そんな彼等2人の話の一部始終は、彼等の横の壁、その内側の小手川君の家の台所で、お茶の用意をしていた小手川君の母に筒抜けに聞こえていました。
最初はいったいどういう事になるのだろうと思い、彼の母は物音を立てずに静かに聞いていました。日頃何となく感じ取っていた息子の恋、その行くへを案じて松山君の話を注意深く聞いていたのです。が、ここまで聞くと、彼女は密かに苦笑いしてしまいました。
『内の子って、からかわれ易いんだから。』
それにしても、内の子の本心はまぁ分かったけれど、今客間に来ているあの子はどう思っているのかしら。そう思うと、小手川君の母は野原さんの気持ちが急に気になりだしました。そこで、もう準備が出来ていたお茶を急いで茶宅に載せると、盆を用意する間ももどかしく、お茶を運んでパタパタと客間へ急ぎました。
客間に入った小手川君の母は、そこで早々にお暇を告げたいと思って、じれったそうに小手川君を待っている野原さんの様子をしげしげと眺めてみます。野原さんの方は入ってきた彼の母親に丁度よかったと思いました。
「もう失礼しますから。」
野原さんは腰を浮かせました。
それで小手川君の母の方は慌てて、もう少し彼女に長居してもらおうと考えました。
「今、お茶菓子も持ってきますから、あの子も直ぐ来るでしょうし、もう少し待っていてくださいね。」
と、愛想よく作り笑いをして、はぁと野原さんが怯んだ隙に、ここぞとばかりに息子達2人の話で気になった部分を色々と質問してみます。
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