情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

情報公開・個人情報保護審査会 平成21年度(独情)答申第16号 特定の土地に関して入札の経過が…

2009年07月15日 | 事務・事業に関する情報
諮問庁 : 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
諮問日 : 平成20年 4月14日(平成20年(独情)諮問第73号)
答申日 : 平成21年 7月15日(平成21年度(独情)答申第16号)
事件名 : 特定の土地に関して入札の経過が分かる文書の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 特定の土地に関する「入札経過調書」(以下「文書1」という。)及び「土地売却データファイル」(以下「文書2」といい,文書1と併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,別紙に掲げる部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年6月6日付け国管管第136号により独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2  異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書の記載によると,おおむね次のとおりである。
 原処分においては個人に関する情報が不開示とされ,具体的には旧国鉄用地の払い下げに係る入札経過調書及び電子データのうち入札限度額や入札保証金,入札金額,出納役又は出納員,売却価額等が黒塗りとされたが,これは著しく不当なものである。
 巨額の旧国鉄債務について保有資産の売却により,その圧縮が図られるものであるが,実際の売却が適正なものであったかをチェックすることは納税者にとって必要不可欠な行為である。ところが,原処分のように,その金額等が伏されたままでは,そのチェックを適切に行うことは不可能である。そもそも,国の出先機関や地方自治体においては,建設工事の入札記録等は広く住民に縦覧されており,応札者はもとより応札金額も一切が開示されるのが,今日では当たり前である。
 また,不開示部分には出納役や入札執行者の印影等も含まれるが,入札にかかわった行政責任者が特定できないことは,その適切性をチェックする上で支障となりかねず,不開示とすることはやはり不当である。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  本件異議申立てについて
 本件異議申立ては,「①特定年月に売買がなされた特定の土地Aに関して,入札経過(面積,応札者,落札金額,最低制限価格,予定価格等。以下同じ。)が分かる文書,②特定年1に実施された特定の土地Bに関する入札の経過が分かる文書,③特定年2ころに実施された特定の土地Cに関する入札の経過が分かる文書,④特定年3ころに実施された特定の土地Dに関する入札の経過が分かる文書,⑤特定年4以降,特定会社グループが落札した旧国鉄用地に関して,その入札の経過が分かる文書」の開示請求について,異議申立人から,不開示とした部分の開示を求めて提起されたものである。

2  独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構について
 機構は,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法に基づき設立された独立行政法人であり,鉄道の建設等に関する業務及び鉄道事業者,海上運送事業者等による運輸施設の整備を促進するための助成その他の支援に関する業務を行うとともに,特例業務として,日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律13条に基づき,旧国鉄職員の年金の支払い,及びその支払いに充てるため旧国鉄から承継した土地の処分,JR株式の処分等を行っている。
 日本国有鉄道清算事業団は,日本国有鉄道清算事業団法に基づき設立された特殊法人であるが,平成10年10月22日に解散しており,その一切の権利及び義務は,国が承継した旧国鉄等の債務を除き,日本鉄道建設公団(平成15年10月に独立行政法人化)を経て機構が承継している。
 そのため,「日本国有鉄道清算事業団」及び「日本鉄道建設公団」に係る事項については,本説明中,便宜上「機構」として表現することとする。

3  原処分の妥当性
(1)  本件開示文書について
 処分庁は,今回開示請求のあった法人文書に該当する文書として,特定の土地に関する入札経過調書及び土地売却データファイルの2件を特定し,次に掲げる理由から,本件対象文書の一部を不開示とした。

ア  入札経過調書
 入札経過調書の文書保存期間は5年間であり,平成13年度以前に売却を実施したものについては保存期間満了により破棄済みであるため不存在。

イ  購入者の代理人の氏名
 これを開示することにより,特定の個人を識別できることとなることから,法5条1号により不開示とした。

ウ  入札限度額,入札保証金額及び入札金額
 落札者から公開の同意を得ていない入札限度額,入札保証金額及び入札金額については,公開の対象外としている。これらの信頼と期待は保護されるべきものであり,また,これを開示することにより,購入者の持つ経営戦略又は財務状況といった企業秘密が明らかとなり,購入者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり,法5条2号イにより不開示とした。

エ  出納員及び関係者の氏名及び印影
 これらを開示することにより,特定の個人を識別できることとなることから,法5条1号により不開示とした。


 以下に本件対象文書の不開示情報該当性について説明する。

(2)  本件対象文書の不開示情報該当性について

ア  本件対象文書の性質について
 本件対象文書として特定し,保存期限が満了していないため現存するものは,以下の2種類である。本件対象文書には,以下の情報が記載されている。

