諮問庁 : 金融庁長官
諮問日 : 平成19年 6月18日(平成19年(行情)諮問第298号)
答申日 : 平成20年 7月10日(平成20年度(行情)答申第143号)
事件名 : 特定団体が関東財務局に提出した特定保険業者の届出書等の一部開示決定に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
特定団体が関東財務局に提出した別紙1に掲げる特定保険業者の届出書及び添付書類(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別紙2に掲げる部分を開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
(略)
第3 諮問庁の説明の要旨
(略)
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成19年6月18日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年7月3日 審議
④ 同年11月6日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成20年4月15日 審議
⑥ 同年6月10日 審議
⑦ 同年7月8日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書等について
(1) 本件対象文書
本件対象文書は,特定団体が特定保険業者の届出をするために,関東財務局に提出した別紙1に掲げる8文書である。
(2) 保険業法の改正と本件対象文書
平成17年4月22日,保険業法等の一部を改正する法律(平成17年法律第38号)が成立した。この保険業法の改正は,特定の者を相手方とする保険の引受けを行う共済事業(根拠法のない共済事業)について,契約者保護の観点から,保険業法の適用範囲の見直しを行い,原則として保険業法の契約者保護ルールを適用すること等を内容とするものである。
このため,平成18年4月1日現在で共済事業を行っており,引き続き保険の引受事業を行う者は,平成18年9月末日までに財務局に特定保険業者として届出を行う必要があるとされた。
本件対象文書は,特定団体(権利能力なき社団)が実施してきた共済事業につき,上記の保険業法の改正により,特定団体が関東財務局に対して特定保険業者としての届出をするために提出した文書である。
(3) 原処分等
処分庁は,原処分において,文書1,文書2,文書4及び文書6ないし文書8の一部並びに文書3及び文書5の全部について,法5条1号及び2号イに該当するとして,不開示とした。
諮問庁は,原処分で不開示とした部分のうち,別紙3に掲げる部分は開示することとしていることから,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分(以下「本件不開示部分」という。)について,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,その不開示情報該当性を検討する。
2 不開示情報該当性について
(1) 法5条1号該当性
ア 文書1ないし文書3,文書6及び文書8
(ア) 文書1ないし文書3,文書6及び文書8の本件不開示部分には,特定団体の役員,担当者及び特定保険業者募集人の氏名,役職名,住所及び連絡先が記載されていることが認められる。
特定団体の役員,担当者及び特定保険業者募集人の氏名,役職名,住所及び連絡先は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められる。
(イ) 次に,法5条1号ただし書該当性及び部分開示の可否を検討する。
A 異議申立人は,特定団体の代表者,役員等の氏名は,当該団体の情報誌や特定新聞等においても実名で報道されており,当該情報は,法5条1号ただし書イに該当するため,開示すべきであると主張する。
B これに対し,諮問庁は,次のとおり説明する。
特定団体は,権利能力なき社団であり,登記により代表者,役員等が公開されているものではない。また,特定団体の情報誌は特定団体の組合員に配られるものであり,一般に配布されているものではない。
上記のことから,特定団体の代表者,役員等の氏名は,法5条1号ただし書イに該当しないと主張する。
C 特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,これを法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されていると認められる事情も見当たらず,当該情報は,法5条1号ただし書イに該当しないと認められる。さらに,法5条1号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しない。
そして,特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,一体として特定の個人を識別することができる部分であることから,法6条2項による部分開示の余地はない。
したがって,特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,法5条1号の不開示情報に該当し不開示とすることが妥当である。
D 当審査会において,特定新聞の記事を確認したところ,特定団体自らが役員の氏名及び役職を記載した記事下広告を掲載していることが認められることから,特定団体の役員の氏名及び役職名は,法5条1号ただし書イの慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当すると認められる。
また,文書2に記載されている特定団体の代表者の住所及び連絡先は,代表者が居住している住所等ではなく,特定団体の住所等であり,特定団体に所属する特定協同組合のホームページに掲載されていることが認められることから,役員の氏名及び役職と同様,法5条1号ただし書イに該当すると認められる。
なお,諮問庁は,特定団体の役員の氏名等は,特定団体の役員情報に該当し,法5条2号イに該当するとも説明しているので,当該部分については,下記(2)において検討する。
イ 文書4
文書4の本件不開示部分には,特定団体の会員団体及び所属団体の代表者の氏名が記載されていることが認められる。
当該会員団体等の代表者の氏名は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められるが,当該会員団体等は,中小企業等協同組合法に基づく組合であり,同法84条4項によれば,組合の代表権を有する者の氏名,住所及び資格については,登記事項となっていることが認められる。
