Jun日記(さと さとみの世界)

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美湾

2017-12-21 19:27:45 | 日記

 そこで、私は彼の真意を確かめようと、彼の深い青い瞳を真剣に見詰めてみました。彼との距離は何メートル程あったでしょうか、軽く10メートルはあったと思います。彼と私の見つめ合う、直線のその距離の中には誰もいませんでした。彼は目も逸らさずに、悪びれる様子も無く、ごく真面目にじいっとこちらを見つめていました。

 『真面目な人なんだ。』と私は思いました。そこで彼が次にポンポンと岩を叩いた時、私は『仏の顔も3度まで』の言葉を思うと、これ以上無視するのは返って失礼かなと思いました。兎に角、彼は何か私に話しがあるのだ、それもかなり真面目な話らしいと感じて、私は自分が乗った岩から足を踏み出そうとしました。その矢先、私が片足を浮かせかけた瞬間、私の右脇からさっと1人の女性が彼と私の視線の間に入ったと思うと、自分の背中越しにちらっとこちらに顔だけを向けて、私に何か含むような会釈をすると其の儘彼の方へ急ぎ足で歩み去って行きました。彼女は私と彼との間に入ってハッキリと何かしらのコンタクトの邪魔をしたのでした。

 彼女が私に振り返って会釈した様子が、いかにも『この場は私に任せて。』と言っているようで、向こうの彼に、彼女と私が知り合いのように思われそうでした。そこで、私は彼に何か迷惑が掛かってもいけないと思いました。彼女の背中から彼の方へ顔を出すと、その人の事は知らないというように首を振って見せました。彼も、彼女の影から顔を出して私と目が合いましたから、その点の事情は分かった様でした。

 この様に、思いがけず急な飛び入りの彼女に邪魔をされたとはいえ、これは私にとってはラッキーでした。何故なら、私はやはりこのウルルで初対面の彼に、単なる旅行者である私が何かしらのトラブルに巻き込まれるのを避けたかったからでした。彼の事情がよく分からないのですから、この機を逃さずさっさと下山した方が得策だろうと感じました。

 また、飛び出していった彼女の事は全く知らない人だったので、その後どうなってもそれは彼女自身の招いた結果だと割り切っていました。よく言われるように、「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。」といった言葉もあるくらいです。余計なおせっかいでもありました。やはり、麗しい彼との仲を邪魔されたのは少々腹の立つ事でした。誰でもそうだと思います。

 ここで私は思いっ切りよく、彼女が彼の気を引いている間にすたこらさっさと下山道に飛び出しました。後ろも振り返らずに一散に下山道を下りて行きました。この時の私の、後ろ髪を引くものは何もありませんでした。


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