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神奈川県情報公開審査会 答申第263号 温泉利用施設概要一部非公開の件

2005年05月23日 | 法人等に関する情報
答申第263号
平成17年5月23日

神奈川県知事 松 沢 成 文 殿

神奈川県情報公開審査会
会 長 堀 部 政 男

行政文書公開請求拒否処分に関する不服申立てについて(答申)

平成16年6月16日付けで諮問された温泉利用施設概要一部非公開の件(諮問第286号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
(1)特定の地区の旅館及び公衆浴場に係る温泉利用施設概要のうち、次に掲げる部分は、公開すべきである。
ア 源泉番号、ゆう出地及びゆう出地別の温泉使用量
イ 温泉使用量及び一人当たり温泉使用量
ウ 循環ろ過装置の有無、台数及び能力
エ 昇温装置の有無、台数及び使用方法
オ 貯湯槽の有無、台数及び系列
(2)実施機関は、非公開理由付記の不備を是正すべきである。

2 不服申立人の主張要旨
(1)不服申立ての趣旨
不服申立ての趣旨は、神奈川県知事(以下「知事」という。)が、平成16年3月17日付けで、特定の地区の旅館及び公衆浴場(以下「本件旅館等」という。)に係る温泉利用施設概要(以下「本件行政文書」という。)を一部非公開とした処分(以下「本件処分」という。)のうち、神奈川県情報公開条例(以下「条例」という。)第5条第2号に該当するとして非公開とした部分の公開を求める、というものである。

(2)不服申立ての理由
不服申立人の主張を総合すると、次のとおりである。

ア 本件処分の理由は、単に条文の規定をなぞっただけであり、具体的にどのような不利益が生じるのかを説明していない。最高裁判決においても「開示請求者において(中略)非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、(中略)理由付記としては十分ではないといわなければならない」との判断が示されており、本件処分は、上記判決で示された理由付記の要件を満たしていない違法な処分である。

イ 本件行政文書に記載された情報は、本件旅館等の泉質に関する情報であり、本件処分を行うに当たり、本件旅館等に第三者として意見提出の機会を付与すべきであった。本件行政文書には、源泉かけ流しの名旅館と自他ともに認める旅館や業界団体の自主基準に基づき自主的に泉質等の表示をしている旅館の情報が含まれており、これらの旅館を含めて泉質に関する情報を実施機関の独断で一律に非公開としたことは、本件旅館等に対する誤解を生み、その信用・社会的評価を不当に低下させるおそれがある。本件旅館等の意見を聞かないまま決定した手続には不備があり、本件処分は違法である。

ウ 本件旅館等の中に、泉質に関する情報を積極的に公開していない旅館等が一部あるとしても、本件行政文書の公開が顧客の減少を招くとはいえない。確かに、泉質に関する情報は、顧客が旅館等を選ぶ際に重視されるが、立地、料理等重視される判断材料の一つにすぎず、全国各地で温泉の不当表示が発覚している現状では、泉質に関する情報の非公開はむしろ旅館等に対する不信感を助長し、顧客の減少や経営への影響を招くおそれの方が強い。

エ 残留農薬が検出された健康茶の商品名等の公開に関する平成6年11月15日東京地裁判決において、判決は、「事業者が商品を流通させた後は、品質などに関する客観的な情報を秘匿する合理的な理由はない」、「情報公開によって、ある商品の販売力や収益に不利益が生じるとしても、事業者が甘受しなければならない」として非公開処分を取り消している。本件行政文書における加温、加水、循環ろ過装置の有無等の情報は、秘匿する合理的な理由がない「品質等に関する客観的な情報」であり、実施機関が主張する顧客の減少や経営への影響が起こったとしても、それは品質に起因するものであって、前記判決がいうように、事業者が甘受すべきものである。

オ 消費者が商品・サービスを選択する際に、それらの品質に関する情報は必要不可欠であるが、温泉も消費者が購入する商品・サービスの一つであって、泉質に関する情報の表示や公開は、消費者の賢い選択には欠かせない。しかし、現状は泉質に関する情報の表示が不十分であり、公正取引委員会も「温泉表示に関する実態調査報告書」において、加温、加水及び循環ろ過装置の有無に関する情報提供の必要性を指摘し、関係団体に対して適切な情報提供に積極的に取り組むよう要請した。本件処分に係る情報は、社会的にも公開が強く要請されるものである。

