震災と医療通訳士

2011-03-29 21:57:23 | Weblog
震災と医療通訳士

皆様のご清栄をお慶び致します。
ところで、東日本大震災による大きなショックの後も、小生は長期的視点から見てのメディカルツーリズムの成長性と大きなビジネスチャンスを信じて、あれこれと準備を続けてきましたが、この見方と姿勢は正しかったと思います。
何故なら、震災後も、入学者数こそ減少していますが、医療通訳士講座に強い関心を持たれる方々からの問い合わせは依然と底堅く続いているからです。
かえって、被災地での外国人救援隊の活動を報道するテレビやニュース等を見られて、災害時こそ、むしろ医療通訳士への需要が高まると気付かれたのではないでしょうか?
それが例えボランティアでの医療通訳士であれ、災害や救援活動におけるその高度な知識や技能における職業の重要性を、広く国民一般に認識して戴ける良い機会となった模様です。
このように、医療通訳士への需要は、平常時であれ災害時であれ、一年を通じて絶えず大きなものがあります。他方、一般の観光需要なら、経済変動や通貨変動、はたまた社会・政治情勢の安否等において、その都度において甚大な影響を受けるのみならず、平常時ですらシーズン・ピークやシーズン・オフなどという、季節等による大きな上下変動を避けることができません。
以上を比較すれば、観光産業に全生活や職業の基盤を置き続けることは極めて危険だと思われます。
医療や介護の分野も、それが唯一の理想的な産業分野であるとは言えないでしょうが、観光産業と比較すれば、相対的には、安定的な成長性に勝ると考えます。その理由は、医療と介護分野は、全地球上の70億人もの人類全体の、日々の命と健康に関わる最重要分野だからです。
他方、観光は、そのごく僅かなパーセンテージを占める裕福で時間的余裕のある人たちのみを対象にした不安定な産業分野でしかないからです。
従って、我が国の国家資格・通訳案内士の資格をお持ちの方々は、観光ガイド業で身を立てようと固執されるのではなく、柔軟に身を処されて、一日も早く医療通訳士の知識と技能を習得されるのが得策だと考えます。
********************************
ところで、米国人向けのメディカルツーリズム・ガイドブックの決定版「メディカルツーリズムー国境を超える患者たちー」(ジョセフ・ウッドマン著)によれば、メディカルツーリズムに於いて最も重要なのは、医療・治療であって、観光は二の次・三の次とされています。即ち、先ず、メディカルツーリズムでは治療と休養に専念できる余裕のある日程を消化し、その後に帰国・帰宅して家族と笑顔を交換し合うことが第一であり、観光(旅行)は、外国へのメディカルツーリズムで節約できた費用を使って、後日に改めて家族ともどもに出かけるのが良いのだと強調されています。
確かに、同著者の主張の通りと判断されますから、従来の我が国で一般に理解され主張されているような健康診断中心に組み立てられた、観光と医療をセットにしたスタイルのメディカルツーリズムは、今後大きく修正されるべきなのかもしれません。
もしそうならば、メディカルツーリズムでの直接的な観光への需要や比重は極めて限られたものにならざるを得ないのかもしれません。
ただし、医療やその後の休養を中心にプランニングされるメディカルツーリズムであるにしても、その国の自然の美しさや文化・国民性の良さ、医療技術やサービスなどの全般に関して良い思い出を沢山に作ってもらえれば、病気快復による笑顔での帰国後の観光目的の家族旅行では、再びその国を選んでもらえる可能性が高くなり、(これが繰り返されれば)結果的に、「医療と観光のセット」【共鳴効果】が実現すると言えるでしょう。
このように、メディカルツーリズム成長や興隆には、国全体の文化的有り様や多くの人たちが関わる大きな社会的背景、そして長い目で見ての育成・振興策とが必要であるけれども、東南アジアだけのみならず、インドや南アフリカ、メキシコ、コスタリカ、ブラジル、ハンガリーなど、既に文字通り、世界中で広くなじまれている現象となっていることを思えば、メディカルツーリズムで患者等を送り出す側にまわる大人口の国に地理的に接し、提供できる医療レベルが高度で、しかもそのコストもとりわけ低廉な我が国は、メディカルツーリズム推進で努力を傾ければ、きっと大きな成果を挙げられるでしょう。
かくて、直接的な観光産業振興目的では、当該産業自体の宿命的な波風の高さと多さに翻弄されるけれども、これにメディカルツーリズムという衣を着せ、先ずは、より安定的で持続的な集客効果を期待できる医療・介護分野を通じて訪日外国人数を多くしていくならば、長い目で見て、結果的に、観光産業にも少なからず貢献できると言えましょう。
********************************
そのメディカルツーリズムに於いて不可欠の重要な役割を果たすべき医療通訳士養成の東京通訳アカデミーは、「NPO日本通訳案内士連合(J.G.C.)」が発祥の原点であり、運営母体であることを想起して戴きたいと思います。
