電験取ろうってなると電気回路をある程度分かっておくってのが避けられないわけですけど、その中で線形素子、線形回路って言葉が出てきます。あるいは電験3種を取って気をよくした勢いで電験2種以上を取ろうなんて乱心を起こしたときに数学の知識のチャージは避けられないわけですが、そのなかで線形代数って分野もあったりします。
ってことで、知識のすそ野を広げるって意味で線形性というものについて述べておきましょう。正直雑学程度の話ですが知識のすそ野がそれなりに広がっている人と的を絞って過去問の傾向に沿うだけの学習をするのでは傾向から外れた出題をされたときに正解をもぎ取ってくる能力に開きが出ます。
入力と出力の関係は関数で表されます。入力をx、出力をf(x)とすると、x=aの時出力はf(a)、x=bのとき出力はf(b)となるわけです。そして、x=a+bのとき出力はf(a+b)となるわけですが、ここで、
f(a+b)=f(a)+f(b)
が成立する場合を線形性があるって言います。これが意味することは、ある入力に対する出力が異なる入力の影響を受けない、つまり複数の入力があるときにそれぞれの入力に対する出力が分かれば複数の入力に対する出力が単純に足し算で分かるってことです。こうなるためには入力と出力の関係が単純に比例か微積分かその足し算引き算ってことになるわけです。
そんなことが分かって何になるの?ってことなんですが、例えば回路の計算で複数の電源があるときにそれぞれの電源の影響を調べてあとで足しときゃいい、つまりは重ね合わせの理が成立する。あるいはテブナンの定理やノートンの定理その応用型のミルマンの定理ってのも回路が線形だから成り立つってわけです。ってことは複数の電源がある回路の計算は重ね合わせの理って反射的に適用してしまうと、回路にダイオードや電球など非線形の素子が入るとこの定理は通用しなくなるってことです。
さらに言えばテブナンの定理などが成立するってことで、ある回路網への入力ポートと出力ポートの電圧と電流の関係を四端子行列で表せるってのも回路に線形性があるからってことで、非線形の回路には適用できない定理だということです。
え?でもトランジスタ増幅回路ってhパラメータって四端子行列を使ってるんじゃね?ってことになってきますが、非線形ってのは入力と出力を平面に描くと直線じゃないってことなわけです。が、小さな区間に限ってみればほぼ直線と見做して問題ないってことになる。実際に電子回路でhパラメータを使った等価回路の名称が「小信号等価回路」といって非線形の曲線を描くトランジスタのごく一部のところで起きる小さな振動に対してまるで直線みたいってことにしといたら四端子行列で表せる。バイアス回路の直線成分に少しだけ乗っかってる交流成分に対して適用しているわけです。ってことは信号のふり幅がバイアスに対してシャレにならないぐらい大きかったらhパラメータを使った小信号等価回路ってのは通用しなくなるわけです。
電気回路の入力と出力の考え方は回路に限らないところで応用されてシステム理論とかシステムの出力を狙ったところに合わせる制御理論という腹が立つぐらい訳の分からない話で使われることになります。時間変化を考慮したシステムってのはシステムの中にいくつかの状態と呼ばれるものがあって、各状態の時間変化は各状態の何らかの関係と複数の入力の和で表される。この時に状態の時間変化が各状態の代数和と各入力の代数和で表せるならこのシステムは線形だということです。この手法は電気や機械の方面だけではなくって経済なんかでも動的計画法という商売の戦略を立てる手法に使われています。
線形のシステムですと複数の状態を集めたベクトルの微分は状態ベクトルにベクトルの要素の分だけのマトリクスを掛けたものと入力ベクトルと何らかのマトリクスの和、出力は状態ベクトルに出力の数に応じたマトリクスを掛けたものとなるわけです。そして線形であるときはラプラス変換をすると単純計算で各入力と各出力の関係を表すマトリクスが出来て伝達関数行列という訳です。
つまりは制御理論で出てくる伝達関数ってのが線形システムでしか通用にないものだったわけです。
手法の限界を知るってのが電験で必要かと言えばそうでもないんですが、パターン化した公式暗記と過去問の繰り返し演習で行き詰ったときには、公式の証明や限界を解き明かすことで知らず知らずのうちにひねった問題への対応力を付けていることにはなるわけです。