付け焼き刃の覚え書き

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「彩雲国物語 紫闇の玉座」 雪乃紗衣

2011-07-10 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「……さあ、僕も行こう。最悪よりもマシなだけの世界さえ、守れなくてどうする?」
 次の世代に命をつなぐため、大人はぎりぎりまで戦うものだと紅州州牧、劉志美。

 彩雲国初の女性官吏、紅秀麗の生涯を描いた『彩雲国物語』もついに完結。すてきなポリティカル・ラブコメでした。たぶん……。

 秀麗の命の蝋燭は今にも消えようとしているが、やらねばならないことは多い。その命の最後まで、秀麗は“王の官吏”として、劉輝の官吏として戦い続けることを選んだのだ。
 そして紫劉輝も毎日玉座に座る。臣下は誰も彼のことを無視し、愚王とあざ笑っていても、それが彼にできる唯一のことだった……。

 この前の巻までで秀麗の官吏としての成長過程と能力の高さは十分に伝わっていて、秀麗の恋愛観・結婚観は鉄壁で動きません。なのでこの最終2巻は、人は良いけれど為政者としては凡庸な愚王だった輝が、自らの立ち位置をはっきりさせるまでの物語。
 自分の信じるもの、護るべきもののために戦うというのは決して綺麗事だけで済むものではない。しかし、踏み越えてはならない一線はあってしかるべきだし、それが国が滅ぶか否かの国難の時であれば、自分の命を賭けてでもやらねばならないことは幾らでもある。
 それが、小松左京の『首都消失』や小川一水の『復活の地』、そしてこの『彩雲国物語』にあって、今の日本の政治に見えないもののような気がします。
 呉越同舟もあれば裏切りもあり、どんなときでも自分の支持する者、所属する集団のことを考えてはいるけれど、まずなすべきことは民を救い、国を護ることだ……とわかっている。
 この前提がしっかりしているから、面白いんです。

 信じられないことに、生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、裏切るか裏切られるか、国を失うか否かという綱渡り的危機の中に、さりげなくなくまき散らされた笑いのツボは、ここ最近の中でもかなり多い方。1巻当時に戻ったかのようです。奇跡はもう起きない、秀麗の命脈は尽きた、政事とは何か、虫害や飢饉は食い止められるのかという、重い話題、暗いドラマの合間合間にさりげなく置かれたボケとツッコミの多いこと……。
 信じられないと言えばもう一つ。あれだけ陰謀を巡らせ、人を殺し、すべてをひっくり返そうとしていた人の最後の立ち位置があれ……というのはすごくポリティカル小説的です。ぜんぜん後悔も反省もしてないですよね。

 最終巻ということもあってか、あるいは最終巻だというのに、今まで名前だけだったような、名前も出てこなかった木端役人から高官まで官吏が続々登場し、久しぶりの人まで登場人物が一気に増えてあーだこーだやっているのに、人物紹介が上巻にちょろっとあるだけで、「この人、だれ?」という人が続出。その一方で初期のメインキャラはどんどん出番が減り、武でも文でも格上の脇役が増え、女性の尻に敷かれ、どいつもこいつも情けない限り。今まで下っ端AとかBクラスのキャラの方がよほど頑張ってます。
 ラストについては、「人はどれだけ長く生きたかではなく、どれだけ良く生きたかで評価される」と考えていますので、ハッピーエンドなんだろうと考えます。新井素子だって、ハッピーエンドとは結婚式の直後に頭上から巨大な岩が落ちてきてみんなペッチャンコになることではないかと書いているじゃないですか。

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