河合隼雄 1999年 中公文庫版
ことしの夏に古本屋で買った文庫、河合隼雄さんの本も、たまにはすこしむずかしそうなの読んでみようかと思って。
中空構造ってボキャブラリーは知らなかったから、なんのことぢゃいと思ったんだが。
日本人の心の構造ってのは、なにか対立軸があっても、どっちが絶対の善悪とか正邪とかしないで、相対化してバランスをとってる。
論理とか整合性とかで統合しちゃうんぢゃなくて、矛盾をもったままでも排除せず均衡を保っちゃう、その中心は空であると、どうもそんなことらしい。
>(略)日本の神話においては、何かの原理が中心を占めるということはなく、それは中空のまわりを巡回していると考えることができる。つまり、類似の事象を少しずつ変化させながら繰り返すのは、中心としての「空」のまわりを回っているのであり、永久に中心点に到達することのない構造であると思われる。(p.46)
ってことで、古事記なんかが持ち出されて、アマテラスとスサノオがいるんだけど、もうひとりのツクヨミはあんまり活躍しないとか、海幸と山幸のあいだにもうひとりホスセリノミコトって兄弟いるんだけど無為の存在だとか、まんなかには無為の神がいる、日本の神話は中空性の構造をしてるって解き明かしてくれる。
中空性まで行く前に、人の心のなかで対立する論理については、男性性と女性性という言葉がよく使われる。
>(略)たとえば、父親は母親とちがって非常に厳しい、あるいは強い、こういう面と、もう一つ男性の特徴は、少し抽象的になりますが、女性とちがって男は切るほうが得意です。女性はみんなを同じように包み込んでいく。男性的なものは、おまえとおれとはちがうとか、よいものと悪いものとはちがうとか、そういうふうにものごとをはっきり分けて考えていく。(p.156)
っていう調子で、男性性ってのは、分割するとか分割したもの構築するとか、自然科学を生みだす要因となった性質なんだけど、日本人は中空性なんで、あまりそういうの持ちあわせていない、だから政治とかでも強いリーダーぢゃなくて、なんとなくまとめようという感じになると。
あと、なにかとバランスをとろうとするって心の構造が、日本人の判官びいきって気質につながってるってのは、成程そうなのかと思わされた。
男性と女性ということについては、前に童話とかに関する話のなかで、グリムなんかでは結婚でめでたしめでたしと物語が完結するのが多いけど、日本は必ずしもそうではないってのがあったけど、本書のなかでも、
>(略)日本人というのは、男性と女性の結合による完成よりは、完成するはずのものが別れて立ち去っていくところに美しさを見出そうとしてのではないかという気がします。(略)
>(略)日本人を動かしている非常に大きい原動力は、立ち去るものの哀れさと、立ち去ったものの恨みであるとさえ言うことができます。日本の文学の中でこの二つは重要な役割を果たしているように思います。(p.149-150)
って展開がされてて、日本の物語のつくりはそう言われてみればそうかもと気づかされた。
ちなみに、小説とかの文学だけぢゃなくて、マンガについて分析している章もあるんだけど、そこにあった、
>いま、トリックスター像について指摘したが、このようにしてみると、マンガはユングのいう元型的な心象の断片化されたものの集積場ともいうことができる。(p.177)
ってのは、精神分析医ぢゃなきゃ言えないマンガ観だなって思った。
心理学らしいことで、とても印象的だったのは、冒頭にあった、
>不安の特徴はそれが漠然としたものであることと、対象が不明確であることである。対象が明確な場合は、われわれはそれを恐怖と呼び、不安と区別している。(略)
>不安はこのような性質のものであるため、何か明確な対象に対する恐怖へとすりかえられることがある。それが、われわれ臨床家のよく知っている恐怖症の症状である。(p.9)
って一節。不安があると、それを何かに投影しようとしちゃう、そういう性質が世の中の人にはある。
昔より、統計的な事実としては殺人事件の件数は減ってんだけど、凶悪犯罪が多い、厳罰を、とかって叫んぢゃうのは、根底に不安があるからだ、とか考えられるよね。
コンテンツは以下のとおり。
I
神話的知の復権
『古事記』神話における中空構造
中空構造日本の危機
II
昔話の心理学的研究
民話と幻想
「うさぎ穴」の意味するもの
日本昔話の心理学的解明
III
現代青年の感性
象徴としての近親相姦
家庭教育の現代的意義
偽英雄を生み出した「神話」