カ 温泉というものの性質上、泉質に関する情報は、人の健康・身体・生命にかかわる情報でもあり、公開すべきである。特に、循環ろ過装置に関する情報は、装置のずさんな管理によるレジオネラ菌の感染例が全国で相次いでいることから、顧客が最も知りたい情報である。循環ろ過装置の有無が直ちに条例第5条第2号ただし書に該当するものではないが、本件行政文書を公開すれば、社会的注視を浴び、本件旅館等がさらに努力することが期待できるので、本件行政文書は同号ただし書に該当する。

3 実施機関(保健福祉事務所)の説明要旨
実施機関の説明を総合すると、次のとおりである。

(1)本件行政文書について
本件行政文書は、本件旅館等に係る温泉利用施設概要である。本件行政文書は、条例や規則等によって作成が規定されているものではなく、温泉の利用許可を行った後、実施機関における事務の遂行上必要な情報を記載したものであり、実施機関において任意に作成しているものである。

(2)条例第5条第2号該当性について
ア 温泉利用者が、旅館等の泉質に関する情報を知りたいという状況も理解できるが、旅館等からすると、泉質に関する情報を公開することにより顧客の減少が予測され、経営が脅かされる可能性もあるため、本件行政文書のすべての情報を公開することは、本件旅館等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第5条第2号本文に該当する。

イ 循環ろ過装置は、省エネや温泉資源保護のために利用されているが、汚染された浴槽から上がる蒸気等からレジオネラ菌が口に入って病気になるといった報道が過去にあった。しかし、循環ろ過装置は、適正に管理されていれば、レジオネラ菌等による病気等は起こらないので、循環ろ過装置の有無を含めて、本件行政文書は、条例第5条第2号ただし書に該当しない。

ウ 特定地区の温泉協会や温泉事業者の組合に対して、循環ろ過装置の有無等の情報を公開することについて意見聴取を行ったところ、宿泊客の減少により現状でも経営環境が厳しい状況にあるので、当該情報を公開されるのは困る旨の意見が出された。このような状況を考慮した結果、現時点で当該情報を公開するのは適当でないと判断し、本件処分を行った。

エ 旅館等や温泉事業者の組合が、泉質に関する情報に関して自主的に情報提供を行うことは、実施機関としても積極的に進めてほしいことである。しかし、旅館等にも様々な規模のものがあり、すべてが上位に位置するものであれば問題ないが、温泉施設の優劣の判定に利用される可能性のある情報を実施機関が一律に提供するのは適当でない。

4 審査会の判断理由
(1)審査会における審査方法
当審査会は、本諮問案件を審査するに当たり、神奈川県情報公開審査会審議要領第8条の規定に基づき委員を指名し、指名委員は不服申立人から口頭による意見を、また、実施機関の職員から口頭による説明を聴取した。それらの結果も踏まえて次のとおり判断する。

(2)不服申立ての対象について
本件不服申立ての対象は、条例5条第2号に該当するとして非公開とした部分である。
以下、不服申立ての対象とされた情報について検討する。

(3)条例第5条第2号該当性について
ア 条例第5条第2号本文該当性について
(ア)条例第5条第2号本文は、「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」は非公開とすることができると規定している。

(イ)泉質に関する情報について
消費者が商品・サービスを選択する際に、それらの品質に関する情報は必要不可欠であり、泉質に関する情報についても、消費者の選択には欠かせないものである旨の不服申立人の主張は、理解できる。
また、温泉法により掲示が義務づけられている温泉成分等の具体的な掲示項目を定めている温泉法施行規則(以下「規則」という。)が改正され、温泉成分に影響を与える加水、加温、循環ろ過等の項目を新たに掲示することが、本年5月24日より義務づけられることとなっている。
以上のことを考え合わせると、本件行政文書に記載された情報のうち、次に掲げる情報については、公開することにより、本件旅館等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないと判断する。
a 循環ろ過装置の有無
b 昇温装置の有無