したがって,当該会員団体の代表者の氏名は,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められる。
なお,諮問庁は,当該会員団体等の代表者の氏名は,特定団体の情報に該当し,法5条2号イに該当するとも説明しているので,当該部分については,下記(2)において検討する。
(2) 法5条2号イ該当性
ア 文書1
(ア) 文書1は,特定保険業者の届出書であり,文書1の本件不開示部分には,特定団体の役員情報及び特定団体の出資金又は基金の総額が記載されていると共に特定団体の印影が記録されていることが認められる。
(イ) 特定団体の印影については,当該届出書が真正に作成されたものであることを示す認証的な機能を有する性質のものであり,不特定多数の者に公にしていないと認められることから,これを公にすれば,特定団体の各種書類の作成に悪用されるおそれがあるなど,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 特定団体の出資金又は基金の総額については,特定団体の財務内容を示す情報であると認められる。特定団体は特定の事業者だけが加入する任意団体(権利能力なき社団)であり,特定団体の出資金等の情報は公にされておらず,特定団体の組合員のみが知り得る情報であると認められ,当該団体の財務内容の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。
(エ) 諮問庁は,特定団体の役員の氏名及び役職名について,同団体の役員情報であり,法5条2号イに該当すると説明するが,代表者の氏名及び役職名は,上記(1)ア(イ)Dのとおり,慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であると認められるので,これを開示しても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,特定団体の役員の氏名及び役職名は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
イ 文書2
(ア) 文書2は,特定保険業者としての届出書を提出した特定団体の届出関係業務の状況が記載されており,文書2の本件不開示部分には,①共済等団体の概要のうち特定団体の代表者に関する情報,構成員の数及び業務全般の状況,②取扱共済等商品の概要,③財務運営の状況,④外部業務委託の状況,⑤今後の事業運営の予定等が記載されていることが認められる。
(イ) 文書2の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体が行う特定保険業に係る具体的な業務に関する情報,特定団体が扱っている共済等商品の内容が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の特定保険業者としての事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書2の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の本件不開示部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 上記(ア)①のうち代表者の氏名及び役職については,上記ア(エ)のとおりであり,法5条2号イに該当しない。また,代表者の住所及び連絡先は,上記(1)ア(イ)Dのとおり,特定団体の住所等であり,これを公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,文書2に記載された特定団体の代表者の氏名及び役職名並びに代表者の住所及び連絡先は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
(エ) 特定団体の組合員数については,特定団体と同じ業界の他の団体が会員数等を明らかにしていることが認められるから,これを公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しないので,開示すべきである。
なお,特定団体の組合員のうち共済加入者数については,上記(イ)と同様に,特定保険業者である特定団体の事業活動の規模を示す情報であると認められるので,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
ウ 文書3
(ア) 文書3は,募集活動等の状況に関する添付書類であり,文書3の本件不開示部分には,代表者の氏名及び役職,特定団体の共済事業に関する募集活動に関する情報が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。
(イ) 文書3の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の本件不開示部分には,特定団体の募集活動に関する指導方針・判断が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書3の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 文書3のうち特定団体の代表者の氏名及び役職は,上記イ(ウ)のとおりであり,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
エ 文書4
文書4は,特定団体の会員団体及び所属団体一覧であり,文書4の本件不開示部分には,当該会員団体等の代表者の氏名が記載されていることが認められる。
諮問庁は,当該会員団体等の代表者の氏名は,特定団体の情報に該当し,法5条2号イに該当すると説明するが,代表者の氏名は,上記(1)イのとおり,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められるので,これを開示しても,特定団体及び当該会員団体等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,当該会員団体等の代表者の氏名は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
オ 文書5及び文書7
(ア) 文書5及び文書7は,特定団体の会則,規約等であり,文書5はその全部が不開示とされ,文書7の本件不開示部分は,会則,規約等の本文のうち会則及び一部の規約等の名称以外の記載であることが認められる。
