その後、祖父は外にもまた散歩に行くようになり、以前と同じ生活で日々は過ぎて行きました。
そんなある日、私は座敷で、多分本を読んでいたと思います。例の青い事典ではありません。
ふと私の耳に祖父の声が聞こえてきました。独り言だったのでしょう。
「お前の分まで無いのう。」
私はそれがお金の事だとピン
と来ました。
それまで、両親からは事ある事にお金がないから、と言われ続けてきたのですから。
遂に祖父の口にまでその言葉がのぼるのかと、年老いた祖父が哀れでなりませんでした。
お前の分まで無いのう、再び祖父が口にしたので、私は祖父を見上げて視線を合わせました。
祖父はハッと我に返ったようでした。我知らずの内に溜め息交じりに出ていた言葉だったのでしょう。
でも、静かに微笑していました。
私は、こんな年寄りに気苦労をかけるのが忍びなくなりました。
「お祖父ちゃん、私は自分で何とかするから大丈夫よ。」
そう言うと、祖父は静かな溜息をついて、今はそうだけど…
と、言うのでした。
今はそうだけど、そう、私はクラスでもそう見劣りするほどひどい成績ではありませんでした。
それなりに学業を修めていました。クラスメイトからもそう馬鹿ではない評価を得ていました。
Junさん、成績いいからね、とか、頭がいいからいいね
、という言葉を、特に女子から
、友人
から得ていました。
せっせとやれば自分でも何でもできると思い、事実何でもしてきていました。
大丈夫よ、将来自分で何とかするから
、と、私は再び言って祖父を安心させるのでした。
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