(ウ) 本件行政文書に記載された情報のうち、次に掲げる情報については、規則の改正により掲示が義務づけられた項目ではないものの、当該項目に類する情報であり、泉質に影響を与える情報であると認められるので、(イ)に述べたのと同様の理由により、条例第5条第2号本文には該当しないと判断する。
a 源泉番号、ゆう出地及びゆう出地別の温泉使用量
b 温泉使用量及び一人当たり温泉使用量
c 循環ろ過装置の台数及び能力
d 昇温装置の台数及び使用方法
e 貯湯槽の有無、台数及び系列

(エ)充填機、充填口数、温泉タンク及び販売先(以下「充填機等」と総称する。)に関する情報は、源泉を販売する施設の場合に記載されるものであって、本件旅館等が事業活動を行う上での販売上のノウハウに関する情報に該当する。また、充填機等は、規則の改正により新たに掲示が義務づけられた項目ではなく、また、当該項目に類する情報とも認められず、泉質に影響を与える情報とはいえない。
したがって、充填機等は、公開することにより、本件旅館等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められるので、条例第5条第2号本文に該当すると判断する。

イ 条例第5条第2号ただし書該当性について
条例第5条第2号ただし書は、同号本文に該当する情報であっても、「人の生命、身体、健康、生活又は財産を保護するため、公開することが必要であると認められる」場合には、例外的に公開できると規定している。
しかし、充填機等は、前記ア(エ)で述べたとおり、本件旅館等が事業活動を行う上での販売上のノウハウに関する情報であり、泉質に影響を与える情報とはいえない。したがって、人の生命、身体、健康、生活又は財産を保護するため、公開することが必要であるとは認められないことから、同号ただし書には該当しないと判断する。

ウ その他
(ア)理由付記の不備について
不服申立人は、本件処分に係る決定通知書に記載された非公開理由は、単に条文の規定をなぞっただけであり、具体的にどのような不利益が生じるのかを説明していないと主張する。
当審査会が確認したところ、本件処分に係る決定通知書の「公開することができない理由」欄には、「法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。」と記載されており、条例第5条第2号の条文をそのまま引用したものであることから、本件処分において、いかなる根拠により条例第5条第2号に該当するとされたかを不服申立人が了知することは、困難であるといわざるを得ない。
したがって、実施機関は、不服申立人が引用する平成4年12月10日最高裁判所第一小法廷判決(平成4年(行ツ)第48号)の趣旨に従い、この答申を経て行う決定において、理由付記の不備を是正すべきであると判断する。

(イ)決定手続の不備について
不服申立人は、実施機関が旅館等の第三者に意見照会を行わずに本件処分を行ったことについて、決定手続に不備があると主張するが、当審査会は、行政文書の公開請求に対する諾否決定の当否について、実施機関から意見を求められているのであり、これに影響を与えない不服申立人の主張については、意見を述べる立場にない。

5 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別 紙
審査会の処理経過
年月日処理内容
平成16年 6月16日○諮問
6月21日○実施機関に非公開等理由説明書の提出を要求
7月14日○実施機関から非公開等理由説明書を受理
7月20日○不服申立人に非公開等理由説明書を送付
8月20日○不服申立人から非公開等理由説明書に対する意見書を受理
平成17年 1月17日(第38回部会)○審議
2月 3日(第39回部会)○審議
2月 7日○指名委員により不服申立人から意見を聴取○指名委員により実施機関の職員から非公開等理由説明を聴取
3月30日(第40回部会)○審議
4月13日(第41回部会)○審議


神奈川県情報公開審査会委員名簿
氏 名現 職備 考
金 子 正 史同志社大学教授会長職務代理者
沢 藤 達 夫弁護士(横浜弁護士会)部 会 員
鈴 木 敏 子横浜国立大学教授
竹 森 裕 子弁護士(横浜弁護士会)
玉 巻 弘 光東海大学教授
千 葉 準 一首都大学東京教授部 会 員
堀 部 政 男中央大学教授会 長(部会長を兼ねる)

(平成17年5月23日現在)(五十音順)


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