(イ) 文書5及び文書7の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体の業務,共済事業の内容,運営方法等,特定団体の事業内容及び事業方針が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端がうかがい知ることができるものであるから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書5及び文書7の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
(ウ) 文書5のうち別紙2に掲げる部分は,本件諮問に当たって,諮問庁が提出した理由説明書に記載されている文書の名称と同じものであることから,当該部分を公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,同条2号イに該当しないので,開示すべきである。
(エ) 文書7のうち別紙2に掲げる部分は,諮問庁が本件諮問に当たり,新たに開示することとした規程等の名称が規程等の本文に記載されている部分であり,当該部分を公にしても,規程等の具体的かつ詳細な内容までが明らかになるとは認められないため,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,法5条2号イに該当しないので,開示すべきである。
カ 文書6
文書6は,「特定保険業者届出添付書類について」という表題の文書であり,文書6の本件不開示部分には,特定団体が特定保険業者として行う事業に関する情報,事業規模,取扱共済等商品の内容,保険金額等,特定保険業者に係る事業内容及び事業方針が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書6の本件不開示部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
キ 文書8
(ア) 文書8は,特定団体の通常総会議案書であり,文書8の本件不開示部分には,特定団体の事業活動の内容,財務内容,経営方針等が記載されていることが認められる。
(イ) 文書8の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体の事業活動の内容,財務内容,経営方針等と共に,特定団体の事業活動等の重要事項に関する意思決定過程が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針,事業戦略及び財務状況の一端がうかがい知ることができるものであるから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書8の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
(ウ) 文書8のうち別紙2に掲げる部分は,特定団体の通常総会の次第及び資料目次の一部,当該総代会資料のうち次第に記載されている議案の名称等が記載されている部分並びに原処分において開示している財務諸表の表題,大区分の項目欄の名称等であり,当該部分を公にしても,特定団体に係る事業活動の内容,財務内容,経営方針等の具体的かつ詳細な内容までが明らかになるとは認められないため,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,法5条2号イにも該当しないので,開示すべきである。
3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,開示を求めた情報について,特定保険業者としての健全性を示すための資料であり,このような資料は,保険契約者等の保護を図る観点から,むしろ率先して公にすべき情報である旨主張するが,法5条2号イ該当性についての当審査会の判断は上記2(2)のとおりであり,異議申立人の主張は採用できない。
異議申立人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号及び2号イに該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同条1号及び2号イに該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分は,そのうち,別紙2に掲げる部分は,同条1号及び2号イのいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の部分は同条1号及び2号イに該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。
(第3部会)
委員 名取はにわ,委員 北沢義博,委員 高橋 滋
(別紙1)
① 文書1:特定保険業者の届出書
② 文書2:届出関係業務の状況(特定保険業者)質問表
③ 文書3:募集活動等の状況に関する添付資料
④ 文書4:会員団体及び所属団体一覧
⑤ 文書5:共済規約等一部改定(案)
⑥ 文書6:特定保険業者届出添付書類について
⑦ 文書7:会則,規約,要綱並びに規程集
⑧ 文書8:特定団体総会議案書
(別紙2) 開示すべき部分
(別紙3) 諮問庁において,新たに開示することとした部分(原処分変更予定部分)
諮問日 : 平成19年 6月18日(平成19年(行情)諮問第298号)
答申日 : 平成20年 7月10日(平成20年度(行情)答申第143号)
事件名 : 特定団体が関東財務局に提出した特定保険業者の届出書等の一部開示決定に関する件
第1 審査会の結論
特定団体が関東財務局に提出した別紙1に掲げる特定保険業者の届出書及び添付書類(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別紙2に掲げる部分を開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
第3 諮問庁の説明の要旨
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成19年6月18日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年7月3日 審議
④ 同年11月6日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成20年4月15日 審議
⑥ 同年6月10日 審議
