初子が父の異変に気付いたのは、鷹夫から電話があった3日目だった。
2日前の夜、父は母と共に帰宅して来たが、
玄関先で母と言い合う声がもうろれつが回らないそれであったので、
父は酔っぱらっているなと直ぐに察しが付いた初子である。
父の様子がおかしいと言うだけに飲み屋にいるのだろうと思っていたが、
10分かそこらで父が酩酊するとも思えなかった。それで、那須さんの話が腑に落ちなかったのだが、
酔っぱらっているからおかしいと思われたのだろう。やはりそうだと初子は思う。
思っていた通りだと家に上がってきた父の顔をじーっと見守る初子。
父は彼女と顔を合わせると、母と話していた口を閉じてにゅんと笑った。
目が弓なりになり深く曲線を描いて、恵比寿様のような笑顔になった。
無くなった父方の祖父に似てるなあと思うと、彼女はやはり父と祖父、父息子だなあと感じる。
「お父さん如何したの?」
彼女が問いかける声には答えず、父は大きくふうっと溜息を吐きながら、
よろよろした足取りで自分達の寝所へと上がって行った。
初子が見守る中、父の顔は終始笑顔のままであった。
彼女は玄関に顔を出してみた。
母が玄関で履き物も脱がずに立っている。
静かで、肩を落とした感じである。その影が那須さんの時に似ていた。
「お母さん、如何したの?」
彼女の声に母は特にどうという様子も見せなかったが、
お父さん、何だか変でね。とだけ言った。
変?、那須さんもそう言う話だったけど、どんな風に変なの?何だか嬉しそうだったけど。
彼女の問いに母は如何話したものかと思う。うまく話せないでいた。
那須さんにしてもそうだったのだろう。何処が如何といえないのだが、何時もの父ではない事は確かだった。
「何だか、様子が変でね。」
何処が如何とは言えないけれど、変なのだけは分かる。
母はそれだけ彼女に言うと、
一寸もう少し飲み屋や他の人の話を聞いて来るからと出て行った。
おかしいという人もいれば、何時もの父だという人もいるのだ。
母自身がどう判断してよいか困っているのだった。
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