①  入札経過調書
 ・入札執行場所及び日時
 ・物件の公告番号,物件番号,件名及び面積
 ・入札社名及び代理人氏名
 ・入札限度額,入札保証金額及び入札金額(落札金額でもある。)
 ・出納員及び関係者の氏名及び印影

②  土地売却データファイル
 ・物件の名称及び所在地
 ・参考価格
 ・売却面積
 ・売却価額
 ・売却相手名
 ・その他
 異議申立人は,公共工事を例として引用し,土地売却価額の公表を主張している。機構においても,工事・役務等については,これまでも公表してきたところであるが,土地譲渡については,これらとは違い,購入者が契約額の開示を前提として購入しているものではない。
 また,入札金額は通常他者には知り得ない情報であり,土地売却に関する入札において通例として公にされていないことから,機構としては入札時に入札者に対し情報公開に関するアンケートを行い,公開の諾否を確認し,さらに情報公開請求があった際にも,改めて第三者照会を行い,公開に対する意思を確認した上で開示の判断を行っている。
 この過程で,経営上不利益のおそれ等,合理的な理由により開示を拒否した購入者の落札金額を開示することは,応札者と機構との間の信頼関係を害することとなり,また,応札者が情報開示されることをリスクと捉えて今後の機構への入札を控えるおそれも考えられ,機構の主要な収入源である土地売却に支障を来すおそれがあることから,機構の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害し,また,機構の経営上の正当な利益を害するおそれがあるため,既に述べた不開示情報該当性以外にも,法5条4号ニ及びトに規定する不開示情報に該当する。

イ  個々の不開示情報該当性について
 本件対象文書のうち,売却価額に関する部分(入札限度額,入札保証金額,入札金額,落札金額及び売却価額)については,購入者すべてに対し法14条1項に基づく意見照会を行った。これに対し,購入者を代表し,特定会社グループより「文書には,土地の取得価格等の重要な企業情報が含まれており,公にされることによって,不動産取引等の企業活動をする際に,競争上の地位に不利益を及ぼす等,企業経営に様々な支障が発生する。」として「支障あり」の回答があった。
 したがって,これらの情報の開示により,購入者の競争上の地位を不当に害するおそれがあることから,法5条2号イ及びロに規定する不開示情報に該当する。
 文書1及び文書2のうち,応札者の代理人名,出納員名及び関係者の印影については,特定の個人を識別できる情報であるため,法5条1号の規定する不開示情報に該当する。

4  結論
 以上のことから,諮問庁は,原処分を維持し,本件対象文書は不開示とすることが妥当なものと考える。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成20年4月14日  諮問の受理 
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年12月19日  本件対象文書の見分及び審議
④  平成21年4月13日  審議
⑤  同年7月13日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 本件対象文書は,特定の土地の売却に関して機構が行った入札に係る「入札経過調書」(文書1)及び「土地売却データファイル」(文書2)である。
 文書1は,土地売却のための入札に関する事実関係を記録したものであり,具体的には,入札の執行場所及び日時,売却対象用地の件名及び面積,公告番号及び物件番号(機構内での整理用に付与する番号),出納役又は出納員と入札執行者の氏名及び印影並びに応札者の氏名(社名),入札限度額,入札保証金額,入札金額及び落札金額が記録され,落札者が決定したものには「落札」と押印されており,これらの事実に相違がないことを支社長まで確認しているものである。
 また,文書2については,機構では,売却した土地に係る情報(物件名称,所在地,参考価格,仮換地面積,売却面積,売却価額及び売却年度,入札日,応札者数及び売却相手名)を登録するデータベースを整備しているところ,今般の開示請求に当たり,審査請求人と打合せの上,当該データベースから必要な情報を抽出したものである。
 処分庁は,①文書1に記載された,土地購入者である特定会社の代理人及び機構の出納役又は出納員の氏名,次長の姓,支社長及び次長の署名並びに出納役又は出納員及び入札執行者の印影は法5条1号に,また,入札限度額,入札保証金額及び入札金額(落札金額でもある。以下同じ。)は同条2号イに,②文書2に記載された売却価額は同号イに該当するとして,当該部分を不開示とする原処分を行った。
 これに対し,異議申立人は不開示部分を開示すべきと主張するが,諮問庁は,原処分は妥当であるとし,また,入札金額及び売却価額は法5条4号ニ及びトにも該当するとしている。
 本件対象文書を見分した結果等を踏まえ,以下,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。