⑦ 同年7月8日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書等について
(1) 本件対象文書
本件対象文書は,特定団体が特定保険業者の届出をするために,関東財務局に提出した別紙1に掲げる8文書である。
(2) 保険業法の改正と本件対象文書
平成17年4月22日,保険業法等の一部を改正する法律(平成17年法律第38号)が成立した。この保険業法の改正は,特定の者を相手方とする保険の引受けを行う共済事業(根拠法のない共済事業)について,契約者保護の観点から,保険業法の適用範囲の見直しを行い,原則として保険業法の契約者保護ルールを適用すること等を内容とするものである。
このため,平成18年4月1日現在で共済事業を行っており,引き続き保険の引受事業を行う者は,平成18年9月末日までに財務局に特定保険業者として届出を行う必要があるとされた。
本件対象文書は,特定団体(権利能力なき社団)が実施してきた共済事業につき,上記の保険業法の改正により,特定団体が関東財務局に対して特定保険業者としての届出をするために提出した文書である。
(3) 原処分等
処分庁は,原処分において,文書1,文書2,文書4及び文書6ないし文書8の一部並びに文書3及び文書5の全部について,法5条1号及び2号イに該当するとして,不開示とした。
諮問庁は,原処分で不開示とした部分のうち,別紙3に掲げる部分は開示することとしていることから,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分(以下「本件不開示部分」という。)について,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,その不開示情報該当性を検討する。
2 不開示情報該当性について
(1) 法5条1号該当性
ア 文書1ないし文書3,文書6及び文書8
(ア) 文書1ないし文書3,文書6及び文書8の本件不開示部分には,特定団体の役員,担当者及び特定保険業者募集人の氏名,役職名,住所及び連絡先が記載されていることが認められる。
特定団体の役員,担当者及び特定保険業者募集人の氏名,役職名,住所及び連絡先は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められる。
(イ) 次に,法5条1号ただし書該当性及び部分開示の可否を検討する。
A 異議申立人は,特定団体の代表者,役員等の氏名は,当該団体の情報誌や特定新聞等においても実名で報道されており,当該情報は,法5条1号ただし書イに該当するため,開示すべきであると主張する。
B これに対し,諮問庁は,次のとおり説明する。
特定団体は,権利能力なき社団であり,登記により代表者,役員等が公開されているものではない。また,特定団体の情報誌は特定団体の組合員に配られるものであり,一般に配布されているものではない。
上記のことから,特定団体の代表者,役員等の氏名は,法5条1号ただし書イに該当しないと主張する。
C 特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,これを法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されていると認められる事情も見当たらず,当該情報は,法5条1号ただし書イに該当しないと認められる。さらに,法5条1号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しない。
そして,特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,一体として特定の個人を識別することができる部分であることから,法6条2項による部分開示の余地はない。
したがって,特定団体の役員以外の担当者及び特定保険業者募集人の氏名,住所,連絡先等は,法5条1号の不開示情報に該当し不開示とすることが妥当である。
D 当審査会において,特定新聞の記事を確認したところ,特定団体自らが役員の氏名及び役職を記載した記事下広告を掲載していることが認められることから,特定団体の役員の氏名及び役職名は,法5条1号ただし書イの慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当すると認められる。
また,文書2に記載されている特定団体の代表者の住所及び連絡先は,代表者が居住している住所等ではなく,特定団体の住所等であり,特定団体に所属する特定協同組合のホームページに掲載されていることが認められることから,役員の氏名及び役職と同様,法5条1号ただし書イに該当すると認められる。
なお,諮問庁は,特定団体の役員の氏名等は,特定団体の役員情報に該当し,法5条2号イに該当するとも説明しているので,当該部分については,下記(2)において検討する。
イ 文書4
文書4の本件不開示部分には,特定団体の会員団体及び所属団体の代表者の氏名が記載されていることが認められる。
当該会員団体等の代表者の氏名は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められるが,当該会員団体等は,中小企業等協同組合法に基づく組合であり,同法84条4項によれば,組合の代表権を有する者の氏名,住所及び資格については,登記事項となっていることが認められる。
したがって,当該会員団体の代表者の氏名は,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められる。
なお,諮問庁は,当該会員団体等の代表者の氏名は,特定団体の情報に該当し,法5条2号イに該当するとも説明しているので,当該部分については,下記(2)において検討する。
(2) 法5条2号イ該当性
ア 文書1
(ア) 文書1は,特定保険業者の届出書であり,文書1の本件不開示部分には,特定団体の役員情報及び特定団体の出資金又は基金の総額が記載されていると共に特定団体の印影が記録されていることが認められる。
(イ) 特定団体の印影については,当該届出書が真正に作成されたものであることを示す認証的な機能を有する性質のものであり,不特定多数の者に公にしていないと認められることから,これを公にすれば,特定団体の各種書類の作成に悪用されるおそれがあるなど,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 特定団体の出資金又は基金の総額については,特定団体の財務内容を示す情報であると認められる。特定団体は特定の事業者だけが加入する任意団体(権利能力なき社団)であり,特定団体の出資金等の情報は公にされておらず,特定団体の組合員のみが知り得る情報であると認められ,当該団体の財務内容の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。
