三方に利益の起用

上智大の碓井広義教授(メディア論)は「特定企業を取り上げる『実録路線』がこれだけ続くのはいかがか」としつつ、「広告予算がしぼむ中、企業はヒットドラマでのイメージを利用できれば費用対効果も大きく、俳優もCM収入の確保はありがたい。テレビ局、企業、俳優と三方お得の起用法だ」と分析する。

1970年代から朝ドラを見続けているというコラムニストのペリー荻野さんは「オリジナルの主人公は『何者であるか』を伝えるまでに時間がかかる。その点実在の人物をモデルにすると説得力があり、浸透もしやすい」と話す。(後藤洋平)

(朝日新聞 2016.06.07)



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