2  不開示情報該当性について
(1)  文書1で不開示とされている氏名,姓,印影及び署名について

ア  土地購入者である特定会社の代理人の氏名について
 代理人の氏名は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別できるものであり,同号ただし書イの慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であるとは認められず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しないので,同号の不開示情報に該当し,不開示としたことは妥当である。

イ  機構の支社長の署名,次長の姓及び署名,出納役又は出納員の氏名及び印影並びに入札執行者の印影について
 機構の支社長の署名,次長の姓及び署名,出納役又は出納員の氏名及び印影並びに入札執行者の印影については,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当する。
 そこで,法5条1号ただし書のイないしハ該当性について検討すると,機構の支社長の署名,次長の姓及び署名,入札執行者の印影については,当該各人の氏名は,一般に市販されている独立行政法人国立印刷局編「職員録」(以下「職員録」という。)に掲載されており,法5条1号ただし書イに規定する「法令の規定により又は慣行として公にされている情報」に該当することから,開示すべきである。
 一方,出納役又は出納員の氏名及び印影については,当該氏名は,職員録に掲載されておらず,その他,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものと認めるべき事情も見当たらないことから,法5条1号ただし書イに該当しない。また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しないことから,法5条1号の不開示情報に該当し,不開示としたことは妥当である。

(2)  文書1における入札保証金額,入札限度額及び入札金額並びに文書2における売却価額について
 文書1においては,入札金額の隣に「落札」と押印されており,入札金額で落札されたことが認められ,また,文書2においては,落札金額が売却価額として記載されていることが認められる。
 当審査会において諮問庁から文書1に係る「公開競争入札案内書」及び機構の「国鉄清算事業本部土地等売却入札規則」の提示を受けて確認したところ,機構においては,落札者の同意を得ず,落札者及び落札金額を公表することがある旨が記載され,入札参加者は,この条件に同意した上で,入札に参加しているものと認められる。
 また,当審査会において事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,機構においては,開札時に,契約担当職員が入札参加者の面前で各入札金額を読み上げて落札者を決定するとのことであり,入札金額については入札参加者が知ることができることとなっていると認められる。
 以上のことから,入札金額及び売却価額を公にしたとしても,土地購入者である特定会社の経営戦略又は財務状況といった企業秘密が明らかとなり,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,また,当該価額は,公にしないとの条件で任意に提供されたものとも認められない。
 さらに,機構においても,落札者の同意を得ず,落札者及び落札金額を公表することがあることを前提に保有資産の売却を行っているものであることから,入札金額及び売却価額を公にしたとしても,機構と応札者との間の信頼関係が害され,また,今後機構が行う事業への入札が控えられるおそれがあるとは言えず,機構の契約に係る事務に関し,財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害し,また,機構の経営上の正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。
 したがって,入札金額及び売却価額については,法5条2号イ及びロ並びに4号ニ及びトに該当せず,開示すべきである。
 また,「公開競争入札案内書」によれば,入札参加者は,その見積もる入札金額の100分の10以上の入札保証金を納入することとされていることが認められる。当審査会において事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,入札保証金額及びこれを100分の10で割り戻した入札限度額については,これを公にすると入札金額を推定し得るとのことであるが,入札保証金額及び入札限度額から入札金額を推定できるとは認められず,また,上記のとおり,入札金額及び売却価額は開示すべきである以上,入札保証金額及び入札限度額を公にしても,土地購入者である特定会社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,また,当該価額は,公にしないとの条件で任意に提供されたものとも認められないことから,法5条2号イ及びロに該当せず,開示すべきである。

3  異議申立人のその他の主張について
 異議申立人はその他種々主張するが,いずれも当審査会の判断を左右するものではない。

4  本件一部開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号及び2号イに該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が,不開示とされた部分は同条1号,2号イ及びロ並びに4号ニ及びトに該当することから不開示とすべきとしていることについては,別紙に掲げる部分は同条1号,2号イ及びロ並びに4号ニ及びトのいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の不開示部分は法5条1号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。

(第5部会)
 委員 戸澤和彦,委員 久保茂樹,委員 新美育文

別紙
 開示すべき部分
 入札経過調書
 ・次長の姓
 ・入札執行者の印影
 ・支社長及び次長の署名
 ・入札保証金額
 ・入札限度額
 ・入札金額
 土地売却データファイル
 ・売却価額


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。