(国家資格)通訳案内士には、基本的には外国語への知識と通訳技能が備わっています。しかし、これらは、観光ガイド分野に重きが置かれ過ぎている傾向を否めません。
そこで、大きく方向転換することにはなりますが、医療分野の知識と技能中心に語学力や通訳技能を鍛え直すことをお勧めします。今後、益々、メディカルツーリズムが、医療【治療】が中心目的で行われる可能性を否定できないとすれば、観光方面での通訳ガイドの知識や技能のままではメディカルツーリズムで重要な役割を果たすことができません。
しかし、医療に関する専門性習得に於いて、通訳ガイドが怯む必要はありません。専門用語や通訳技能の習得は、決して至難の業ではありません。むしろ、既に修得しておられる知識や技能を往々にして応用できることが発見されて、それが大きな励みにもなるでしょう。もちろん、全く新しく、病気のことや体の各部の名前や検査や薬のこと・治療法の内容など、覚えなければならないことも少なくはありません。
全体として、全く新しく覚えるべき知識・技能量と既習ないしは応用できる事柄・量との比は、およそ7対3ないしは6対4でしょう。即ち、修得するべき医療用語は5千語と思われますが、そのうちで新出単語数は3千語と言えるでしょう。これを、当アカデミーでは、医療通訳士1級講座100時間=5ヵ月間(≒150日間)でこなしますから、一日20語余りずつマスターすれば良い計算になります。
これは、一見すれば、決して容易な数量ではありませんが、意外とスラスラと行くのです。
なぜなら、接頭辞・語幹・接尾語に厳しく分析した上で繰り返して記憶する要領を心得ておけば、かなり苦労は緩和されるのです。
しかも、すべての単語を一時に完全マスターする必要はなく、診察室・検査室・薬局等で使用割合の高い頻出語に的を絞って覚える要領も使えば良いのですが、この点は、ベテランの当アカデミー講師が指導致します。
さらに、医療通訳士技能検定試験に合格してからでも、仕事や職場を通して繰り返し覚える機会はしばしば訪れます。
********************************
以上、改めまして、今回の東日本大震災後の観光産業の壊滅的打撃に際し、登録数が1万数千人にも達すると言われる(国家資格)通訳案内士の方々に、今後の生活基盤の転換をお薦めします。
とりわけ、今日では、記述のメディカルツーリズムで賑わう先進・東南アジア諸国にも負けない程に発給要件が緩和された外国人向け長期医療滞在ビザの制度がスタートしたばかりか、厚生労働省によれば、2012年度からは、外国人受け入れに適した病院であることを公的に認証する制度もスタート予定です。
とりわけ、後者の外国人受け入れ病院の公的認証制度は注目に値します。伝えられるところによれば、全国2,500もの病院が認証制度の対象とされていると言われているのですから、その制度に不可欠な全国規模での多言語の医療通訳士養成と整備は、喫緊の課題です。
このようにメディカルツーリズムをめぐる環境が好転している今、全国の通訳案内士が、正に総力を挙げて、医療通訳士資格をも取得する体制を組むチャンスです。
今、このチャンスを逃せば、大きな悔いを残すことになるでしょう。
なぜなら、東京通訳アカデミーは、この度、東日本大震災・ボランティア救援隊・(医療)通訳チームを編成しましたが、僅かな1週間の間に600名以上もの応募を頂き、今もなお応募が続いています。この勢いを見れば、やがて、(国家資格)通訳案内士でなくとも医療通訳士資格を取得したいと言う希望者が続出する可能性があります。そのような傾向を当アカデミーへの問い合わせが、震災後も底堅く推移していることから推察しています。
ちなみに、「NPO日本通訳案内士連合(J.G.C.)」では、2007年夏場での創設時より、(国家資格)通訳案内士のための仕事開拓を模索し続けてきましたが、とりわけ、2008年9月の米国発祥のリーマンショック後の世界的経済危機と欧米からの観光客激減に対応して、観光産業に関わることや、そこに生活の基盤を置くことの危険性を痛感してきました。
こういった数年間にわたる(国家資格)通訳案内士のための仕事開拓の歴史を通じて、より安定成長性の高い経済分野としての医療介護分野に着目し、これに関わる重要職種開拓として、医療通訳士ないしはその育成を目指してきました。
その医療通訳士は、幸いにも、メディカルツーリズム管理者(=メディカルツーリズム・プランナー)や医療コンシェルジュとの兼任も十分に可能であり、今後は、独立の事業者として自立できる職種としても極めて有望です。
********************************
以上、(国家資格)通訳案内士の皆様方のみならず、語学好きの一般の方々によるメディカルツーリズムへの一層のご理解とご支持を期待しまして、この呼びかけ記事を納めます。

平成23年3月29日
東京通訳アカデミー・学院長・岡村寛三郎
JGC&TIA事務局・岡村寛三郎Email Address:okamura3@oksemi.co.jp
〒101-0052東京都千代田区神田小川町2丁目6番12号 東観小川町ビル8階













最新の画像もっと見る