再処理工場 MOX燃料工場 批判の中 再開着々
福島第一原発事故を受けた新たなエネルギー政策が決まっていないのに、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」事業の中核的な二施設で、試験運転や建設を再開する動きが出てきた。核燃料サイクルは中止になる可能性があり、そうなれば不要な施設となる。専門家からは批判の声が出ている。
核燃料サイクルをめぐっては、本紙の調べで、四十五年間に少なくとも十兆円が投じられたことが判明。電気料金の一部が主な原資となっているが、サイクルが完成するめどは立っていない。今夏をめどに決まる新政策でも、核燃料サイクルの存廃が最大の焦点だ。
福島第一の事故を受け中断された事業が再び動きだすのは、使用済み核燃料から再利用するプルトニウムとウランを取り出す再処理工場(年内に完成予定)と、取り出したプルトニウムなどを新たな核燃料につくり直すMOX燃料工場(二〇一六年に完成予定)の二つ。両工場とも電力各社が出資する日本原燃が青森県六ケ所村で運営する。
再処理工場では十日、プルトニウムなどを取り出した後にできる高レベル放射性廃液をガラス固化体にする溶融炉で、温度を上げる「熱上げ」がスタートした。まず放射性物質を含まない模擬廃液で試した後、実際に使用済み核燃料を使って試験する。
一方のMOX燃料工場では、原燃が早ければ三月にも建設工事を再開するという。
しかし、新たなエネルギー政策が定まらない中での再開はさまざまな問題がある。
再処理工場では、二つある溶融炉のうち、実際に使われて極めて高い放射能に汚染されたのは一つだけだが、今春以降はもう一方の炉も試験する予定だ。原燃は「準備が整い次第、試験を再開したいと考えていた」とコメントしている。ただ、核燃料サイクルが中止になれば、厳重な管理が必要になる高濃度の放射性廃棄物を増やすだけの結果となる。
京都大原子炉実験所元講師の小林圭二氏は「高速増殖炉『もんじゅ』の稼働が(事故で)つまずいており、再処理工場を動かすこと自体に意味がない」と指摘。見直し議論が進む中で「試験再開は世の中の動きと隔絶している」と批判する。
MOX燃料工場の建設工事も、同様に政策が変われば、不要の施設となるだけ。
十一日の原子力委員会小委員会で、原子力資料情報室共同代表の伴英幸委員は「議論の最中に工事が進むのはおかしい。仮に核燃料サイクルが中止になれば政策変更に伴うコストが増える」と指摘。同委として工事再開を見合わせるよう提言することを求めた。
ただ、同委事務局は「新しい政策が決まるまでは、今の政策が生きている。事業者は現政策に基づいて工事を行っている」と説明。提言を出すことは考えていないとした。
(東京新聞 2012年1月12日)