(エ) 諮問庁は,特定団体の役員の氏名及び役職名について,同団体の役員情報であり,法5条2号イに該当すると説明するが,代表者の氏名及び役職名は,上記(1)ア(イ)Dのとおり,慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であると認められるので,これを開示しても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,特定団体の役員の氏名及び役職名は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
イ 文書2
(ア) 文書2は,特定保険業者としての届出書を提出した特定団体の届出関係業務の状況が記載されており,文書2の本件不開示部分には,①共済等団体の概要のうち特定団体の代表者に関する情報,構成員の数及び業務全般の状況,②取扱共済等商品の概要,③財務運営の状況,④外部業務委託の状況,⑤今後の事業運営の予定等が記載されていることが認められる。
(イ) 文書2の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体が行う特定保険業に係る具体的な業務に関する情報,特定団体が扱っている共済等商品の内容が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の特定保険業者としての事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書2の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の本件不開示部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 上記(ア)①のうち代表者の氏名及び役職については,上記ア(エ)のとおりであり,法5条2号イに該当しない。また,代表者の住所及び連絡先は,上記(1)ア(イ)Dのとおり,特定団体の住所等であり,これを公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,文書2に記載された特定団体の代表者の氏名及び役職名並びに代表者の住所及び連絡先は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
(エ) 特定団体の組合員数については,特定団体と同じ業界の他の団体が会員数等を明らかにしていることが認められるから,これを公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しないので,開示すべきである。
なお,特定団体の組合員のうち共済加入者数については,上記(イ)と同様に,特定保険業者である特定団体の事業活動の規模を示す情報であると認められるので,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
ウ 文書3
(ア) 文書3は,募集活動等の状況に関する添付書類であり,文書3の本件不開示部分には,代表者の氏名及び役職,特定団体の共済事業に関する募集活動に関する情報が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。
(イ) 文書3の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の本件不開示部分には,特定団体の募集活動に関する指導方針・判断が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書3の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
(ウ) 文書3のうち特定団体の代表者の氏名及び役職は,上記イ(ウ)のとおりであり,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
エ 文書4
文書4は,特定団体の会員団体及び所属団体一覧であり,文書4の本件不開示部分には,当該会員団体等の代表者の氏名が記載されていることが認められる。
諮問庁は,当該会員団体等の代表者の氏名は,特定団体の情報に該当し,法5条2号イに該当すると説明するが,代表者の氏名は,上記(1)イのとおり,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められるので,これを開示しても,特定団体及び当該会員団体等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。
したがって,当該会員団体等の代表者の氏名は,法5条1号及び2号イのいずれにも該当しないので,開示すべきである。
オ 文書5及び文書7
(ア) 文書5及び文書7は,特定団体の会則,規約等であり,文書5はその全部が不開示とされ,文書7の本件不開示部分は,会則,規約等の本文のうち会則及び一部の規約等の名称以外の記載であることが認められる。
(イ) 文書5及び文書7の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体の業務,共済事業の内容,運営方法等,特定団体の事業内容及び事業方針が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端がうかがい知ることができるものであるから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書5及び文書7の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
(ウ) 文書5のうち別紙2に掲げる部分は,本件諮問に当たって,諮問庁が提出した理由説明書に記載されている文書の名称と同じものであることから,当該部分を公にしても,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,同条2号イに該当しないので,開示すべきである。
(エ) 文書7のうち別紙2に掲げる部分は,諮問庁が本件諮問に当たり,新たに開示することとした規程等の名称が規程等の本文に記載されている部分であり,当該部分を公にしても,規程等の具体的かつ詳細な内容までが明らかになるとは認められないため,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,法5条2号イに該当しないので,開示すべきである。
