Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(172)

2018-08-30 10:28:48 | 日記

 一瞬、祖父はハッ!として顔を曇らせました。

祖父は孫の片頬に浮かぶ窪みに、やはり胸が痛むのを感じたのです。

『内の嫁の言う通り、この孫の顔に確かに前にはこんな物は出来なかった。』

と感じました。彼は明るく笑う孫の笑顔より、その頬の窪みにばかり目が吸い寄せられてしまいます。そんな彼は我知らずの内に、は~っと溜息を吐きました。『事はこれでは収まらんね。』そんな確信めいた予感が彼にはするのでした。

 実は商いであちらこちらへと回る祖父には、色んな人々に出会い、様々な美人を見る機会が多くありました。本来の笑窪も勿論何度か目にした事が有るのです。それはやはり女性の1つのチャームポイントでした。男性の心をそそる愛嬌がありました。その笑窪と、蛍さんの頬の窪みは、やはり別物だと祖父は感じたのでした。

 彼は気が抜けて、しみじみと孫の頬の窪みに目をやりながら再び嘆息するのでした。『本物とまがい物では、見る人が見れば分かる物だ。』そう思うと彼は、この孫の将来に酷く不安が募るのでした。

 

 「ホーちゃんに何でも言っては駄目よ。」

勿論何かしても駄目だけど、あの子に何かすると後が怖いんだから。と、茜さんは蜻蛉君に言うのでした。

「あんた、あの子に何か怒らせるような事か、あの子の嫌がる嫌な事を何か言ったんじゃないの?」

蜻蛉君は別にと答えます、

「唯、地面にあった穴の事を、あいつが掘った穴だろうと言ってやっただけだよ。」

と、彼は屈んで石を物色しながら、そのままの姿勢でちらりと茜さんの顔を見上げ、その顔色を窺いながら、彼女に素っ気なく答えたのでした。そして彼は面白そうにぷっと吹き出しました。

「その時のあいつの顔ときたら、『鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔』っていう、あれがそういう顔なんだなぁ。」

彼は感慨深そうに呟きました。


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