Jun日記(さと さとみの世界)

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美湾

2017-12-22 12:25:06 | 日記

 本当に綺麗な水です。シドニー湾の海水を見ていると、透明な水の中に様々な自分の人生の「時」という物が映し出されて来るようです。今の日本であれば春の海、向こうはまだ春浅い頃だけど、こちらの少し暑さが引いた時期の海辺の、この心地よさが本来の春の暖かな日差しにのんびりとした海を連想させるので、私は『春の海ひねもすのたりのたりかな』の句を思い出していました。私は自由時間を持て余して来たので、退屈紛れに水面を見ながら、脳裏に残る自分の人生の色々な場面を甦らせてみました。

   自分の人生に彩りを添える頃というと青年時代です。その頃の美しい思い出を1つ、私は大切に胸の内に仕舞っておいたのでした。普段日常の喧騒に忘れ去ってしまったように思うそんな思い出が、透き通った海の水底を見たせいでしょう、記憶の底から鮮明に浮き上がって来ます。この海は覗く者の人生を映し出す鑑のように澄んで静かでした。

 透明な海水の中間部を切り取ったキューブのように微動だにしない私の美しい思い出。 この思い出はウルルの尾根であの美しい青年の瞳を見つめた時にも私の脳裏を過ぎりました。いえ、あの時に私の記憶の底から浮き上がって来たのでした。

   私はこの思い出のために彼の側へ行く事を躊躇し、内心酷く困り、そんな自分自身に戸惑っていました。その時迄、私はこの思い出が自分の人生で一番美しく良い思い出である事に十分満足していたのです。それは私の手にしている無形の宝であり、懐に仕舞い込んである玉でした。誰にも手を触れられない場所に有る物であり、私の愛でている唯一至高の宝石でした。

 その私固有の宝が、私が立っていたウルルの赤く茶色い岩の上に私の足を止めていました。そう、この時、私は彼のお誘いを、多分私に向けて発せられているのだろう岩へのお誘いを、婉然と断るつもりでいました。

   

 


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