フィリピン人の母性原理
ことしの夏に古本屋で買った文庫、河合隼雄さんの本も、たまにはすこしむずかしそうなの読んでみようかと思って。
中空構造ってボキャブラリーは知らなかったから、なんのことぢゃいと思ったんだが。
日本人の心の構造ってのは、なにか対立軸があっても、どっちが絶対の善悪とか正邪とかしないで、相対化してバランスをとってる。
論理とか整合性とかで統合しちゃうんぢゃなくて、矛盾をもったままでも排除せず均衡を保っちゃう、その中心は空であると、どうもそんなことらしい。
>(略)日本の神話においては、何かの原理が中心を占めるということはなく、それは中空のまわりを巡回していると考えることができる。つまり、類似の事象を少しずつ変化させながら繰り返すのは、中心としての「空」のまわりを回っているのであり、永久に中心点に到達することのない構造であると思われる。(p.46)
ってことで、古事記なんかが持ち出されて、アマテラスとスサノオがいるんだけど、もうひとりのツクヨミはあんまり活躍しないとか、海幸と山幸のあいだにもうひとりホスセリノミコトって兄弟いるんだけど無為の存在だとか、まんなかには無為の神がいる、日本の神話は中空性の構造をしてるって解き明かしてくれる。
中空性まで行く前に、人の心のなかで対立する論理については、男性性と女性性という言葉がよく使われる。
>(略)たとえば、父親は母親とちがって非常に厳しい、あるいは強い、こういう面と、もう一つ男性の特徴は、少し抽象的になりますが、女性とちがって男は切るほうが得意です。女性はみんなを同じように包み込んでいく。男性的なものは、おまえとおれとはちがうとか、よいものと悪いものとはちがうとか、そういうふうにものごとをはっきり分けて考えていく。(p.156)
っていう調子で、男性性ってのは、分割するとか分割したもの構築するとか、自然科学を生みだす要因となった性質なんだけど、日本人は中空性なんで、あまりそういうの持ちあわせていない、だから政治とかでも強いリーダーぢゃなくて、なんとなくまとめようという感じになると。
あと、なにかとバランスをとろうとするって心の構造が、日本人の判官びいきって気質につながってるってのは、成程そうなのかと思わされた。
男性と女性ということについては、前に童話とかに関する話のなかで、グリムなんかでは結婚でめでたしめでたしと物語が完結するのが多いけど、日本は必ずしもそうではないってのがあったけど、本書のなかでも、
>(略)日本人というのは、男性と女性の結合による完成よりは、完成するはずのものが別れて立ち去っていくところに美しさを見出そうとしてのではないかという気がします。(略)
>(略)日本人を動かしている非常に大きい原動力は、立ち去るものの哀れさと、立ち去ったものの恨みであるとさえ言うことができます。日本の文学の中でこの二つは重要な役割を果たしているように思います。(p.149-150)
って展開がされてて、日本の物語のつくりはそう言われてみればそうかもと気づかされた。
ちなみに、小説とかの文学だけぢゃなくて、マンガについて分析している章もあるんだけど、そこにあった、
>いま、トリックスター像について指摘したが、このようにしてみると、マンガはユングのいう元型的な心象の断片化されたものの集積場ともいうことができる。(p.177)
ってのは、精神分析医ぢゃなきゃ言えないマンガ観だなって思った。
心理学らしいことで、とても印象的だったのは、冒頭にあった、
>不安の特徴はそれが漠然としたものであることと、対象が不明確であることである。対象が明確な場合は、われわれはそれを恐怖と呼び、不安と区別している。(略)
>不安はこのような性質のものであるため、何か明確な対象に対する恐怖へとすりかえられることがある。それが、われわれ臨床家のよく知っている恐怖症の症状である。(p.9)
って一節。不安があると、それを何かに投影しようとしちゃう、そういう性質が世の中の人にはある。
昔より、統計的な事実としては殺人事件の件数は減ってんだけど、凶悪犯罪が多い、厳罰を、とかって叫んぢゃうのは、根底に不安があるからだ、とか考えられるよね。
コンテンツは以下のとおり。
I
神話的知の復権
『古事記』神話における中空構造
中空構造日本の危機
II
昔話の心理学的研究
民話と幻想
「うさぎ穴」の意味するもの
日本昔話の心理学的解明
III
現代青年の感性
象徴としての近親相姦
家庭教育の現代的意義
偽英雄を生み出した「神話」
フィリピン人の母性原理