カ 文書6
文書6は,「特定保険業者届出添付書類について」という表題の文書であり,文書6の本件不開示部分には,特定団体が特定保険業者として行う事業に関する情報,事業規模,取扱共済等商品の内容,保険金額等,特定保険業者に係る事業内容及び事業方針が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針及び事業戦略の一端をうかがい知ることができるものであることから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書6の本件不開示部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
キ 文書8
(ア) 文書8は,特定団体の通常総会議案書であり,文書8の本件不開示部分には,特定団体の事業活動の内容,財務内容,経営方針等が記載されていることが認められる。
(イ) 文書8の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分には,特定団体の事業活動の内容,財務内容,経営方針等と共に,特定団体の事業活動等の重要事項に関する意思決定過程が具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。当該情報は,特定団体の事業方針,事業戦略及び財務状況の一端がうかがい知ることができるものであるから,これを公にすると,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,文書8の本件不開示部分のうち別紙2に掲げる部分以外の部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示が妥当である。
(ウ) 文書8のうち別紙2に掲げる部分は,特定団体の通常総会の次第及び資料目次の一部,当該総代会資料のうち次第に記載されている議案の名称等が記載されている部分並びに原処分において開示している財務諸表の表題,大区分の項目欄の名称等であり,当該部分を公にしても,特定団体に係る事業活動の内容,財務内容,経営方針等の具体的かつ詳細な内容までが明らかになるとは認められないため,特定団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず,法5条2号イにも該当しないので,開示すべきである。
3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,開示を求めた情報について,特定保険業者としての健全性を示すための資料であり,このような資料は,保険契約者等の保護を図る観点から,むしろ率先して公にすべき情報である旨主張するが,法5条2号イ該当性についての当審査会の判断は上記2(2)のとおりであり,異議申立人の主張は採用できない。
異議申立人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号及び2号イに該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同条1号及び2号イに該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分は,そのうち,別紙2に掲げる部分は,同条1号及び2号イのいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の部分は同条1号及び2号イに該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。
(第3部会)
委員 名取はにわ,委員 北沢義博,委員 高橋 滋
(別紙1)
① 文書1:特定保険業者の届出書
② 文書2:届出関係業務の状況(特定保険業者)質問表
③ 文書3:募集活動等の状況に関する添付資料
④ 文書4:会員団体及び所属団体一覧
⑤ 文書5:共済規約等一部改定(案)
⑥ 文書6:特定保険業者届出添付書類について
⑦ 文書7:会則,規約,要綱並びに規程集
⑧ 文書8:特定団体総会議案書
(別紙2) 開示すべき部分
文書名 | 開示すべき部分 | |
文書1 | 1枚目 | 13行目の1文字目ないし4文字目 |
3枚目 | 不開示部分 | |
文書2 | 1枚目 | 20行目の3文字目ないし6文字目,21行目の3文字目ないし16文字目及び22行目の4文字目ないし18文字目 |
2枚目 | 10行目の18文字目ないし23文字目 | |
文書3 | 1枚目 | 3行目の1文字目ないし4文字目 |
文書4 | 1枚目及び2枚目 | 代表者欄 |
文書5 | 1枚目 | 1行目 |
文書7 | 17枚目 | 1行目 |
20枚目 | 1行目 | |
22枚目 | 1行目 | |
24枚目 | 1行目 | |
25枚目 | 1行目 | |
28枚目 | 1行目 | |
文書8 | 3枚目 | 1行目ないし11行目,12行目の1文字目ないし5文字目,13行目,14行目の1文字目ないし5文字目及び15行目ないし24行目 |
4枚目 | 1行目ないし6行目 | |
13枚目 | 1行目ないし6行目 | |
17枚目 | 1行目 | |
18枚目 | 1行目ないし6行目 | |
23枚目 | 1行目 | |
24枚目 | 1行目及び2行目 | |
25枚目 | 1行目及び2行目 | |
29枚目 | 1行目及び2行目 | |
30枚目 | 1行目及び2行目 | |
35枚目 | 1行目ないし6行目 | |
39枚目 | 1行目ないし5行目及び表の大区分の項目欄の名称及び合計欄の項目名 | |
40枚目 | 1行目ないし5行目及び表の大区分の項目欄の名称及び合計欄の項目名 |
(別紙3) 諮問庁において,新たに開示することとした部分(原処分変更予定部分)
文書名 | 原処分変更予定部分 | |
文書2 | 1枚目 | 15行目の17文字目ないし23文字目及び16行目ないし18行目 |
2枚目 | 4行目,8行目,9行目及び15行目 | |
3枚目 | 2行目及び3行目 | |
文書3 | 1枚目 | 3行目1文字目ないし4文字目以外の部分 |
4枚目及び5枚目 | 全部 | |
文書4 | 1枚目及び2枚目 | 代表者欄以外の部分 |
文書6 | 4枚目 | 6行目 |
文書7 | 1枚目 | 不開示部分 |
文書8 | 1枚目 | 不開示部分 |
2枚目 | 全部 |